【対談】「財政再建」への道は、まず「財政の見える化」から

【対談者】
 竹谷とし子(参議院議員)
 東村くにひろ(東京都議会議員)

東京都は「財政の見える化」(複式簿記導入)をして「財政再建」の成功を収めた。各地方自治体も国も「財政の見える化」にいま動きだしている。

※月刊誌『第三文明』2011年1月号に掲載された記事を転載しています

公会計制度改革に新しい風、『複式簿記・発生主義』

竹谷とし子 2010年7月に参議院議員になって以来、国の「財政の見える化」(複式簿記導入)の実現に向けて真剣に取り組んでいます。幸い、都議会公明党が提案し、推進役となって、東京都は06年度から全国の自治体で初の複式簿記を導入して、見事に赤字財政から黒字財政にしたという先例があります。

東村くにひろ 私が都議会議員になった01年、東京都の財政はどん底で、「財政再建団体」(破綻状態にある地方自治体)へ転落の危機の状況でした。こういう状況になったのは、東京都の公会計(国や地方自治体が行う会計処理)が単式簿記であることに原因があると、公明党は考えました。
 そこで公明党は会計制度の改革案を作成しました。その改革案に対して、石原都知事の英断で東京都は1999年から05年は「機能するバランスシート」(※1)を作成・活用し、06年からは「複式簿記の本格導入」に踏み切っています。その結果、いままで見えなかった都の財政状況が見えてきました。

※1 「機能するバランスシート」:資産額、コスト情報を把握、さまざまな事業を分析するツールとして活用するもの

竹谷 確かに会計制度を変えると財政状況が見えてきますね。監査法人、経営コンサルタントを経験して分かったことは、会計の「見える化」を達成した企業はV字回復をしている企業が目立ちます。どんぶり勘定の会計で経営は成功しません。
 例えば、どの事業が借金を生み、どの事業が利益を生んでいるのか。的確に経営の意思決定をするには、数字が見えているのかどうかが重要です。

higashimura東村 会計の「見える化」をすれば、V字回復になるのはうなずけます。
ところで、「財政の見える化」つまり「複式簿記」といっても、読者の方は、一体、どういうことか分かりにくいかもしれません。ここで「単式簿記」と「複式簿記」を説明します。
 簡単に言うと、単式簿記は現金の流れを把握するだけなんです。取引の賃借を記入せず、現金の収支しか記入しません。これが単式簿記です。公会計は「単式簿記」「現金主義」(※2)でやっています。
 一方、企業会計は「複式簿記」「発生主義」(※3)を採用しています。複式簿記はお金の流れに伴って、モノを買った場合、それが、資産(財産)になるのか、費用で落ちるのか、勘定科目(※4)で表していきます。
 要するに、単式簿記はごまかしやすく、複式簿記は不正ができないという特徴があります。
 東京都は、制度導入により借金が把握できました。例えば、勘定科目が入っているので、お金が入った場合、借金(負債)なのか、収入(売り上げ)なのか、資産なのか、明らかになるのです。

※2 現金主義:費用と収益の受け取り・支払いがなされた時点で計上する会計処理
※3 発生主義:費用と収益の対象となる役務の提供や事実が起きた時点で計上を行う会計処理
※4 勘定科目:簿記で使用される、お金のある場所、お金が入ってきた理由、お金が出ていった理由などを表す科目

竹谷 そうですね。単式簿記はお金の出し入れしか把握できません。したがって、何が残っているのか分からない。
 事業仕分け(民主党政権が行った)で〝埋蔵借金〟発掘などと言っていましたが、単式簿記では、歳入・歳出などの正確な把握ができないのです。一方、複式簿記では一目瞭然になります。事業仕分けのやり方だと、表面上見えているものを仕分けているだけであって、本質的な仕分けにはなっていません。

〝財政の見える化〟を各自治体・国へ推進

東村 きちんとした事業仕分けをするためにも、「見える化」を急ぐべきですね。
 いま東京都は、全国の自治体向けに「複式簿記」「発生主義」の考えを取り入れた新しい公会計制度を考える「フォーラム」を開いています。東京都で生み出した財政の知恵を自分たちだけのものにしないで、広く情報を発信・提供しています。
 例えば、東京都が「財政再建」を成し遂げている複式簿記のソフトシステムを無料で提供しています。ケースによってはスタッフも派遣して公会計の改革を推進しています。大阪府、東京都町田市はすでに取り組み始めています。

竹谷 各地方自治体にさらに広がっていくよう、これからが頑張り時ですね。
 一方、国で「財政の見える化」はどのように進んでいるか、とよく聞かれます。いま財務省では、ゆっくりですが、徐々に、複式簿記導入への形を作ろうとしています。現在は複式簿記について、現場の方々もまだ理解していない状態ですので、活用の方法を徹底する段階です。また国民の皆さまにも複式簿記制度の導入が、どういう意味があるのかよく理解されていません。まだまだ課題は多いです。

「財政再建」にはまず「財政の見える化」

東村 「財政の見える化」が強調されていますが、結論は「財政再建」です。「財政再建」するのに、借金がどれだけあるか分からない、資産の数字さえ分からない、そのような状況で財政再建などできるはずがありません。「見える化」は、ある意味、財政を健全化するために、複式簿記をツールとして活用することです。そのツールを先駆けて活用し、東京都はすごい改革ができたんですよ。
 中身の話になりますが、バランスシートを作ったおかげで借金が分かったわけです。関係者は都債がいくらかは分かっていましたが、それ以外の借金がどれだけあるのか、ないのか、さっぱり分からなかった。見えなかったのです。「隠れ借金」が表に出ました。1兆1000億円です。
 具体的な話で言えば、多摩ニュータウン事業は収支均衡型事業(収入と支出を同じ、独立採算型)として行われてきましたが、バランスシートの分析によって、将来、事業終了時でも債務超過を解消できないことが明らかになりました。その結果、事業縮小、収束することになりました。
 また、1990年、東京都は町田市多摩境の土地を購入。90年から2006年まで、バブルがはじけたこともあり、買った土地の価格が下がりすぎて、売るに売れない状態に。金利だけを払うという策しかなく、2200億円の欠損状況でした。そこで発想の転換で「とにかく土地を売ろう」という結論がでました。東京都は職員の代表が「営業部隊」を作り、土地を売り切りました。現在は、街も活性化し、借金もなくなりました。こうしたことを行いながら、複式簿記のおかげで、財政再建ができ、東京都の隠れ借金もなくなったのです。
 さらに意識変革がありました。単式簿記でやっていると、予算で残った金をどうするか。繰り越す先がないために、「余ったら、とにかく使え」という発想でした。複式簿記にしてからは、積み立てるという発想になっています。
 当時、議会で「余った金をなんで積み立てるんだ」というヤジが飛び交っていたこともあります。新しいことをするときにはいろいろありますが、竹谷さんには頑張ってほしいです。

会計の制度改革は〝意識改革〟から始まる

takeya竹谷 議員になって先輩議員から「竹谷さん、何をやりたいの」という質問を受けました。とにかく、私は18年間の経験(監査法人、経営コンサルタント)を活かして、国の「財政の見える化」に自分のエネルギーを使いたいと思っています。時局講演会で、都議会公明党が実質的に推進役になっている「財政の見える化」の成功事例を話しながら、国の「財政の見える化」について訴えさせていただいています。
 他党が「透明化」「見える化」を語っていますが、具体策はまったくありません。プロの目から見ても、国民の立場からの公会計制度改革案はどこの党にもありません。
 民間企業で会計の制度改革をやるうえで、何がいちばん大事か、聞かれます。改革をするときに大事なことは〝意識改革〟です。そのために人の教育がセオリーとしてありました。私が言いだした時、周りが関心をもたれなかった。最近は、東京都の実績を語りながら、お話をすると、国でも「財政の見える化」をぜひ、やってほしいという人が増えています。
 国で「財政の見える化」を進めていくうえで大切なこととして、活用の仕方が分からなければなりません。そうしないと公会計改革は実現はできません。いまはまだ官僚の方々も、一部の人だけしか関心がありません。時間をかけて理解を得ていかなければならないと実感しています。

東村 確かに理解を得るのは大変です。
 また、理解を得るためには、東京都の実績を広く世間に知らせていくことも重要なことです。しかし残念なことに東京都の「財政再建」についてマスコミは取り上げようとしません。東京都の「財政の見える化」は100%ではありませんが、確実に財政再建の方向になっています。今後の話ですが、東京都は、「国際会計基準」を目指していきます。

竹谷 国の「財政の見える化」も徐々に動きだしているところです。いまは、関連の法律作りを進めなければなりません。
 公明党の良さは、地方議員と国会議員のネットワークの強さです。「財政の見える化」が各地方自治体にさらに広がり、国もそれに合わせて「見える化」が進んでいくよう、公明党の力を遺憾なく発揮していきます。

<月刊誌『第三文明』2011年1月号より転載>

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たけや・としこ●1969年、北海道生まれ。創価大学経済学部卒。監査法人トーマツ勤務を経て、96年からアピームコンサルティング株式会社にて経営コンサルタントとして勤務。世界10ヵ国で企業などの経営改善を推進。公認会計士。2010年7月参議院議員に初当選。公明党東京都本部副代表、同女性委員会副委員長、青年委員会副委員長。公明党行政改革推進本部・公会計委員長として、国の経営改革のための 〝財政の見える化〟 実現に向け尽力中。党女性局平和・環境PT座長として、地球環境と共存する持続可能な低炭素、省エネ社会を目指し、再生可能エネルギー・省エネルギーを推進。公明党 参議院議員 竹谷とし子HP  参議院議員 竹谷とし子 公式Facebook

ひがしむら・くにひろ●1961年生まれ。創価大学経営学部卒業。88年公認会計士登録。16年間、民間企業や学校法人、公益法人の監査に携わり、監査法人の理事を経て、2001年東京都議会議員に初当選。現在4期目。公認会計士・税理士。都議会公明党の政務調査会長、公明党東京都本部の政策委員長。東京都議会・警察消防委員会副委員長、東京都税制調査会特別委員。東京都議会議員 東村くにひろの公式ホームページ