沖縄県知事選のゆくえ⑥——なぜか180度変わった防衛政策

ライター
松田 明

こっそり消された名前

 とても奇妙なことが起きた。
 8月31日にアップした、この「沖縄県知事選のゆくえ」シリーズ①「県民の思いはどう動くか」のなかで、筆者は玉城デニー氏が沖縄県防衛協会の顧問に名を連ねていることを指摘した。
 同協会は、「沖縄県民の自衛隊に対する理解を深め、防衛思想の普及啓蒙、自衛隊との親睦を図る」ことなどを目的とする組織だ。
 玉城氏が日米安保容認と明言していることなどと合わせ、玉城陣営の最大の支援勢力である日本共産党や社民党の主張と矛盾することを書いたのだった。
 ところが、数日後にこの防衛協会のページから玉城デニー氏の名前が消えた。
 防衛協会に問い合わせた人によると、8月31日付で「一身上の都合」という理由の退会届が郵送されてきたという(「玉城氏が沖縄県防衛協会(顧問)を退会していた」)。
 玉城氏は衆議院議員に初当選した2009年から沖縄県防衛協会の顧問を引き受け、毎年の会費も納付。今年度の会費も納付済みで、総会にも出席していたとのこと。
 過去の玉城氏のツイートにも、沖縄県の自衛隊関連行事に参加したことを誇らしげに紹介する投稿はいくつもある。

 沖縄市民会館で行われた、陸上自衛隊第15音楽隊と米海兵隊第3遠征軍音楽隊のジョイントコンサート。迫力と繊細を表現する素晴らしい演奏。感動です。(2011年9月17日のツイート)

 航空自衛隊那覇基地で開催されているエアフェスタ。好天下、家族連れで賑わう。(2012年10月21日のツイート)

 出馬表明の直後に、あわてて防衛協会を退会したのはなぜなのか。
 仮にも沖縄県選出の国会議員という公人だったのである。玉城氏の防衛政策に共鳴していた有権者もいるはずだ。
 県知事選に出るから退会するというのなら、そのように公表すればいいし、すべきでもあろう。
 何かよほど都合が悪かったのだろうか。

「有事に備えた防衛大綱を」

 民主党政権だった2010年4月6日、玉城デニー氏は与党・民主党の安全保障委員会の理事として、国会で次のように政府に求めた。

 中国の台頭と、アメリカのグアムへの2014年までのある一定兵力の移転、それに伴って、今回策定するとしている新大綱の中で、これまでに、この数字を見た上で見ますと、やはりどんどん、自衛隊の主要装備そのものもずっと減り続けています。その一方で、中国はどんどん力を増してきているということが数字上でもはっきりしています(「衆議院議事録」平成22年4月6日)※傍線は筆者

 先日は竹島の、韓国のまた軍事設備を増強するようなニュースもありましたし、一方で、私たち沖縄県のちょうど国境であります尖閣にもし何らかの事態があったときに、果たしてアメリカは、自国の利益のことを思った場合に積極的に展開するかということを考えると、やはりある一定、日本の方向性もつけておく必要があるということが、今回の新しい防衛大綱の策定には必要になってくると思います。
 そうすることによって、アメリカの長期プレゼンスが次第にほかのグローバルな地域に展開していき、沖縄はもちろんですが、北海道から与那国まで南北にずっと長い我が国ですので、我が国のどこにあってもしっかりとした自国の防衛が果たせるような、そういう大綱もつくっていただきたいと思います。(同)※傍線は筆者

 中国や韓国の軍事的脅威を述べ、有事の際に米軍が日本を守ってくれない場合まで想定して、「沖縄はもちろん」北海道から与那国まで「どこにあってもしっかりとした自国の防衛が果たせるような」新たな防衛大綱を作ってほしいと訴えているのである。

「日米沖縄」で同盟深化求める

 さらに玉城氏は、2年後の2012年3月16日の衆議院安全保障委員会でも、沖縄県の自衛隊の兵力増強を政府に求めた。

 自衛隊基地関係の「沖縄県における自衛官数」というのがございます。それをごらんいただきたいんですが、総数6400人、陸上自衛官2150人、海上自衛官1300人、航空自衛官が2950人。海上自衛官は海の上に出ていらっしゃる方々もいますので実数ではないんですが、それでも6400人で、東西1000キロ、南北400キロを守ろうというのは、私は、そこにこそもっと国力としての力を注ぐべきではないかというふうに思います
 つまり、米軍との日米共同の中では、日本側からアメリカに対して、このパッケージ論の切り離しが具体的にアメリカと一緒に協議をされるのであれば、まさに沖縄の声もそこに加えて、日米沖縄という形で、しっかりと日米同盟の深化へは協力をしていく姿勢を示していただきたいと思います。
 しかし、そのためには、自衛隊のさらなる増強といいますか、人員の確保、あるいは装備の更新などは欠かせないことだと思います。(「衆議院議事録」平成24年3月16日)※傍線は筆者

 これも玉城氏が与党議員だった時期の発言だ。
 沖縄県の自衛隊のさらなる増強、人員の確保、装備の更新を求め、日米同盟を「日米沖縄」という形で深化させよと政府に迫っているのである。
 なお、これらは〝政治の師〟と仰ぐ小沢一郎氏の安全保障政策の請け売りである。

「基地を置くのは裏切り行為」

 ところが、沖縄県知事選の候補者になった途端に、玉城氏はまるで正反対の防衛政策を語りはじめた。

 僕は有事の前提を置かずに、平時における外交というのが一番大事で、相互関係が成り立っているのに基地を置くということは、ある種の裏切り行為と取られてもおかしくない。(8月28日/IWJ中継市民によるインタビュー動画より)

 与党の安全保障委員会理事であった時代には、中国や韓国の軍事的脅威や国境への侵犯を理由にあげ、有事の際に米軍が十分に日本を守らない場面さえ想定して、繰り返し日本全土の防衛力強化と、とりわけ沖縄での自衛隊増強を政府に求めていた。
 それが一転、外交防衛には「有事の前提」を置くべきでないと言い、基地を置くのは近隣国との信頼関係への「裏切り行為」だと語っているのである。
 この玉城氏のあきれた豹変ぶりについては、SNS上でも多くの人が指摘している。

 とても同じ人間の主張とは思えないのだが、防衛協会からあわててコッソリ退会したことも含め、これらの豹変は玉城氏を担ぐ「オール沖縄」、すなわち日本共産党や社民党への配慮にほかならない。
 国会で近隣諸国の脅威を語り、有事に備えて防衛力を増強せよと訴えていたのが本音なのか。有事を前提にすること自体が近隣諸国への裏切りだと語るのが本音なのか。
 どちらかが嘘ということになるが、沖縄県民はどちらの主張を信用すればいいのか。
 玉城デニー氏の二枚舌は、政策の整合性がつかない共産党との「野党共闘」という枠組みが、どれほど矛盾に満ち、現実の政策をいびつなものにするかを象徴している。
 それにしても、本当に節操がない、信用のできない人物である。

「沖縄県知事選のゆくえ」シリーズ:
沖縄県知事選のゆくえ①――県民の思いはどう動くか
沖縄県知事選のゆくえ②――立憲民主党の罪深さ
沖縄県知事選のゆくえ③――すっかり変貌した「オール沖縄」
沖縄県知事選のゆくえ④――「基地問題」を利用してきた人々
沖縄県知事選のゆくえ⑤――「対話」の能力があるのは誰なのか
沖縄県知事選のゆくえ⑥――なぜか180度変わった防衛政策

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