日本再生の力は成熟したインターネット文化にある

評論家
宇野常寛

政治、経済に閉塞感が漂う中、日本文化の力を今一度問い直す。

露呈したテレビ、ネットの限界点

 2013年のカルチャーは、テレビドラマが息を吹き返した年だったと考える人が多いと思います。顕著なものとしての「半沢直樹」「あまちゃん」がありますが、これらはどちらも中核のユーザーが40代だったと言われています。
 これは今のテレビの手法やテレビに携わる人たちの創造力で巻き込める限界が、団塊ジュニアのアラフォー世代にあるという現実が露呈したといえるでしょう。
 今アラフォー世代は1つの分水嶺になっていて、彼らは頭では時代の切り替わりを理解している人が多い。戦後的な社会体制の限界や、インターネット以降のメディアと文化がこれまでのものとはまるで異なることを頭ではわかっている。しかし身体がそれについていかない。労働環境的にはまだまだ古い戦後的な大企業文化の影響下にある人が圧倒的だし、ネットもテレビの感想を呟く場所だと思っていて、独自の発信ができると思っていない人が多い。
「半沢直樹」と「あまちゃん」は奇しくもそんなアラフォー団塊ジュニアの代表的なふたつのメンタリティを体現しているように思います。「半沢直樹」的に戦後の日本的な大企業文化や官僚組織に対して基本的にダメ出しをしながらも、組織を飛び出すことはせず体制の中で歯を食いしばって生きていくか、「あまちゃん」的に、そんな世の中に対して薄ら笑い浮かべながら皆で慰めあっていくという〝ポジティブな薄笑い〟の共同体をつくるか。
 そして、その両者のどちらにも与しなかった、つまりテレビを見ないアラフォー世代(の文化人たち)はネットの炎上マーケティング合戦に明け暮れて疲弊しきっていると思うんです。

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宇野常寛が編集長を務める雑誌『PLANETS』 vol.8

インターネットをスローに使う

 これはどういうことかというと、たとえば昨年の参議院選挙の結果は若い世代の敗北を現していると思うんです。これまで、インターネット文化を醸成してきたアラフォー世代の起業人や言論人たちは、なんだかんだ言って「炎上マーケティング」的なものしか動員と世論形成の文化をつくれなかった。わざと極論を投下して話題を集め、1万人の敵、1000人のウォッチャーを作りながら100人の信者を作るといった〝焼き畑農業〟的な手法ですね。彼らはこうやって読者を囲い込んできた。そしてそのツケを先の参院選で払うことになった。
 なぜならば、こうした炎上マーケティングにおいては、いわゆる「ネトウヨ」や、一部の反原発論者に見られる陰謀論が最強になります。なぜなら「炎上」もネタとしては陰謀論以上の素材はないからです。陰謀論は基本的に間違っているので、その批判勢力を生んで無限に拡散していき、もっとも効率のいい「炎上」を招く。もちろん、こうした陰謀論者たちを僕は全く支持しないし、これまでインターネット文化の黎明期を支えてきた40代の起業家や文化人たちの功績も基本的にはリスペクトしている。しかし、ここには確実にネット言論の拡散の手段を炎上マーケティングしか育んでこなかった、僕たちアラフォーのソーシャルメディア第1世代の手法と想像力の限界であったと見ています。
 僕個人は現状のインターネット文化において支配的な、脊髄反射的、「炎上」的な「ファスト」な文化に対抗して、いかにインターネットだからこそできる「スロー」な文化、言論空間がつくれるかがカギだと思っています。そもそもスロー(たとえばアカデミズム)なものとファスト(たとえばジャーナリズム)なものとに2分される旧来のメディアに対してスローにもファストにも使えるのがインターネットというメディアの特性だったはずです。この10年あまり僕たちはネットを第2のテレビのようにしか使えなかった。しかし、ほんとうにメディアから世の中を変えようと思うのならインターネットをインターネットとして使う文化を育まなければいけないのだと思います。

<月刊誌『第三文明』2014年2月号より一部転載>

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うの・つねひろ●評論家。1978年、青森県生まれ。企画ユニット「第二次惑星開発委員会」主宰。批評誌『PLANETS』編集長。サブカルチャーから政治まで、幅広い評論活動を展開する。著書に『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、『日本文化の論点』(ちくま新書)などがある。共著に『希望論』(濱野智史との共著、NHK出版)など。