なんとなく気になる小説家がいる。作品を読んでもいないし、会ったわけでもない。いしいしんじ――みなさん、知っていますか? 僕は、書店をパトロールしているときに、彼の本を見つけて(手には取らなかったけれど)、いつか読むことになるだろうと直感した。
ある日、なんのきっかけだったか、アマゾンで数冊、いしいの小説を買った。読んでみると、なぜか懐かしい。むかし読んだ気のするような作品ばかりだった。それから僕は、いしいしんじの隠れファンになった(きょう初めて発表しました!)。
新刊が出たことを新聞のインタビュー欄で知った。『書こうとしない「書く」教室』。さっそく買って読んでみた。出版社のオンライン講座として収録した話をもとにしているので、とても読みやすい。
午前の部は、1時間目から3時間目まで。ここで語られるのは、いしいの来し方だ。会社員だったとき、処女作の出版が決まって、二足の草鞋を履いた、と喜んでいたら、急に胸が苦しくなって、見たら、おばあちゃんが乗っていて、2本の指を出している。
二足の草鞋はだめなんだとおもって、その日、会社を辞めた。それから専業作家になって、読んでいるとき以外は、いつもノートになにか書いている。理由は、「かゆみ」。自分と世の中の境界が、かゆい。それをかきむしるのは、文字であり、言葉だ。 続きを読む
