多様性ある市民社会づくりに取り組む「きょうとNPOセンター」

きょうとNPOセンター 常務理事・事務局長
野池雅人

 現在、NPO法人の数は全国で4万8000(平成26年1月1日現在、内閣府ホームページ)を超える。社会的な認知度が高まる一方、被災地支援NPOによる復興資金の着服など、その不透明さを問う声も少なくない。今後NPOはどう変わるべきなのだろうか。

「NPO」を支えるNPO

 私たち「きょうとNPOセンター」は、まちづくり活動を行う団体(以下、NPO)の支援を通じて多様性ある市民社会づくりを目指す組織です。
 設立のきっかけは1995年に起こった阪神・淡路大震災でした。まだNPOという言葉が生まれていない時代でしたが、全国からボランティアが被災地に集まり、何とか皆の力で町を立て直そうとしていたのです。
 私たちの先輩も、神戸での支援活動に携わる中で、「これからの日本はボランティアの力が必要になるはずだ。ならばそのボランティアを支える仕組みや組織づくりこそ大切なのではないか」との結論に至ったようです。
 そして京都の大学生・大学院生などが活動の主体となり、地域住民、大学教員、京都を地盤とする企業経営者の方々を理事に迎え、特定非営利活動促進法(NPO法)が制定された1998年に、きょうとNPOセンターを設立することになったのです。
 設立以来、NPOの資金調達や人材育成などのサポートに取り組んできました。また地域社会で活躍するNPOへの支援活動を通じて、NPOの社会的認知度を向上させることに力を注いできました。
 この15年でNPO法人の数は、全国で4万8000法人を超え、京都のみでも1300法人を数えるようになっています。「NPOの存在を一般の方々に知っていただく」という私たちの目標は、ひとまず達成できたのではないかと思っています。

放送・金融・認証事業を一体的に展開

 きょうとNPOセンターでは、NPOの活動を側面から支援するために、主に3つの事業に取り組んできました。
 1つ目はNPOのためのラジオ放送局「NPO京都コミュニティ放送(愛称「京都三条ラジオカフェ」)」の設立です。NPOが自分たちの活動を広く市民の皆さんに知ってもらうためには、多くのメディアに取り上げてもらう必要があります。しかし、大企業のように番組スポンサーになるほどの力を持たないNPOでは、どうしてもメディアに取り上げてもらう可能性がせばまってしまいます。
 そのため、NPO自身が番組づくりに関わり、自分たちの活動を地域社会へ発信していくラジオ放送局をつくるべきだと考えたのです。2002年の設立以来、現在では100番組に達しています。出演料は3分間1575円で、各団体が伝えたいことを自由に発信することができます。もちろんラジオを聞く側の立場を考える必要がありますので、放送法にのっとって番組審議会を設置し、伝わりやすい番組づくりを心がけています。
 2つ目はNPOのための銀行ともいえる「公益財団法人 京都地域創造基金」の設立です。NPOが活動を続けていくためには、運営のための資金的課題をどう克服していくかが大きなテーマとなります。
 そこで私たちは、NPOの育成や助成金制度について検討していた京都府と連携をはかり、京都地域創造基金を創設し、NPOの活動を経済面から支えることにしたのです。幸い設立資金は、市民の皆さまの寄付により、約2ヵ月という短期間で集まりました。
 また設立から4年がたちましたが、学生からご年配の方まで幅広い世代の皆さまに支えられ、まもなく寄付金の総額が2億円にも達します。年を重ねるごとに、多くのNPOに資金提供を行い活躍の場を広げています。
 3つ目はNPOの信頼性を高める「一般財団法人 社会的認証開発推進機構」の設立です。ボランティアによって支えられるNPOは社会的な信頼度が十分ではありません。またNPOの数が増えた現在では、どのNPOを信じて寄付をすればよいのかわからないという状況が起こっています。
 そこで社会的認証開発推進機構では、認証を得たいと望むNPOに対して、「情報公開」「会計制度」「組織運営のガバナンス(統治)」などの評価基準を設け、3つのステップ(段階)をクリアした団体ごとにオンライン上のデータベースに公開しています。市民の皆さんにはこのデータベースにアクセスしていただくことで、団体の詳細や事業の透明性について確認できるようになっています。

若者と地域を結ぶ事業に挑戦

 今、私たちは地域と若者を結びつける新たな事業に取り組んでいます。若者が自分たちの地域を知り、課題を発見し、解決策を考え実施していくという取り組みです。そのうち「Ryu-SEI GAP」(龍谷大学政策学部 グローカル・アクション・プログラム)では、地元・京都伏見を中心に研究活動を続ける龍谷大学と相互協力協定を結び、私たちが指定管理者として運営を担っている「京都市いきいき市民活動センター(伏見・東山)」の共同運営に取り組んでいます。
 この「大学が公共施設の運営に関わる」という日本初のプログラムは、大学側・運営側の双方にメリットがあります。大学にとっては最新の理論や研究を実践する場として地域を活用するメリットがあり、私たちには教育機関が持つさまざまなリソース(資源)を運営に生かしていくメリットがあるのです。
 たとえば、私たちが関わる地域の中には、家庭の経済的な事情から子どもの学力問題や貧困問題などを抱えておられる方もいます。そこで大学生が地域の人びとと協力して学習支援を行い、その場として施設を提供する。そうして学生たちが子どもたちのサポートに取り組めば、地域社会全体が抱える問題を解決していくことにつながるのです。
 また「Ryu-SEI GAP」は、若者の目線を地域に向けることにも役立っています。今、多くの若者が将来の夢が見つからず、せっかく大変な思いで就職したにもかかわらず、短期間で会社を退職することが社会的問題になっています。
 それにはいくつもの原因があげられますが、1つには地域の中で活躍する魅力的な会社やNPOの存在に気づいていないことがあると思います。価値観や社会制度が複雑化するこれからの時代は、大企業だから就職するのではなく、独創的な事業を展開し、地域に貢献する企業だから就職するという選択肢があってもいいはずです。
 日本企業の大多数は中小企業が占めています。その中小企業に意欲ある若者が集ってくれば、就職活動自体が社会全体の活性化につながっていくはずです。私たちは「大企業だけではない」「東京だけではない」大学卒業後の選択肢を若者に示していきたいと考えています。

NPOが持つべき2つの力

 これからの私たちの目標は、NPOのためのシンクタンク(政策の立案や提言を主とする研究機関)をつくることです。これまで複数の事業を多角的に展開する中で、NPOには主に2つの力が不足しているのではないかと考えるようになりました。
 1つは「政策提案力」です。自分たちの活動がなぜ成功したのか、あるいはうまくいかなかったのか、活動の1つひとつを詳細に検証し、得られた知見を蓄積・発信し、社会的な制度づくりに役立てていくべきではないかと思うのです。
 NPOの活動理念がどれほど志の高いものであったとしても、一過性の取り組みに終わってしまうならば、社会の永続的な発展には寄与しません。だからこそ自分たちの活動を調査し、地域社会発展のための政策づくりに役立てる力が必要だと考えるのです。
 2つ目は「巻き込む力」です。現代は社会の価値観が複雑化しています。NPOのみで事業を展開することは難しく、行政や企業などと連携をはかり、事業を展開していく力を持った人材やノウハウが必要になっているのです。
 しかし、膨大な統計データを収集したり、世界各国の先進事例などを調査するためには、ある程度の予算や人員が必要となります。その負担を単一のNPOが負うことにはどうしても無理があります。そこで私たちのような団体が、NPO全体を支えていくシンクタンクをつくっていくべきだと考えているのです。
 私たちは「統治から協治」をテーマに、市民社会のさらなる発展を目指しています。社会を構築するうえで、国や行政が果たす役割が大きいのは言うまでもありませんが、それだけでは社会の多様性は保たれません。
 市民1人ひとりが情報を持ち、自身の希望に基づいて社会参加し、ともに地域づくりに関わっていけるような「協治の社会」こそ、本当の意味での市民社会だと思うのです。
 私たちはこれからもNPOへの支援を通じて、多様性ある市民社会の実現に取り組んでいく決意です。

(用語)「NPO」とは……さまざまな社会貢献(ボランティアなど)活動を行う中で、経済的利益を目的としない団体の総称。このうち、特定非営利活動促進法に基づき法人格を取得した法人を、「特定非営利活動法人」(NPO法人)という。教育・文化・環境など社会のあらゆる分野で、多様化したニーズに応える役割が期待されている。

<資料>「きょうとNPOセンター」の主な事業

【中小企業×NPO 未来塾】
 京都を地盤とする中小企業とNPO団体の事業創出型勉強会。地域の課題を考えていく中で、NPOの持つ地域性と企業運営ノウハウの交流をはかる。
 リンク:中小企業×NPO未来塾(「きょうとNPOセンター」サイト内)

【京都市災害ボランティアセンター】
 行政や社会福祉協議会などと連携し、大規模災害発生時における災害ボランティアの総合調整を行う。
 リンク:京都市災害ボランティアセンター

【市民活動のためのサポートセンターの運営】
 ボランティア活動参加希望者への情報提供やNPOの運営助言など市民活動を一体的にサポートする。

【公益活動ポータルサイト「きょうえん」】
 NPOの情報開示を促進し、社会からの信用性を高めるために、組織情報や会計情報を公開するデータベースの運用。
 リンク:きょうえん 公益活動ポータルサイト

【京都あんしんメール】
 地元企業の協賛金によって運営される学校・保護者の緊急連絡網。不審者情報や事故情報などを回覧できるメーリングリスト。

【京都市未来まちづくり100人委員会】
 市民100人以上が集まり、京都の未来について語り合い、課題解決に向けて市民自らが活動を行うプラットフォームを運営。
 リンク:京都市未来まちづくり100人委員会

<月刊誌『第三文明』2014年4月号より転載>


[きょうとNPOセンター]阪神・淡路大震災を機に生まれたNPOの支援組織で、メディアなどでは「NPOを支えるためのNPO」と報道されることもある。古くから住人自治の「町衆文化」の根付く京都にあって、地域住民、大学教員、地元企業など社会貢献に強い意欲を持つ人びとの後援によって運営が支えられている。1998年の設立以来、「お金」や「人材供給」など、NPOの運営を支えていくための各種施策を一貫して打ち出し続けており、「NPOの銀行」や「NPOの認証付与」などユニークで斬新な制度設計には定評がある。きょうとNPOセンター ホームページ