【書評】日本の政治を考える上で読んでおくべき一書 解説:茂木健一郎(脳科学者)

zetsubou
『日本に絶望している人のための政治入門』
三浦瑠麗著
文春新書
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 しばしば、社交の心得として、「パーティーで政治と宗教の話はするな」と言われる。どちらも、ともすれば自分の考えにとらわれて、異なる意見に耳を傾けにくくなりがちな話題。議論に夢中になると、パーティー本来の目的である、さまざまな人々との交流という趣旨に反してしまう。
 政治を見る時に、バランスの良い視点に立つのはかくも難しい。三浦瑠麗さんは『日本に絶望している人のための政治入門』で、その難しい課題に挑戦し、見事に成功している。「政治」という、ともすれば全体が見渡しにくい対象に、やわらかで温かい光をあてて、さまざまなことを「等距離」の視点で論じているのだ。
 現代においては「保守」や「リベラル」といったラベル付けが独り歩きしがちである。ツイッターなどのソーシャル・メディアでは、論者を特定のイメージで決めつけて安心する、浅薄な風潮が一部で助長されることになった。
 しかし、政治に関する本当のことは、そのようなラベル付けではもちろん見えてこない。必要とされるのは、世界に関する深い知識と、とらわれない柔らかい感性。三浦さんは、その両方を兼ね備えている。
 三浦さんは、これからの日本の政治を考える上でのキーワードの1つとして「コンパッション」を上げる。「コンパッション」こそが、「自由」の後にくるべきものであるとさえ書く。これは、慧眼だと言えるのではないだろうか。政治的な立場を超えて、異なる意見を持つ者の体験を想像し、場合によっては共感できる能力。そのような心の働かせ方こそが、これからの時代には必要である。時には、文化、言語、宗教、そして国境を超えて。
 NHKの討論番組などで一躍注目される若手論客が「日本に絶望している人」に処方した、「コンパッション」という特効薬。丸山眞男氏にならって、著者が「本店」(=学問的業績)と「夜店」(=時事評論)の双方でこれからもますます活躍することを、期待したい。
(脳科学者・茂木健一郎)

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