はじめに~完新世から人新世へ~
オゾンホールの研究でノーベル化学賞を受賞したパウル・クルッツェンが、地質学的見地から「人新世(ひとしんせい)」という概念を提起したのは、今世紀初頭のことだった。最終氷期後、今に至るまで1万1700年にわたって続いてきた温和で安定的な「完新世(かんしんせい)」が終わり、「人間活動が地球に及ぼす影響が自然の諸力に匹敵するほどにまで高まり、地球的条件そのものを変えてしまう」(篠原雅武「人新世の哲学」=ちくま新書『世界哲学史1』収録)という未知の地質時代への突入である。
実際、私たちの惑星は、近代以降の人類の圧倒的な経済活動に伴う二酸化炭素の大量排出やプラスチック、コンクリートなどの人工物の過剰蓄積によって大きく改変され、温暖化、異常気象、海面上昇、さらには大規模自然災害の多発や生態系の破壊的変化などに喘(あえ)いでいる。人新世の学説が今や自然科学の枠を越えて人文・社会科学の分野にまで広がり、それぞれの立場から「自然との共存・共生」が訴えられているゆえんである。 続きを読む





