【書評】日韓関係の見取り図がここにある 解説:茂木健一郎(脳科学者)

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『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』
金惠京 著
集英社インターナショナル
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 日本と韓国は、歴史的にも縁が深い隣国として、これからの時代に協調し、穏やかに響きあっていかなければならない。そのことは、大げさな思想として語らなくても、生活実感に基づいた、ごく当たり前の、結論であるように思われる。
 それにもかかわらず、最近の日韓関係に不協和音が目立つのは、周知の通り。『柔らかな海峡』の中で、著者の金惠京(キムヘギョン)さんは、同時代感覚に満ちた筆致で、本来の日韓関係への道筋を示す。
 韓国で育ち、日本文化に惹きつけられて日本に留学し、さらに米国で学びを続けた金惠京さんが描く、穏やかで成熟した国としての日本、そして韓国との結びつきの「原風景」は魅力的だ。そのような関係は、かつて確かに存在したし、今でもきっとどこかにある。ただ、現実の中から聞こえてくる関係の軋みの音が、そのような姿を見極めることを妨げているのである。
 担当編集者が心を込めて選んだという、素敵な装幀画にも託された「柔らかな海峡」というイメージ。 そこに至る道筋が、感情的な言語というよりは、むしろ、国際関係や国際法を専門とする著者の学者としての冷静な分析、論理によって示されていることは、注目して良い。本書に示された緻密な分析こそが、「柔らかな海峡」へと運んで行ってくれる乗り物である。
 昨今の国際情勢を見ると、人間たちはあまりにも感情に流されているようだ。冷静に事態を分析し、状況を把握する「冷えた頭」こそが、かえって、「温かい心」を見失わない秘訣なのではないか。
 日韓関係は確かに軋んでいるが、それは逆に関係がそれだけ近くなっている証左でもある。熱い心の中で好きになったり、嫌いになったり。そんな動揺も悪くはないが、ここはいったん冷静に、本質を見極めるべきだろう。
 日韓関係の課題は、冷静に分析すればチャンスにもなる。『柔らかな海峡』は平易な言葉で書かれた日韓関係の見取り図であり、その冷静さの中にこそほんとうの温かさへの道がある。
(脳科学者・茂木健一郎)

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