沖縄県知事選のゆくえ②——立憲民主党の罪深さ

ライター
松田 明

2ヵ月で公約を反故に

 立憲民主党の枝野幸男代表は、8月29日、那覇市内で記者会見を開いた。
 この席で、枝野代表は沖縄県知事選で共産党など「オール沖縄」が支持する玉城デニー氏(自由党幹事長)を、立憲民主党としても支援することを表明。
 あわせて、同党の沖縄県連を設立し、県連代表に有田芳生参議院議員が就任することを発表した。
 注目されたのは、枝野氏が普天間飛行場の閉鎖に伴う名護市辺野古への移設に、立憲民主党として「反対」すると語ったことだ。
 辺野古移設の問題をここまでこじれさせた最大の責任は、かつて枝野氏らが率いてきた民主党政権にある。
 日米の両政府では、2006年の「日米合意」で、普天間飛行場代替施設を2014年までに名護市辺野古に設置するとしていた。(参照:外務省「再編実施のための日米のロードマップ」)
 これに対し、2009年7月、総選挙を目前に沖縄で講演した民主党の鳩山由紀夫代表(当時)は、普天間飛行場の移設先について「最低でも県外」と発言した。(民主党アーカイブ ニュース2009/07/19
 翌8月の総選挙で民主党は戦後最多となる308議席を獲得。民主党政権が誕生し、鳩山氏は首相の座に就く。
 ところがわずか2ヵ月後の10月になると、岡田外相(当時)が、

「県外というのは事実上考えられない状況だ」と発言。「県外、国外移設」を断念せざるを得ないとの見解を示し、早期に閣内で共有したいとの考えも明らかにした。(朝日新聞デジタル/2009年10月23日)

と方針転換を発表。前述の朝日新聞は「公約違反」と批判している。

 民主党は県外、国外への移設を念頭に、衆院選マニフェスト(政権公約)で「米軍再編の見直し」を掲げていた。辺野古移設を容認すれば、公約違反との批判を招くことは必至。社民党との連立も揺らぎかねない。米側と合意できたとしても、地元の反対が強まって、普天間移設が再び暗礁に乗り上げる恐れもある。(同)

辺野古を決めた民主党政権

 結局、2010年5月になって民主党政権は米国政府と共同声明を発表して、普天間飛行場の移設先を辺野古周辺に決定。「最低でも県外」などと、あまりに軽率な空手形を切った鳩山内閣は、総辞職に追い込まれた。
 周知のとおり、今の立憲民主党は、この民主党が民進党と名前を変え、そこから分裂した政党だ。
 枝野代表をはじめ、代表代行、副代表、幹事長、党務三役、最高顧問など、そろって民主党の中枢にいた議員ばかり。文字どおり民主党政権の面々が看板だけ掛け替えた政党である。
 その彼らが、沖縄県知事選の直前になって、自分たちが政権の座にいた当時に日米共同声明で決定し推し進めてきた辺野古移設を、ゼロベースに戻すというのだ。
 会見で枝野代表は、

 鳩山政権の閣僚の一員だった責任から逃げるつもりはないが、新しい政党として一から議論を進めた結果、辺野古に基地を造らない、普天間飛行場を返還する、日米安保の堅持の三つは併存可能と判断した(琉球新報電子版/8月29日)

と述べた。
 同じ人間たちが「新しい政党になったから」という理由で、政策を180度転換する。この節操のなさには批判が相次いだ。

影響強める共産党

 沖縄県知事選の1ヵ月前になって、あわてて党の県連を立ち上げた立憲民主党。
 よほどの急ごしらえだったのだろう。県連代表になった有田芳生議員は、よりによって玉城デニー氏の出馬会見を伝えるツイートで、2度も「玉木デニー」と連投して、あとから削除した。
 支援する政党の県連代表が候補者の名前を正確に覚えていないというお粗末さ。
 この立憲民主党はじめ、玉城候補を支援する陣営が、目立たせないようにしようと腐心しているのが、共産党の存在だ。
 2014年の県知事選では、保守層まで巻き込んだ「オール沖縄」が翁長氏を当選させた。
 だが、その後の「オール沖縄」は共産党が主導し、保守層は離れていった。

 そもそも保守層の一部が離れ、オール沖縄内部における共産党の影響力が強まっていることへの警戒感も強い。
 立憲民主党幹部は「共産党が前面に出てこなければ勝てる」と語り、保革対決の構図となることを避けたい考えだ。(朝日新聞デジタル/8月22日)

 一方の共産党は、選挙期間中だけ「オール沖縄」という〝トロイの木馬〟に入って、選挙にさえ勝てば、ふたたび党勢拡大につなげられるという目算がある。
 前回の県知事選で、その〝うまみ〟を知った共産党は、その後の参院選などで巧みに他党や市民グループなどと「政治団体」を仕立て、無党派層の票を取り込もうとしてきた。

 共産党中央委員会は2014年の知事選後、党幹部を沖縄に派遣し、翁長氏の勝因などを分析した。選挙で政治団体に組み込まれれば、党の存在感は一時的に低下するが、勝てば与党入りでき、その後、党勢拡大につなげることができる――という結論に至った。(読売新聞/2016年4月7日)

 政権の座に就いていたときの政策さえ、あっさり否定してしまう立憲民主党。
 そもそも共産党と〝野党共闘〟したことが、自分たちを分裂させてしまったことを、早くも忘れてしまったのだろうか。

「沖縄県知事選のゆくえ」シリーズ:
沖縄県知事選のゆくえ①――県民の思いはどう動くか
沖縄県知事選のゆくえ②――立憲民主党の罪深さ
沖縄県知事選のゆくえ③――すっかり変貌した「オール沖縄」
沖縄県知事選のゆくえ④――「基地問題」を利用してきた人々
沖縄県知事選のゆくえ⑤――「対話」の能力があるのは誰なのか
沖縄県知事選のゆくえ⑥——なぜか180度変わった防衛政策

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