「12.14総選挙」――選挙の先に待っている3つのこと

ライター
青山樹人

争点なきどころか非常に重要な選挙

 安倍首相は消費税率10%引き上げ時期を1年半延期することを表明し、衆議院を解散。本日12月2日公示、14日投開票という総選挙が始まった。
 野党各党は「アベノミクス失敗隠し解散」「大義なき解散」等と批判を強め、マスコミも「争点なき選挙」と評している。
 しかし、この総選挙の先、つまり明2015年以降の政治日程や、政治が取り組まなければならないいくつもの難題を考えると、じつは有権者にとっては非常に重みのある選挙だと言わざるを得ない。
 ボーナスが出て忘年会たけなわの投票日ではあるが、無関心になることなく、私たち自身の〝明日〟を決める重要な機会として、主権を行使したい。
 では、今回の選挙が行方を左右する〝その先〟にあるものとは何だろうか。

軽減税率は導入されるのか

 日本の人口は2008年から減少に転じ、世界でもっとも早く少子超高齢社会に突入した。社会保障に必要なコストは増え続け、税収は減るという負のスパイラルが始まっている。
 そこで「社会保障と税の一体改革」として、消費税率の引き上げが民主党政権時代に3党合意として決められた。
 ただし、消費税は安定した税収が見込める一方で、所得に関係なく同じ税率が適用されるため、所得の低い人ほど負担感が大きい。生活を切りつめても最低限の暮らしに欠かせないものはあり、一律の増税は暮らしを逼迫させてしまう。
 その際に考えられるのが「軽減税率」の導入だ。食料品など生活に不可欠な品目の税率だけを低く抑えるものである。
 第2次安倍政権では自民党と公明党の考えに隔たりが大きく、「与党内野党」として軽減税率の導入を迫る公明党と、それを拒む自民党との攻防が続いていたのである。
 今回の解散を前に、自公の税調幹部が協議した結果、衆議院選の共通公約として軽減税率の導入を〝めざす〟ことで合意した。
 しかし、財政健全化目標達成がより困難になると考える自民党にとって、内心では避けたいことには変わりがない。今回の選挙で公明党が現有議席を確保もしくは議席増とすることができれば、軽減税率導入への国民の信任を得たということになろう。まさに今回の結果が、導入の成否を大きく左右するのである。

集団的自衛権の法制審議のゆくえ

 さらに2015年には集団的自衛権をめぐる実質的な法制審議が国会で始まる。
「戦後レジームからの脱却」を主張する安倍首相の強い執着で、2014年7月、政府は安保法制についての閣議決定をおこなった。
 この閣議決定をもってマスコミは「集団的自衛権行使が容認された」と報じたのであるが、閣議決定の文章を冷静に読めば、これは「いわゆる集団的自衛権の行使は憲法上許されない」としてきた従来の政府見解(昭和47年見解)を超えていない。
 このことは内閣法制局の横畠長官が閣議決定後の衆参予算委員会で

「昭和47年見解における『いわゆる集団的自衛権』は、まさにその集団的自衛権全般を指しているものと考える。その意味で、丸ごとの集団的自衛権を認めたものではないという点においては今回(の閣議決定)も変わらない」
「いわゆる集団的自衛権の行使を認めるものではない」

と明言しているとおりである。
 詳しくは、過去の拙文(※1)を参照してもらいたい。
 ただし、安倍首相を筆頭に自民党内に改憲勢力は多く、次世代の党など野党の中にはさらに極右的な勢力もある。「集団的自衛権行使が容認された」という言説が固定化していくなかで、戦後70年の節目ともなる2015年、彼らは虎視眈々と右旋回の機会をうかがうだろう。
 閣議決定は単に内閣としての考え方をまとめたものにすぎず、今回の選挙のあとに控える国会での法制審議こそ、この安保法制を実質的に決定する場になるのである。
 そして、その行方を決めるものこそ今回の選挙結果のパワーバランスだ。

日本外交の最重要の節目となる2015年

 戦後70年の節目。それは対日戦争に勝利した中国にとっても、日本の植民地支配から解放を勝ち取った韓国にとっても、ひときわナショナリズムを高揚させ、日本への過去の感情を思い起こさせる節目である。
 近年、日中関係、日韓関係は、いずれも戦後でもっとも困難な状況が続いていた。それは日本のみならず、東アジア全体の平和と安定に著しい障害をもたらしていた。あの戦争が引き合いに出た瞬間に、米国は「戦勝国」である中国・韓国と立場を同じくせざるを得ず、日本の外交的孤立は米国にとっても大きな懸念材料だったのだ。
 その日中・日韓関係は、苦労の末、この2014年11月のAPECを契機として、ようやく好転への入り口に立てたばかりである。しかし、なによりも中国や韓国の指導者は2015年という節目の年を、国内政治的には日本への厳しい態度で臨まねばならず、楽観的な材料は甚だ乏しい。
 日本は、そのなかでなおこれらの国々と関係を好転させ、彼らと新たな未来を共有する出発を切ることができるのかどうか。これは2015年の日本の、最重要テーマの1つになる。ここに失敗すれば、日本は〝対話のできない国〟として、国際社会からの尊敬を一気に失ってしまうだろう。

被災地の復興に必要なもの

 以上の3つに加え、さらに東日本大震災の被災地では「震災5年目」に入る。
 被災地にとって今もっとも必要なものは、地域ごとの〝復興へのロードマップ〟である。住居、雇用、教育は、これから具体的にどうなるのか。その見通しが明らかにならなければ、人々は希望を持って人生を前に進められなくなり復興はもはや困難になる。
 選挙結果がいささかでも復興への道のりに水を差すことがあってはならない。政治に必要なのは美辞麗句を語ることではなく、現実に政策を立案し、それを遂行できる能力だ。
 どの政党に、どの候補者に、このあとの仕事をさせていくのか、熟慮して1票を投じたい。

(※1)WEB第三文明コラム「集団的自衛権と公明党を問う」1~3
集団的自衛権と公明党を問う(1) 「閣議決定」での勝者は誰か?
集団的自衛権と公明党を問う(2) 反対派は賢明な戦略に立て
集団的自衛権と公明党を問う(3) 自公連立の意味


あおやま・しげと●東京都在住。雑誌や新聞紙への寄稿を中心に、ライターとして活動中。著書に『宗教は誰のものか』(鳳書院)など。