新型コロナウイルス特集①――「日本型対策」の成果は?

ライター
松田 明

強硬措置が始まった欧州

 新型コロナウイルスの感染拡大が確認されて以降、米国のジョン・ホプキンス大学システム科学工学センターは、リアルタイムの感染状況のビジュアルと併せて「感染者数」「死亡者数」「回復者数」を特設サイトで公表している。
 それによると、日本時間の3月24日午前時点で、世界全体での死亡者数は1万4千人を超えた。
 最初に感染が確認された中国では3月14日時点で感染者の約7割が退院し、1日あたりの新たな感染者数が減少傾向にある。
 中国国家衛生健康委員会は、武漢市を含む湖北省の感染者数が、3月18日に初めて「ゼロ」になったことを発表し、感染の抑え込みが奏功していると自信を示した。
 一方、ここにきて急速な拡大を見せているのがスペインやイタリア、ドイツ、アメリカといった欧米諸国だ。
 外出禁止令や商店の営業禁止といった社会生活を止める強硬措置(ロックダウン)の実施のほか、すでに深刻な「医療崩壊」がはじまって、医療機関の通常の受診態勢を停止したり、ホテルなどを入院施設に転用する国も出てきている。

日本政府のとった戦略

 今回のウイルスは、現時点で有効な治療薬がない。HIV治療薬やインフルエンザ治療薬で回復したという症例は各国でそれなりに報告されてはいるが、個々の重症患者に対して何が有効で、どのような副作用のリスクがあるかの判断はきわめて難しい。
 さらに感染した人の多くが無症状か軽症で、無症状でも他人に感染させるという厄介な特徴がある。
 また、PCR検査の精度そのものがそれほど高くないため、一旦は「陰性」と判定された人が「陽性」となるケースも続いている。
 国内で経路不明の感染拡大が続いているのは、主にこうした理由によるものだ。
 そこで日本政府は2月23日、加藤厚生労働大臣の会見で一つの方針(「新型コロナウイルス対策の目的」)を発表した。
 それは、上記のような厄介な感染症である以上、一定の感染拡大は今後も避けきれないことを見越したうえで、

①集団発生を防ぎ
②感染拡大のスピードを遅らせ
③流行のピークを下げる

という戦略だ。
 厚労省が毎年おこなっている「患者調査」によると、さまざまな理由で入院している人の数は平成29年(2017年)で131万人余である。
 もし、急速に新型コロナウイルスの重症患者が拡大すれば、病床や人工呼吸器、医療スタッフなどがキャパオーバーになり、新型コロナウイルスの患者だけでなく、そのほかの重症者の治療さえできなくなってしまう。
 これが絶対に避けなければならない「医療崩壊」である。

専門家会議の分析・提言

 この方針に基づいて、安倍首相は2月27日に全国の小中高等学校と特別支援学校に「休校」を要請する考えを表明(会見は29日)。
 とくに感染者が多い北海道では、翌28日に鈴木直道知事が「週末の外出自粛」を求める「新型コロナウイルス緊急事態宣言」を発表した。
 また、国内の数カ所で発生が確認されたクラスター(集団感染)については、濃厚接触者を洗い出し、ここにPCR検査を投入するなどして、クラスターが新たなクラスターを生む事態の制圧を進めた。
 厚労省の方針発表から約1カ月が経過したが、国内の感染状況を見ると、これらの施策は概ね効果を上げたのではないだろうか。
 北海道の鈴木知事は「爆発的な感染拡大と医療崩壊は回避された」と強調して、先の緊急事態宣言を3月19日で終了。今後は、引き続き感染拡大防止に努めながら、道内の経済活動が並行して進むよう方針転換した。
 地方自治体のなかには、4月から学校の授業を平常に戻すと発表しているところもある。
 政府の専門家会議は3月19日夜に「状況分析・提言」を発表。

 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、2020年3月13日の事務局長のステートメントにおいて、日本が「クラスター(患者集団)の早期発見・早期対応」という戦略をとって様々な取組を進めてきたことを高く評価しています。

 日本では少人数のクラスター(患者集団)から把握し、この感染症を一定の制御下に置くことができていることが、諸外国との患者発生状況と死亡者数の差につながっていると判断しています。

 多くの犠牲の上に成り立つロックダウンのような事後的な劇薬ではない「日本型の感染症対策」を模索していく必要があると考えています。

と、今後も国民の協力を得ながら、集団発生を防ぎ、感染拡大のスピードとピークを下げる戦略を慎重に進める必要性を訴えた。

感染者数は数倍との推計

 日本の感染者数の拡大が緩やかであることについて、日本政府が感染者数の実態を隠すために意図的にPCR検査の実施対象を絞っているといった〝陰謀論〟めいた話が散見される。
 だがこれは、少し冷静に考えれば真偽の分かる話だ。
 なにしろ、感染していても無症状の人がたくさんいるのだ。検査の件数を増やせば増やすほど、陽性反応者数(実際には感染していても陰性と判断される偽陰性もある)は、おそらく一定の比率で増えるだろう。
 事実、国立感染症研究所の鈴木基・感染症疫学センター長も、メディアの取材に応じる形で、厚労省の対策班の推計として、

 新型コロナウイルスの国内感染者数について、自治体から上がっている報告の「数倍以上いる」との見方(「時事ドットコム」3月6日

を示している。
 もし世界中の国が全国民に検査を実施できたなら、日本はもちろん世界のほとんどの国で、「感染者数」は今より大きく増えるに違いない。

死亡者数の抑制に成功

 たとえば韓国政府は大邱市の宗教団体で大規模集団感染が起きたことなどを踏まえ、PCR検査を広く実施。そのことで、発見された感染者数も多くなった。
 そして、母数である感染者数の多さに対しては死亡者数が少ないので、単純に「死亡者数÷感染者数」を「死亡率」と見なせば、韓国は0・91%で日本は2・95%(いずれも3月16日時点のWHO発表)となる。
 ちなみに、3月24日午前時点の死亡者数は、韓国が120人、日本は42人。日本は韓国の3分の1程度に死亡者数を抑制できているのだ。
 日本の総人口が韓国の2倍以上あることを考えると、人口に対する死亡者数は6:1くらいになる。
 同じく人口が約6000万人のイタリアの死亡者数6077人と日本のそれを比較すれば、じつに300:1くらいになる(3月23日現在)。
 一概に単純な比較はできないとしても、現時点で日本は、新型コロナウイルスによる死亡者数の抑制にかなり成功していると言えるだろう。

新型コロナウイルス特集:
新型コロナウイルス特集①――「日本型対策」の成果は?
新型コロナウイルス特集②――〝陰謀論〟を語る人々
新型コロナウイルス特集③――公明党の対応が光る
新型コロナウイルス特集④——「緊急事態宣言」が発令
新型コロナウイルス特集⑤――本領を発揮する公明党

関連記事:
危機における政党の真価――シビアな判断下した国民
新型コロナウイルスに賢明な対応を――感染研が抗議したデマの出所
『年金不安の正体』を読む――扇動した政治家たちの罪