浮世離れした人のことを「仙人のようだ」という。そこには揶揄と羨望が混じり合っているようにおもえる。画家であり、書家でもあった熊谷守一(くまがい・もりかず)は、ずっとそう呼ばれたらしい。彼の生涯を辿った本書を読んでいると、確かにと頷いてしまう。
熊谷は、1880年(明治13年)に岐阜県で生まれた。父の孫六郎は、いくつも事業を興して初代の岐阜市長となり、のちに上京して衆議院議員になった。生家は、とても裕福だった。
ところが、東京美術学校(現・東京藝大)に入学したあと、父が急死し、莫大な負債が残った。それは周りの人々の奔走で解決したようだが、経済的な支えを失った熊谷は貧困に陥った。 続きを読む
