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創造的福祉社会実現に向けて

千葉大学教授
広井良典

改革やパラダイム転換を加速させる

 現在、日本は社会構造上の問題を数多く抱えています。
 人口減少や少子・高齢化の問題、また年間の自殺者が3万人を超えている事実などは、解決すべき喫緊の課題です。そして東日本大震災を経験したことで、それらの問題が、より先鋭化し、明るみに出てきたように感じています。
 同時に、震災からの復旧・復興に取り組むなかで、地域コミュニティー、つまり人と人とのつながりの重要性が見直されています。この震災を契機に、本来必要であった改革やパラダイム転換を加速させる必要があります。
 これまでの日本は「経済成長すれば、たいていの問題は解決する」といった発展モデルを掲げ、維持してきました。そして、大都市が物質循環(マテリアルフロー)において、地方や農漁村部を安価に利用し、エネルギー分野においても、大きく依存してきたのです。
 これからは、都市部から地方、また農漁村部への、人の流れや富の再分配が必要だと思います。

生産と生活が近い都市をつくる

 日本の都市部は多くの問題を抱えています。たとえば、高齢者の福祉施設が、町の中心ではなく、辺ぴな場所に集中していること。また、大きな道路によって地域コミュニティーが分断され、自動車がないと買い物もままならない〝買い物難民〟が約600万人にのぼること(経済産業省調べ)。それに公的住宅が少なく、高齢者や若者、子育て世代の多くが住宅難に陥っていることなどが挙げられます。
 要するに、生活者の視点、福祉的な視点に立った町づくりの発想が大きく欠落しているのです。
 ただし、住宅問題に関していえば、単に公的住宅を増やせば問題が解決するというわけではありません。重要なのは空間的(ないし地理的)な視点、そしてコミュニティーという視点で住宅を増やし、町をつくっていくことです。
 ちなみに、コミュニティーや絆といえば、煩わしく、面倒くさいものといったイメージを持つ人もいますが、絆には強い絆だけではなく、ゆるい(弱い)絆もあります。
 特に都市部では「日ごろから、ちょっと声を掛け合っている」といった、ゆるいつながりが大切です。
 日本の大都市では、都市の中心に中層の集合住宅が少なかったため、郊外に住む人が多くなっていきました。そして町がどんどんスプロール化(無秩序に拡大)し、通勤時間が長くなっていったのです。その結果、生産コミュニティー(=会社)と生活コミュニティー(=住宅や家族)が完全に分離されてしまいました。
 福祉都市を構築していくためには、生産コミュニティーと生活コミュニティーが近い都市をつくることが肝心です。

福祉社会実現へ公明党に期待

 昔の日本では、神社やお寺はコミュニティーの中心地でした。それらは単なる宗教施設としての存在ではなく、その周辺で市場が開かれ、商業が取り行われるなど、経済的役割も果たしてきたのです。
 また寺子屋に代表されるような教育施設としての側面も持ち、祝祭行事の際には、コミュニティーの連帯感を確認するための機能をも果たしてきました。
 近年、地域コミュニティーへの関心が高まるなかで、高度経済成長期以降、人々に忘れられてきた神社やお寺の社会資源としての価値を再評価し、それらを子育てや高齢者ケアなどの福祉活動、環境学習の場として活用しようという動きも生まれてきています。
 ちなみに私が行った「地域コミュニティー政策に関するアンケート調査」(2007年、全国の自治体を対象)によれば、今後、コミュニティーの中心としたい場所として、①学校 ②福祉・医療関連施設 ③自然関係(公園など) ④商店街 ⑤神社・お寺といった順番がつきました。
 そして私は、地域コミュニティーと一体の総合的な発想のなかで、エネルギー政策の転換をはかっていくべきだと考えます。
 福島第一原発の事故以来、自然エネルギーへの移行が不可避の課題となってきましたが、日本全体でのエネルギー自給率は、原子力を除くと4%台にすぎません。
 しかしながら、千葉大学の倉阪秀史教授が進めている「エネルギー永続地帯」研究の調査結果によると、都道府県のエネルギー自給率は、その高い順に、①大分県(25.2%) ②富山県(16.8%) ③秋田県(16.5%) ④長野県(11.2%) ⑤青森県(10.6%)となっています。大分県は温泉地帯を多く抱えることから地熱発電が活発であり、富山県や長野県は山が多いことから水力発電が積極的に用いられています。
 これからの時代は、自然エネルギーを含めて〝グローバル化の先のローカル化〟をはかり、できる限りローカルな地域で「ヒト・モノ・カネ」が循環していくような社会の姿を実現していくことが求められています。
 さらに、コミュニティーと一体になった相互扶助の経済、地域で循環する経済、いわばコミュニティー経済を築き、推進していくことが大切です。
 そして私は、コミュニティー経済の視点に立った創造的福祉社会を実現したいと思っています。創造的福祉社会とは、限りない経済成長を追求する社会ではなく、人間をベースにした新しい福祉社会のことです。
 その点で、結党以来、大衆福祉の実現を第一に取り組んでいる公明党の存在は、今後ますます重要になってくると思っています。これからも公明党が、福祉社会実現に向けて尽力されることを、期待しています。

若者震災復興支援隊を提案したい

 昨年(2010年)、私は全国の自治体に対して「地域再生・活性化に関するアンケート調査」を行いました。その調査で、地方都市や農漁村部における最大の課題が「人口の減少、若者の流出」であることがわかりました。
 そこで、今回の震災を経て、私が提案したいのは、若者震災復興支援隊構想です。これは若者版・震災対応ベーシックインカム(参加所得)とでもいうべき性質を併せ持つものです。
 内容は、被災地の復興支援に携わる若者(原則として15歳から35歳)に対して、月額15万円程度を支給するというものです。期間は基本的に1年から3年程度で、被災地域の各自治体によって、被災地の農漁村部などに派遣され、さまざまな活動を行います。具体的な活動条件の設定やコーディネートは、窓口の自治体が行います。こうした事業は、震災復興支援として有効です。
 それに加えて、失業率の高い10代後半から30代前半の若者支援策としての意味を持ち、一種の積極的雇用政策(職業訓練)にもなります。少なくとも大都市から地方への新たな流れをつくる契機になるのではないかと思います。
 これからは、コミュニティー、あるいは地域再生という視点を重視しながら、福祉政策や町づくりと被災地復興との関わりを、ひと回り大きな視点で考えていくことが重要ではないでしょうか。新しい福祉社会を実現するために、政治の場で具体的に実行する段階に入っています。


ひろい・よしのり●1961年、岡山県生まれ。東京大学大学院修士課程修了後、厚生省勤務を経て、96年に千葉大学法経学部助教授。2003年には同教授に就任。社会保障や環境、医療に関する政策研究から、時間、ケア等の主題をめぐる哲学的考察まで幅広い活動を行なっている。著書に『定常型社会』(岩波書店)、『持続可能な福祉社会』『創造的福祉社会』(ちくま新書)など多数。『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書)では第9回大佛次郎論壇賞を受賞。