新型コロナウイルス特集②――〝陰謀論〟を語る人々

ライター
松田 明

葬祭関係者がデマを否定

 3月19日に出された専門家会議の『新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言』は、依然として今後「爆発的な感染拡大を伴う大規模流行」の恐れがあることを警告しつつ、現時点で日本が、

 この感染症を一定の制御下に置くことができていることが、諸外国との患者発生状況と死亡者数の差につながっている

と指摘している。
 日本での死亡者数の拡大がきわめて緩やかになっているにもかかわらず、日本政府がPCR検査を絞ることで感染者数を低く偽装しているなどと主張することは、あまりにも馬鹿げている。
 連日のようにワイドショー等に出演していた医師が、3月17日に「火葬場が、いつもの2割増しくらいで忙しい、と聞きました。何故でしょうね?」等とツイッターに思わせぶりな投稿をした。
 すると即座に、全国の葬祭関係者や僧侶などから、そのような事実はなく、医師がデマを流すべきではないという批判のリプライが寄せられ、医師は早々にこの投稿を削除している(togetter「【まるで震災時の放射能デマ】火葬場が忙しくなった(死者が増えている)という話が流れ、葬儀関係者が否定する羽目に」))。
 安倍政権を批判する人々のなかには、政府(実際には各地方自治体)の発表する「死亡者数」など信用できないと公言する者もいるが、これも子どもじみた〝陰謀論〟でしかない。
 医療の最前線にいる医師たちが、原因不明の重篤な肺炎患者を前にすれば自分たちの身を守るために新型コロナウイルスを疑うだろうし、そのような肺炎患者が急増しているなら、それを隠ぺいする理由などない。
 葬儀件数があきらかに例年より増えていれば、葬祭関係者たちが真っ先に気づくだろう。それとも、日本中のすべての病院や葬祭関係者が、安倍政権に忖度して口裏合わせをしているというのだろうか。
 冷静に考えて、日本が発表している新型コロナウイルスの「死亡者数」に、わざわざ疑念を挟む余地はない。

何のための検査なのか

 参考までに、例年の日本国内でのインフルエンザ感染者数は約1000万人である。また、インフルエンザによる国内での死亡者数は、毎年1万人にのぼる。これは交通事故死亡者数の3倍近い数だ(厚生労働省「新型インフルエンザに関するQ&A」)
 メディアがしばしば報じる、「死亡者数÷感染者数」の「死亡率」だけを見ると、日本は世界のなかでも多いほうに入るのだが、実際の死亡者数とその増え方を見るかぎり、現時点までの日本の対処は先進諸国のなかでも事態の制御に成功している。
 PCR検査は、人々が不安を払拭するためにおこなえばいいというものではない。
 あくまでも重症化している肺炎患者などの感染を確認し、あるいは濃厚接触者の感染の有無を確認して、医療関係者や家族などへの集団感染の連鎖を防止することが第一義というのが日本の方針だ。
 感染が確認できたところで、治癒する特効薬はないのだから、重症患者は相応の設備の整った医療機関で治療にあたり、医療崩壊を避ける意味でも軽症者や無症状者は自宅で静養・待機するほかはない。
 政府や専門家会議が「不要不急の外出を控える」よう呼びかけ、最も感染拡大のリスクを高める環境(①換気の悪い密閉空間、②人が密集している、③近距離での会話や発声が行われる、という3つの条件が同時に重なった場)での行動を十分抑制するよう要請しているのは、そのためである。
 こうした文脈をすべて無視して、日本政府が感染者数を低く見せたいためにPCR検査の件数を絞っているなどと語る〝陰謀論〟は、社会に不安を広げるだけの害悪でしかない。

「バカの国」と煽る議員

 残念ながら日本では、週刊誌やワイドショーのみならず、国会議員のなかにもこういった幼稚で悪質な〝陰謀論〟を吹聴する人々がいる。
 3月7日、国民民主党の原口一博・国対委員長は、

 これから専門家が発表する数字は、「想定外の多さ」だと断言できるだろう。それは、算数の世界だからだ。検査を最小限に抑えてきたのだから当たり前だ。 #バカの国 は、専門家が専門家でない為に人々が感染。手に負えなくなって本当の事を言い始めるなら最初から言うべき
(原口一博議員の3月7日のツイート)

とツイートした。
 さらに3月22日には、日本での感染拡大の速度が緩やかになっているグラフを挙げて、

①日本の感染者数グラフは、数学的に見てもおかしいのでは? 恣意的?
②無症状者からも感染すると言っているのに何故、検査しないか?
③爆発的感染拡大危険性を50日後の3月末としている根拠は何か?
④空気感染が起きていないと言う根拠は何か?
⑤「感染症専門家」だけで対応できるのか?
(原口一博議員の3月22日のツイート)

とツイッターに投稿。
 あまりの無知と無責任ぶりに対して批判が殺到し、炎上した。
 3月16日にWHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長が、「検査。検査。検査です」と勧告したことが報道されると、今度は立憲民主党の山井和則議員が早速、17日の衆議院厚労委員会で事務局長の発言を読みあげ、自信たっぷりに日本政府を問いただした。

 わかりますか、これ?
 これ私、日本に言われているんじゃないかと思うんです。
 今や先進国で最も検査数が少ない国のひとつは日本なんです。
 WHOがともかく検査しなさいと言ってる、この積極的検査という方針の真っ向から反対をやっているのが日本ではないかと私は心配してるんです。
(YouTube 国会中継 衆議院厚生労働委員会3月17日)

 答弁に立った加藤勝信厚労相は呆れた表情で、

 テドロス事務局長から日本は非常に封じ込め、うまくやっている、こういう風に評されているんですよ。
 これは日本向けに言っておられるというわけではなくて、広く世界向けに言っておられるんだろうというふうに思います。(同)

と、山井氏の妄想を一蹴した。

WHOが出した「注釈」

 じつはWHOは誤解を招かないように即座に声明文(WHO)を公表し、この勧告は濃厚接触者が症状を示した場合に関してだと注釈をつけている。
 政権に批判的な東京新聞でさえ、3月17日のWEB版で、

 検査範囲の無条件な拡大は医療機関のパンクを招きかねず、専門家の間では慎重論が根強い。発言直後、WHOは異例の早さで発言記録を公表し「感染者と接触した人が(発熱などの)症状を示した場合にのみ、検査を行うことをWHOは勧めています」と注釈を付した。(「東京新聞 TOKYO Web」3月17日

と、このことを報じている。
 つまり、WHOのテドロス事務局長の発言は、山井議員が言うように日本に向けたものでもなければ、すべての人に検査を実施しろと言っているものでもないのだ。
 鬼の首を取ったような勢いで政府を批判した山井議員は、とんだ赤恥をかくことになった。
 専門家会議が指摘するように、日本は現状では持ちこたえているが、このウイルスには潜伏期間があり、この先、オーバーシュート(爆発的患者急増)を引き起こす可能性は依然としてある。
 世界の状況を考えても、4月にかけて、日本国内での感染者数が増加していくことも予測されている。だからこそ、その拡大のスピードを落としオーバーシュートを避けるための注意を政府も専門家会議も訴えている。
 感染拡大を防止しながら経済が止まらないように、政府と国民が努力と忍耐を続けている。その渦中に、一部野党があいかわらずこの問題を政争の具にして不安を煽ることしかできないというのでは、ますます国民の支持は遠のいていくだろう。

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