政権に影響力を示す公明党――世界的にも特殊な自公連立政権

ライター
松田 明

公明党に譲歩する自民党

 米国ノーステキサス大学の前田耕・准教授と、インディアナ大学のアダム・P・リッフ助教の発表した「自公連立政権」に関する共同論文が、各国の政治学者の間で話題を呼んでいる。
 2018年末に発表され、年が明けた3月に英国ケンブリッジ大学の学術誌に公開されたものだ。
 その概要について前田准教授は自身のツイッターで、こう記した。

 自民候補の公明票依存の度合いをデータで詳細に示し、更に、そのために自民が公明に対して政策面で大きく譲歩していることを明らかにしています。(2018年12月12日のツイート

 日本の自公連立政権が、支持基盤や重要な政策課題に対するイデオロギーに開きがあるにもかかわらず、安定したパートナーシップを持続していること。これは、ヨーロッパなど多くの先進民主主義国で見られる連立のあり方とは様相が異なるし、説明がつかない。
 とくに2人の執筆者が注目したのは、自民党が既に単独政権でも可能な議席数を衆参で獲得しているのに、公明党との連立を解消しないことだった。
 そればかりか、自民党に比べてかなり少数である公明党が、議席数よりも大きな影響力を自民党に対して行使しているというのだ。

平和安全法制と憲法改正

 その端的な例のひとつとして前田准教授らが挙げたのが、平和安全法制だった。
 自民党は当初、いわゆるフルスペックの集団的自衛権さえ目論んでいたが、公明党との与党間協議の結果、閣議決定の中で「新3要件」を定めた。
 自民党やマスコミの大半は「集団的自衛権の一部容認に踏み切った」と表現するが、閣議決定された内容について内閣法制局長官は国会の場で、

①いわゆる集団的自衛権の行使を認めるものではない
②憲法の基本原則である平和主義をいささかも変更するものではない
③昭和47年の政府見解の基本論理を維持したもの

と明確に答弁している。
 作家の佐藤優氏は、

 集団的自衛権の一部容認」といっても、日本政府が容認したのはじつは「個別的自衛権と警察権の範囲内ですべて処理できる内容」でしかない。憲法上、個別的な自衛権でも説明できるものだけです。公明党は現実的に日本の平和を守ったのです。(『いま、公明党が考えていること』潮出版社)

と指摘する。
 公明党が強い影響力を行使しているもうひとつが、憲法改正だ。前田准教授は、こう述べている。

 安倍首相の悲願ともいわれる憲法改正ですが、公明党は以前から、憲法九条の第一項、第二項は変えずに第三項を加えて、専守防衛の自衛隊は合憲であることや、国際貢献、平和維持活動などの項目を加えることを検討していました。その〝加憲〟案について、それは自民党の憲法草案とは相反するものであるにもかかわらず、安倍首相は言及しているのです。(『第三文明』7月号

議席数以上のブレーキ機能

 なぜ、単独政権さえ可能な自民党が連立を解消しないばかりか、こうした彼らの最重要事項ともいえる政策で公明党の強い影響力を受け入れるのか。
 前田准教授らは、選挙区ごとに候補者調整がおこなわれ、選挙区の中で支持層が組み合わさる自公連立の選挙協力に要因を見いだしている。

 自民党が再び一党過半数になったにもかかわらず、公明党との連立を解消していないのは、自民党候補の公明票への依存によるものと考えられます。だからこそ公明党は、自民党に対して政策面で強い影響力を持つことができるのです。(同)

 これまで公明党を批判する人々の論調として、公明党が政権にしがみつきたいがために〝下駄の雪〟のように自民党に追従しているとか、公明党支持者が自民党を延命させ〝悪政〟を継続させているといった言説が繰り返されてきた。
 だが、現実には公明党が政権内にとどまって、なおかつ選挙協力を密にすることで自民党に対して議席数以上の〝ブレーキ〟機能を発揮しているのである。

 長期連立の一翼を担う公明党は宗教をバックボーンにした政党ですが、海外にもイスラエルやインドに宗教政党は存在します。ただ日本と違うのは、政策的には急進的であり、連立内でも政策を中道から離れる方向へ引っ張る側にいます。一方、公明党は自公連立の中で自民党のブレーキ役として影響力を発揮することが多いのです。この点も世界的に見ると非常に珍しいケースで、興味深い研究対象だと考えています。(前田准教授/同)

「小さな声を、聴く力。」

 こうした公明党の果たす役割の大きさについては、日本国内の著名な政治学者からも相次いで言及されている。
 北海道大学大学院法学研究科の吉田徹教授は、

 今年一〇月には消費税が八%から一〇%へ増税される予定です。公明党は自民党や財務省の反対を押し切って、増税に際して軽減税率の導入を決めました。これにより、食料品や生活必需品の消費税率は八%に据え置かれます。(『第三文明』7月号)

と述べ、

 参議院選挙に臨むにあたり、公明党は「小さな声を、聴く力。」という新しいキャッチフレーズを掲げました。現場の声を丁寧に聴き取った上で、中長期的なビジョンを示すことができるのは安定した支持基盤のある公明党の強みです。(同)

と評価している。
 公明党が大きな影響力を行使して自民党のブレーキ役を果たせているからこそ、そのことに不満を持つ勢力もいる。
 安倍首相ら自民党首脳も、参議院選挙では自身のコアな支持基盤にアピールするため「憲法改正」を主張する。
 それを実際に押しとどめ切ることができるかどうかは、公明党が引き続き政権内で存在感を示せるかどうかにかかってくるだろう。
 野党が合従連衡を繰り返し、政権批判に明け暮れて国民の信頼を得られていない現状では、連立与党内における公明党の存在が、一段と重要になる。

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