投稿者「web-daisanbunmei」のアーカイブ

世界最大の叙事詩――書評『マハーバーラタ』

ライター
本房 歩

壮大な空想の戦闘記

 古代インドで成立した「マハーバーラタ」は、10万余の対句から構成され、世界最大の叙事詩と言われている。
 古代ギリシャの「イーリアス」「オデュッセイア」と共に〝世界三大叙事詩〟と称えられ、インドにおいては「ラーマーヤナ」と並ぶ二大叙事詩とされてきた。

 物語は、パーンドゥ家とクル家の王子たちによるバーラタ王朝内の争いを軸に、数多くの人物の性格描写や事件の記述を通じて、人間の強さと弱さ、高貴さと卑劣さ、美しさと醜さなど、人間にまつわる古くて新しい普遍的なテーマを展開させている。(第三文明選書『マハーバーラタ(上)』訳者まえがき)

 ストーリーの概要を書くだけでも何千字も費やしそうな大長編だ。とくに中盤から始まる大戦争の描写は、昔も今も人々の想像力をかき立て、強い衝撃を与えてきた。 続きを読む

沖縄伝統空手のいま~世界に飛翔したカラテの源流
第4回 「沖縄詣で」重ねる空手家たち(下)

ジャーナリスト
柳原滋雄

海外からひっきりなしに訪れる道場

那覇市から車を走らせて約40分。西原町の一角に黄色の原色使いの特徴的な建物が目に入る。正式名称は「沖縄県空手博物館」。1987年にオープンした空手・古武道に関する物品や資料を集めた個人資料館だ。館長を務めるのは、外間哲弘・沖縄剛柔流拳志會会長(ほかま・てつひろ 1944-)である。
ビルの1階が空手道場のスペースになっていて、階段を上った中2階部分が博物館の展示スペースだ。博物館は県立高校教諭だった外間氏が私財を投じて建設した。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第46回 ローカルがおもしろい②

作家
村上政彦

環境をテーマにした『ソトコト』という雑誌があることは知っていた。でも、読んだことはなかった。最近になって、「ソーシャルデザイン」について調べ始めて、この雑誌が〝ソーシャル〟(社会や地域、環境をよりよくしていこうとする行動やしくみ)もテーマにしていると分かって、ときどき買うようになった。
現在の編集長・指出(さしで)一正によれば、3・11の震災以降、それまでの雑誌の方針を転換し、環境に加えて〝ソーシャル〟を掲げたのだという。いい感度をしているとおもう。指出が注目しているもう一つのテーマは、〝ローカル〟である。 続きを読む

ホロコーストの真実をめぐる闘い――書評『否定と肯定』

ライター
本房 歩

法廷闘争のリアルな記録

 本書(『否定と肯定』)を原作とした同名の映画が、日本でも2017年12月から封切られた。その公開に合わせて同年11月に刊行された邦訳だ。
 ナチスによるホロコースト(大量虐殺)があったことを、はたして司法の場で証明できるか。本書は、実際にイギリスでおこなわれた1779日におよぶ法廷闘争のノンフィクションである。
 著者であるデボラ・E・リップシュタットはユダヤ人女性。父親はドイツが第三帝国となる前にアメリカに亡命し、母はカナダ生まれ。
 彼女は、ニューヨークのマンハッタンで育った。現在はジョージア州にあるエモリー大学で、現代ユダヤ史とホロコースト学を教える教授だ。 続きを読む

沖縄伝統空手のいま~世界に飛翔したカラテの源流
第3回 「沖縄詣で」重ねる空手家たち(上)

ジャーナリスト
柳原滋雄

50年で変化した空手の境地

前回取り上げた書籍『公開! 沖縄空手の真実』(2009年)の中でユニークな技法を紹介した空手家に、沖縄空手道松林流喜舎場塾の新里勝彦(しんざと・かつひこ)塾長(1939-)がいる。横に移動しながら行う首里手の代表的な鍛錬型である「ナイハンチ」を独特な腰使いで演武し、独自の解説を加えていた。
新里塾長は英文科の学生時代、19歳のとき大学の空手クラブで空手を始めた。将来アメリカに留学したときに沖縄的なものを身につけていれば何かの役に立つかもしれないくらいの考えだったという。大学卒業後、地元の中学校で3年間英語を教え、20代半ばから2年間の米国留学中は空手をやっていたことが「とても役に立った」と振り返る。帰国後、那覇市の松林流開祖・長嶺将真道場に正式入門した。 続きを読む