投稿者「web-daisanbunmei」のアーカイブ

連載エッセー「本の楽園」 第48回 仙人と呼ばれた画家

作家
村上政彦

浮世離れした人のことを「仙人のようだ」という。そこには揶揄と羨望が混じり合っているようにおもえる。画家であり、書家でもあった熊谷守一(くまがい・もりかず)は、ずっとそう呼ばれたらしい。彼の生涯を辿った本書を読んでいると、確かにと頷いてしまう。
熊谷は、1880年(明治13年)に岐阜県で生まれた。父の孫六郎は、いくつも事業を興して初代の岐阜市長となり、のちに上京して衆議院議員になった。生家は、とても裕福だった。
ところが、東京美術学校(現・東京藝大)に入学したあと、父が急死し、莫大な負債が残った。それは周りの人々の奔走で解決したようだが、経済的な支えを失った熊谷は貧困に陥った。 続きを読む

再び、野合と分裂に走る野党――「新党結成」の迷走と波紋

ライター
松田 明

それでも低迷する野党支持率

 3月12日に決裁文書書き換え問題に関する財務省の調査結果が明らかになった。朝日新聞社が直後の17日、18日におこなった電話による全国世論調査では、安倍内閣の支持率は第2次安倍内閣の発足以降で最低の31%という数字になったという。 続きを読む

書評『「本を売る」という仕事』――全国100書店を歩いて見えてきたもの

ライター
本房 歩

「幸福書店」の閉店

 この2月、〝本〟にまつわるニュースがいくつか駆けめぐった。
 東京・代々木上原駅前の書店「幸福書房」が、2月20日に閉店した。1977年に創業し、80年から同地に移転。近隣に住む作家の林真理子氏は、駅前にこの本屋があるのを見たことが、ここに転居を決めた理由の一つだったと述べている。
 林氏のブログなどにたびたび登場するほか、ここで林氏の本を買うと書店が預かって林氏のサインをもらっておいてくれることもあり、真理子ファンの〝聖地〟でもあった。
 家内経営していくには経営者が高齢になったことや、テナントとの契約が切れたことなどが閉店の主な理由には挙げられているが、やはりなんといっても書店の経営そのものが厳しい時代に入っているのだ。 続きを読む

福岡生命理論は組織論、芸術論へと展開する――書評『動的平衡3』

ライター
本房 歩

「生命」とは何か

 生物学者・福岡伸一氏の名著『動的平衡』シリーズの第3弾
 2009年に刊行された『動的平衡』、11年に刊行された『動的平衡2』は、最先端の生命科学の知見と芸術への深い教養、巧みな譬喩に満ちた流麗な文体が話題となり、累計25万部を超すベストセラーとなってきた。
 その〝福岡生命理論〟は、いよいよこの第3弾で、組織論、芸術論にも拡張していく。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第47回 読む時間

作家
村上政彦

僕は中学生のころにレイモン・ラディゲを読んでいた。彼は夭折した天才作家なのだが、学校は嫌いだったようで、授業を抜け出し、湖に浮かべた小舟に寝そべって本を読むのが日課だったらしい。
このくだりを読んだとき、羨ましいとおもった。僕も学校は嫌いだったし、本を読むのは好きだった。でも、近所に手頃な湖はなく、まして寝そべることのできる小舟などなかったので、学校の保健室のベッドで本を読んだ。 続きを読む