カズオ・イシグロの名を知ったのは、もう30年近くも前になる。『日の名残り』という長篇小説が、イギリスのブッカー賞を受けて邦訳され、僕も手に取ってみた。ブッカー賞の受賞作ということより、日系イギリス人で、同世代の作家であることのほうに関心が向いた。
一読して、なかなかの書き手だと思った。人物造形がうまい。ストーリーテリングが巧みだ。主題よく吟味されていて興味深い。これは手強いライバルだな、と思っていたら、次々と発表して、2017年度のノーベル文学賞を受けてしまった。
あれ? ついこのあいだまでライバルだと思っていたのに、いつの間にかえらく差をつけられてしまった。人生は難しい。文学は、もっと難しい。悔しくないといったら噓になる(思い上がるな、といわれてもいいです)。 続きを読む
