政府のかじ取りで行う金融政策など3大役割
経済分野における政府の役割をシンプルに表現すると、市場に任せていると支障が出かねない事項について、しっかりとしたかじ取りを行うことです。その事項とはまさしく金融政策の部分です。とくに日銀は、過度の独立性を持ちながら責任を負わない態勢になり、これが本来目指すべき目標を歪めることにつながったといえます。
国民・政府が求める目標と、日銀が設定する目標とに大きなズレが生じ、日本経済の改善に期待が持てない状態をもたらしてきました。この状況を解決できるのは、政治力であり、そのために活発に動き出したのが今のアベノミクスです。
一方、政府が行うべきことに社会資本整備もあります。一般的にそれは公共事業といわれ、無駄遣いの代名詞として使われてきました。そのせいか十数年にわたり政府は、本来の社会資本整備を怠ってきたのです。アベノミクスで社会資本整備を大胆に実施するのは、本来の仕事への回帰であります。大事なことは、社会資本整備は道路や橋のメンテナンスだけではなく、教育や医療なども含みます。これを踏まえた改革を実行してもらわなければなりません。
今回、安倍晋三首相が打ち出した「3本の矢」のうちの成長戦略ですが、これには疑問符を付けたい。なぜなら、過去に政府が誘導した成長プロジェクトは、ことごとく失敗しているからです。成長は市場でしかできません。政府が成長分野を決めることはできないのです。
政府占市場にはそれぞれ役割分担があります。政府の役割は、市場が成長することを歪めてしまうような規制を取り除くことです。逆に規制を強化することで市場を守るこどもあるでしょう。つまり、”規制の出し入れ”をすることが政府の役割になるのです。また、〝お金の出し入れ〟もあります。民間だけでは投資が行き届かない分野へ、中長期的にみて必要だと判断すれば、政府が資金供給して先の成長を見込むことも必要です。
このように、規制とお金の両面を、上手にどのように実施するかが重要であり、それが成長を促すことになるのです。経済用語ではこれを「インセンティブ」といいますが、正と負のインセンティブをコントロールしなければいけません。金融政策と社会資本の整備、さらに経済成長につなげるインセンティブのコントロールは、政府が担うべき3大役割です。にもかかわらず民主党政権は、いったいこのうちの何をしてきたのかと問い直したい気持ちです。
物とお金のバランスでインフレは制御できる
以前の自公政権時代でも、政府の3大役割を十分に発揮してきたとはいえません。その後の民主党が何もしなかったので、本来の成長軌道への回帰という〝マグマ〟が爆発寸前まで溜まっていました。そこに安倍政権による強い指導力があって、一気に円安・株高へと市場が反応しました。これまでの民主党政権では、政府が成長を止めていたようなものです。
それでも民主党政権下、少しずつ伸びてきた成長余力は、海外に逃げるしかなく、国内では様子見ムードが充満していたので、市場自体がやる気を抑えてきたともいえるでしょう。それに対して〝成長していいよ〟〝後押ししますよ〟という政府のメッセージが伝わることで、設備投資したくてもしにくかった企業や、お金を使いたかった人たちに安心感を与え、行動を起こせるようになりました。それがアベノミクスの効果が出ている現状です。
また、これまで私たちが活動してきた「デフレ脱却国民会議」の主要メンバー約20人のうち、安倍首相と親しいメンバーが複数おり、彼ら〝リフレ派〟の考え方が伝わり、現在の政策に反映しているのではないかと思っています。リフレとはリフレーション(通貨再膨張)のことで、一般的に経済活動が回復していく状況をいい、ここではデフレから適正なインフレ率を目指す金融政策という意味です。時間のズレはあったでしょうが、デフレ状態を修正していく回帰は、必ず起こってくるものだったといえるでしよう。
一定のインフレ率を目標にしていく金融政策は、経済学としてある理論を基に、各国が実行し実績をあげている手法です。以前の政府は、財政政策と金融政策という車の両輪があるにもかかわらず、財政政策だけで金融政策には手を付けてきませんでした。車輪1つで暴走していたので、「もう1つも回そう」と、日銀副総裁の岩田規久男氏や浜田宏一イェール大学名誉教授を中心にした経済学者、評論家たちが言い続けてきたのです。それが、ようやく実現したということです。
ここでいうインフレ目標ですが、これまでの日銀政策は物価上昇率を実質1%にすることを目標としていましたが、現実はゼロからマイナスになっていました。生産力の上昇は概ね年間2%程度ですから、その範囲内であれば物価上昇2%を目標としても、極端なインフレになる可能性は非常に低くなります。目標値に達した後に、そのまま上昇を続けてしまうのではないかという懸念の声も聞きますが、そんなことはありません。物の数とお金の供給量のバランスで物価上昇が決まりますから、バランスを誤ることがなければ大丈夫です。
利権との癒着を防ぐ公明党の監視機能
物価上昇を心配する論調の中には、燃料費や小麦の価格上昇で大騒ぎしているものがあります。目標にするのは一般物価であり、多様な物価の加重平均のことです。ガソリン単体をみれば確かに値上がりしていますが、春闘の状況をみても賃金が上がってくる傾向も出ています。賃金を100とすれば、ガソリンや小麦の割合は10もないはずです。その10の上昇を心配して、100の上昇を抑えてしまっていいのでしょうか。だからこそ、2%の物価上昇を目標に金融緩和策を講じることが必要です。
大胆な金融緩和策で、国の借金が増えることを心配されるかもしれません。国債残高が1000兆円に届きそうな現状を、危機的に報道するマスコミもあります。しかし、国の財産は、インフラなどを換算すると650兆円以上もあります。国が破綻することは考えられません。国、企業は基本的には借金体であり、個人は黒字体なのが経済における通常の状態です。個人ではできないような長期投資を行うので国、企業は常に赤字体になって当然なのです。
今後、日銀に望みたいことは有言実行です。目標だけで結果を出さないようなこと、掛け声だけで、市場が動き出したら何もしなかったというのであれば最悪です。
社会資本整備については、本当に必要なところに資金供給をしてもらわなければ困ります。政治の構造上、社会資本整備はどうしても利権構造になりやすく、声の大きいところしか整備されないという面があります。
社会資本整備は、ハードだけではなくソフトもあることを強調したい。老朽インフラのメンテナンスもある意味でソフトです。みえにくいのですが、本当にやるべき社会問題を解決していくことが大事です。3番目の矢としてある成長戦略を考えれば、その基礎となる道路、交通などもそうですが、教育の社会資本整備が重要です。また、医療分野に回っている無駄な部分を洗い出し、そのお金を成長力、競争力をつけるために、必要な公共インフラへ回すべきだと考えます。
今後、アベノミクスが進むことで懸念されることは、自民党が利権団体に引っ張られていくことです。一方、公明党は良くも悪くも利権がありません。利権に頼らない公明党には、自民党に対する監視機能としての役割を期待します。現在は過去を反省している自民党ですが、時間が経てば再び昔に戻る危険性はあります。万が一、自民党が利権と癒着しそうなときは、公明党が国民の立場に立って、それを引き留める力をぜひ発揮してもらいたい。それができるのは公明党だけです。
<月刊誌『第三文明』2013年6月号より転載>