お金について考えることは人生を考えること――20代、30代のライフ・プランニング

ファイナンシャル・プランナー
中村芳子

「カード」「保険」「住宅」――20代、30代のライフ・プランニングを考える

お金を稼ぐことは社会貢献

 若い方からお金に関する相談を受けるとき、私はお金の価値をポジティブに認めることの大切さをお話ししています。世の中にはお金はなんとなく汚いものであり、お金に興味を抱くことが、何かはしたないことであるかのようなイメージがあります。しかしお金は、私たちが商品やサービスという「価値」を社会に提供することで得られた正当な対価です。つまり「たくさんお金を稼ぐ人」は、世の中にたくさんの価値を創造し、大きな社会貢献をしていると考えることもできるのです。
 もちろん収入の多寡(たか)によって仕事や人間の価値が決まるわけではありません。経済が複雑化した現代では、まじめに働くだけでは大きな収入が得られない現実もあります。たとえば農業で得られる収入は厳しいものがありますが、私は、人間の命をつなぐ農業こそ、この世の中で最も尊い仕事だと考えています。大切なことは、どんな仕事にも誇りを持つとともに、仕事で得たお金に対して、後ろめたい気持ちを持たない姿勢です。
 私は「お金は人生の道具である」と考えています。結婚して家庭を持ったり、資格取得のために学校に行ったり、生活をより良く向上させるためのツールなのです。一般的な道具との違いは、お金は形が定まっておらず、ライフプランに合わせて、形を変えることが可能だという点です。
 だからこそ、人生に目標を持つことが大切です。世の中には巨万の富を得て、一生働かないでよいにもかかわらず、熱心に働いて社会貢献する人々がいます。マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏や、世界有数の投資家であるジョージ・ソロス氏は、私財を投じて財団をつくり、社会事業を展開しています。もしお金に対してどうしてもネガティブなイメージを拭えないというなら、たくさん稼ぎ、社会のために多くのお金を寄付すればよいのです。
 30代ともなれば、社会に出て約10年が過ぎ、そろそろ将来が見えてきて、お金に対するマインド(意識)も固まり始める時期です。一番大切な時期だからこそ、お金の真の価値について学び、自分の人生をしっかり思い描いていくことが重要だと思います。

リボ払いは一生やめられなくなる

 金融システムが高度化した今、売り手がプロとなり、消費者がアマチュアになるという構造が生まれています。その象徴がクレジットカードです。団塊の世代までは「カードは借金だから怖いので持たない」という考え方がありました。しかし、現在では学生でもカードを持つ時代です。カードの乱用で人生を壊さないためにも、借金と利息の怖さについてしっかり学んでいくべきだと思います。
 カードの利用方法のひとつであるリボ(リボルビング)払いは、毎月一定額のみを返済していく方法です。リボ払いの危険性は、月収が20万円であっても、25万、30万円の生活ができてしまう点です。一括払いであれば「今月はこれほど使ってしまったのか……」と反省できますが、リボ払いでは月々の返済額が5000円から1万円程度なので、大きな借金を背負っているという実感が得られず、また使ってしまいます。そして年率十数%もの利息をいつまでも返し続けていくことになる。つまり一生、借金生活から抜け出せなくなってしまう危険があるのです。
 世界有数のカード大国であるアメリカでは、カードの使い道を「前向きな借金」と「後ろ向きの借金」に分けて考えることが一般的になっています。前向きとは、住宅ローンや教育ローンなど、お金を借りることで「新たな価値」を生み出していく借金です。後ろ向きとは、日用品や娯楽品など、買った瞬間に価値が目減りしてしまう借金です。どうしてもカードを使わざるを得ないのであれば、一括払いを選択すること。ローンを組む場合でも、自分の人生に前向きな価値を提供してくれるものだけに使用すべきです。
 私たちの日常には「カードをつくればポイント2倍!」といった宣伝文句があふれていますが、ある統計ではカード払いにすることで、個人の消費が15%も伸びることがわかっています。それだけ不要なものを、目先のポイントの高さにつられて購入しているのです。逆を言えば、カードを持たなければ生活費を15%程度削減することが可能なのです。
 予期せぬ減給や失業など、人生には多様なリスクがあります。だからこそカード払いにしばられる生活を送ることは非常に危ないのです。

保険で安心を買おうとしない

 保険は人生のリスクやアクシデントに備えるための金融商品です。世の中には「何が起こるかわからないから保険で安心を買いたい」と考える人がいますが、保険で安心を買うことはできません。むしろ多くの保険に加入しながら、自分がどのような保障を受けられるか、いざという時にいくら支払われるのか、ほとんど把握していない人もいるのです。
 日本人は金融商品を判断する基礎的な学習を受けていません。そのため保険の外務員がやってくると、セールストークのままに保険に加入してしまうのです。やはり保険の話を聞く前に、必ず基礎的な勉強をしておきましょう。それも責任の所在があいまいなネットの情報や、特定の金融機関がスポンサーについている業界誌などではなく、中立の立場で消費者の目線を持ち、高い専門性を有する識者が書いた単行本で学ぶべきだと考えています。幸い、保険に関してはたくさんの良い本が出ています。1冊の本をじっくりと読むだけでも大きな違いが出てくるはずです。
 その上で、もし30代の保険を考えるのであれば、独身なら「生命保険(※)」は不要です。お金を残すべき相手がいないからです。結婚して子どもが生まれ、奥さんが専業主婦になったときにはじめて、死亡保障を考えればよいのです。30代の単身者に必要な保険は、自分が病気やケガで入院したときの「医療保険」です。今は日本でもネット保険を中心に、医療保険の良いものが出そろっています。毎月の保険料が2000円前後で、入院1日あたりの給付金が5000円ぐらいあれば、保障内容としては十分です。

※生命保険:亡くなったときに保険金が払われる保険の一般名称。正確には死亡保険

消費税増税のあとは住宅値下がりの可能性

 消費税がいよいよ増税されるのではないかということで、その前に住宅を買うべきか、とお悩みの方が多いようです。実際、私のところにもたくさんの相談が寄せられています。
 住宅は早く買い過ぎないことが大切です。特に「友人が買ったから自分も買いたい」と思うのはやめるべきです。家を買うベストタイミングは人によって違います。仕事、家族構成、ライフスタイル、貯金などが違うのに、周りに合わせて人生最大の商品を購入するのはあまりにも危険です。
 金利や不動産価格の動向、税制などは「外部要因」にすぎません。たとえば消費税増税などにともなう駆け込み需要の後は、買い手が減るので物件の価格が下落するのが普通です。前回の消費税増税後も物件が売れなくなり、結果、価格が増税分以上に値下がりした例がありました。自宅を持てば修繕積立金や管理費に加えて、固定資産税も負担しなければなりません。その点を考慮せず、十分な備えもないまま安易にローンを組めば、毎月の返済に苦しむことになります。ローンで生活が苦しくなれば、精神的に追い詰められ、夫婦仲も悪くなり、最悪の場合は、家庭が崩壊してしまうことだって起こり得るのです。住宅購入はあくまでも自分自身の家族構成や頭金準備額といった「内部要因」に従って購入すべきです。
 独身者は「家賃を支払うぐらいならローンで住宅購入したほうがお得ですよ」といった宣伝文句に注意が必要です。住宅には値下がりのリスクがあります。賃貸であれば、転職したり、周りの居住環境が悪化したりしても引っ越しをすればすみますが、物件選びを間違って住宅を購入してしまうとローンで身動きが取れなくなってしまうのです。転勤や転職、結婚など自分のライフスタイルを大きく変えてしまう要素はたくさんあります。だからこそ焦りすぎないことが重要です。目安としては30代後半から40代前半で購入するのがよいのではないでしょうか。
 もし結婚しているのであれば、夫婦の働き方や子どもの人数など、家庭環境がある程度定まり、十分な自己資金がたまってから買うようにしましょう。具体的には価格の20%の頭金と5~10%の諸費用を貯金で用意し、住宅ローンの借り入れは年収の4倍までを目安とすることです。そして定年退職の時期にあたる65歳までに返済し終えるよう期間を決めます。
 また購入する物件はもちろん、街全体をよく見ることも大切です。たとえば購入したい住宅の周辺の中古物件が、いくらで販売されているか注意深く観察すれば、販売価格が適正かが見えてきます。新築住宅の購入費には広告宣伝費などのプレミアム(割増料)が乗せられています。物件の価値を見抜く目を持たなければ自分が損をしてしまうのです。
 カードであれ、保険であれ、住宅であれ、正しい知識を持って、自分の頭で考えることが大切です。夫婦であればとことん話し合ってください。2人が知恵を出し合い、納得して行動していくことが生活の安心につながります。将来、自分はどんな生活を、人生を望むのかというイメージを明確にできれば、どんな問題にも対処していけるはずです。私はそれこそがお金に対する真のリテラシーだと考えています。

<20代、30代のお金のポイント>
●カード
・リボ払いは借金の総額を見えにくくするので、絶対に利用しない
・カードを利用する場合は一括払いのみ。自分の未来につながるものだけを買う
・目先のポイントにつられると余分な物を買ってしまう
●保険
・単身者は死亡保険に入らなくてよい
・医療保険は保険料の安いネット保険を検討する
・保険に加入する前に、1冊は本を読んで勉強する
●住宅
・住宅を買うタイミングは30代後半から40代前半くらい
・消費税増税後は物件価格が値下がりする可能性大
・頭金は価格の20%以上準備。住宅ローンは年収の4倍以内に収め、65歳までに返済し終える
・たくさんの物件を見て、不動産を見る目を養う

<月刊誌『第三文明』2013年9月号より転載>

4478021848
(著書紹介)
『お金が貯まる人貯まらない人』
中村芳子著
ダイヤモンド社
1,470円(税込) amazonで購入


なかむら・よしこ●長崎市出身。早稲田大学商学部で国際経済を学び、メーカー勤務を経て、1985年独立系FP会社である株式会社MIMIに入社。ファイナンシャルプランニング業務全般に携わる。1991年に有限会社アルファアンドアソシエイツを設立。現在代表取締役。個人向けのマネー相談や、さまざまな金融プロジェクトのアドバイザーを務める傍ら、20代、30代のマネーの啓蒙に特に力を入れている。ロングセラーとなっている『20代のいま、やっておくべきお金のこと』(ダイヤモンド社)など著書多数。