書評『百歳の哲学者が語る人生のこと』――激動の時代を生き抜いた哲学者のメッセージ

ライター
小林芳雄

人間は小宇宙(ミクロコスモス)である

 著者のエドガール・モランは現代フランスを代表する哲学者・社会学者である。これまで数多くの著作を発表し、『人間の死』や『方法』などの代表作を始めとして、いくつもの作品が日本でも翻訳されている。彼の哲学の特徴は、「イデオロギー、政治、科学」がなす三角関係を「複雑系」と考え、その地点から「人間とは何か」を問い続けた点にある。
 本書は著者が100歳のとき出版された自伝的エッセイである。第二次世界大戦からコロナウイルスのパンデミックに揺れる現代まで――著者は激動の時代を生き抜いてきた。1世紀におよぶ生涯を回想しながら、自身の思想を明快に平易な言葉で語っている。 続きを読む

芥川賞を読む 第26回『花腐し』松浦寿輝

文筆家
水上修一

街と人間の堕落が放つ甘美な腐敗臭

松浦寿輝(まつうら・ひさき)著/第123回芥川賞受賞作(2000年上半期)

湿り気のある静かな文体で引きずり込む

 W受賞となった第123回芥川賞のもうひとつの作品は、松浦寿輝の「花腐し(はなくたし)」だった。原稿用紙約123枚。43歳での受賞。大学教授のかたわら詩人、評論家としても活躍していて、高見順賞、吉田秀和賞、三島由紀夫賞などをすでに受賞していた。芥川賞候補になったのはこれが2回目だった。
      
 舞台は、多国籍な街、新宿・大久保。主人公は、友人と立ち上げたデザイン事務所の経営が行き詰まり倒産に追い込まれた男。仕事も家も失った主人公は、雨降るある夜、今にも崩れ落ちそうな廃屋寸前のボロ・アパートの一室を訪ねる。他の住人が全て転居するなか、ただ一人居座る男を追い出すために恫喝しに来たのだ。借金をしている知り合いから依頼されて請け負った小銭稼ぎの仕事である。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第8回 発大心(2)

[3]四諦

 四諦(四聖諦)は、中道、八正道(正見・正思・正語・正業・正命・正精進・正念・正定)、三法印(諸行無常、諸法無我、涅槃寂静)等とともに、初期仏教の重要な教説である。釈尊が鹿野苑(ろくやおん)の初転法輪において、修行時代の五人の仲間に対して説いたものである。四聖諦とは四つの聖なる真理という意味で、苦諦(くたい)、集諦(じったい)、滅蹄(めったい)、道蹄(どうたい)の四つである。
 苦諦とは、一切が苦であるという真理である。
 集諦とは、詳しくは苦集諦といい、苦の原因についての真理、すなわち、苦の原因は渇愛(喉の渇いている人が水をしきりと求める様をいい、根本的な欲望である)であるという真理である。
 滅諦とは、詳しくは苦滅諦といい、苦の原因である渇愛を滅すれば、苦の滅(=涅槃)が得られるという真理である。
 道諦とは、詳しくは苦滅道諦といい、苦の滅に至る道(実践方法)についての真理であり、八正道が涅槃への直道であるという真理である。 続きを読む

公明党を選ぶべき3つの理由――地方議員「1議席」の重み

ライター
松田 明

公明党山口代表・全国遊説第一声(2月5日)

投票所に足を運ぶ意味

 さて4月。いよいよ統一地方選挙である。
 国政選挙と違って地方議会選挙は微妙に盛り上がりに欠ける。与野党の勝敗が一目瞭然とならないうえに、市区町村議会と都道府県議会の選挙が混戦し、さらに市長や知事の首長選挙だけで今回は234ある。政治にあまり関心のない人からすれば、誰に投票すれば自分や自分の地域にとってプラスになるのか分かりづらい。
 とはいえ、実際にわれわれが〝主権者〟として権力を行使できるのは選挙という行動だけなのだ。「棄権」「白票」も今の政治に対する一つの意思表明のカタチだという意見はあるが、それは白紙委任に等しく、ツケを支払わされるのは自分たち有権者になる。
 地方議会議員の報酬も国会議員の歳費も、出どころは私やあなたの納めた税金だ。なにより選挙には「定数」というものがある。仮に積極的に当選させたい候補者が見当たらない場合でも、あなたは〝よりマシな〟候補者を当選させるべきだ。それはせめて〝ろくでもない〟候補者に特権と血税を与えないための大事な行動なのだ。 続きを読む

暴走止まらぬ共産党執行部――2人目の古参党員も「除名」

ライター
松田 明

 こんな政党が政権にいなくて本当によかった。
 同じ人間が22年以上ものあいだ、どれほど選挙に負けようと党勢が衰退しようと責任を取ることもなく代表の座に居座り続ける。さすがに党内から批判の声が出たら、批判した人間は次々に「除名」である。まるで旧ソ連か北朝鮮の粛清だ。
 今年に入って、日本共産党の古参党員が相次いで党改革を訴える著書を出版した。
 1人は松竹信幸氏。一橋大学に入学した翌年の1974年に日本共産党に入党。全学連の委員長をつとめ、卒業後は日本共産党の専従職員となった。国会議員秘書、党本部の政策委員会で安保外交部長などを歴任。2001年の第19回参議院選挙では同党の比例区候補(落選)にもなっている。現在は京都南地区に所属し「かもがわ出版」で編集主幹をつとめていた。 続きを読む