アジアの物語作家を自任して20年になる。しかし実際に作品を世に問い始めたのは、この5年ほどのことだ。40代なかばから50代の終わりにかけて、「満洲沼」にはまってしまった。
いや、そんな土地があるのではない。日本が植民地化した「満州帝国」のおもしろさに憑かれて、手当たり次第に資料を集めて読み漁り、何とか長篇小説を書こうとして、ずぶずぶ沼に沈んでいったのだ。
最初は、朝鮮半島を舞台にして、日本が朝鮮半島を植民地化した歴史を書く予定だった。それで某出版社の経費で関連資料を集めて、韓国へ取材旅行もした。現地では、出版社を営む人物、大手新聞の記者、政治家、文学者など、さまざまな人と会って話した。
帰国して、小説に着手したら、国家という存在が気になりはじめた。眼にする国家論を読み砕き、5年ほどしてようやく自分なりに、国家とは何か? が分かるようになった。そうしているうちに、国産みの快楽が味わいたくなって、満州に手を伸ばした。
ここから300枚ぐらいの小説を書き終えるのに、4、5年かかった。親しい目利きに読んでもらって、助言を受け、改稿しようとしているうちに、台湾が気になりはじめた。これは朝鮮半島の植民地史を書くための資料集めの産物で、なかに台湾の文献があったのだ。 続きを読む
