生涯学習の時代 学生の「学びたい」意欲に応える創価大学

創価大学教授/通信教育部長
花見常幸

 未曽有の人口減少・少子高齢化社会が到来している。熟年・高齢世代の「学び直し」を支えることは日本社会の活力を維持する上でも大切だ。生涯学習における通信教育の果たす役割について、創価大学通信教育部の花見常幸教授に話を聞いた。

教育は人生を実り豊かにする投資

 2014年4月に発表された総務省の人口推計(2013年10月時点)では、65歳以上の高齢者人口が3190万人に達し、過去最高になりました。前年に比べて高齢者人口は約111万人も増加しており、すでに総人口に占める割合は25.1%に達しています。
 また最近のニュースによれば、日本人の平均寿命も、男性がはじめて80歳を超え(80.21歳)、女性は86.61歳に達しています。仮に65歳まで仕事をし続けたとしても、男女ともに15年以上ものセカンドステージ(定年後の第2の人生)を生きることになります。そういう意味では、今ほど、セカンドステージを実り豊かにする人生設計が求められる時代はないと思います。
 旅行やスポーツなど日々の暮らしを充実させる手段はたくさんありますが、私は人間の内面を高める「学び」こそ、真に自分自身を豊かにしていく方法だと考えています。そうした意味で、大学の通信教育には、高齢世代の学ぶ意欲に応えるためのさまざまな学習環境が用意されています。
 たとえば、体力の衰えた高齢者が、遠くの大学に日々通学することには多くの困難が伴います。また高額な学費を負担することも大変でしょう。さらに自分の志望学部に入学するためには、英語をはじめとした受験科目をイチから学ばなければなりません。
 しかし、大学の通信教育であれば、この3つの困難を克服することができます。郵便やインターネットを活用するため毎日通学する必要はありませんし、学費も通学課程に比べてだいぶ安くなっています。また原則として入学試験を行わないため、自分がこれから学びたいと思う専門分野の勉学に、すぐにとりかかることができます。
 財団法人「私立大学通信教育協会」が実施したアンケート調査(※1)でも、大学の通信教育のメリットについて尋ねた質問に対して、「いつでも学べる(51.5%)」「学費が安い(34.8%)」「誰でも入れる27.3%)」との回答が寄せられています。
 これまでの自分のライフスタイルを大きく変えずに学べる大学の通信教育には、セカンドステージを充実させるたくさんの可能性がつまっていると思います。

(※1)私立大学通信教育協会 平成23年度「第8回 学生生活実態調査」(2つまで回答可)

いつでも・どこでも

「いつでも・どこでも学べる」との大学通信教育の特色を生かしながら、創価大学通信教育部ではそれに加えて、安心・充実の学習サポート体制の構築に努めてきました。
 さらに現在、2016年の開設40周年に向けて「時代のニーズに応える質の高い教育の提供」とともに、「学習サポートのさらなる充実」を目指して新たな取り組みを開始しています。
 その新たな取り組みとは、「アカデミック・アドバイザー」制度とレポート作成のための支援制度の充実の2つです。13年度からスタートした「アカデミック・アドバイザー」制度では、通信教育部の専任教員全員が、各地方別にガイダンスを担当するほか、学習計画の立て方のアドバイスや具体的な学習方法の指導を行っています。

【創価大学通信教育部 入学者年齢分布(60~80代)】 2014年度は07年度と比較して60代の入学者が1O%近くも増え、60~80代の入学者が入学者全体の20%を占めていることがわかる。なお、14年度の全体の入学者は前年比18%増の1764人。13年度に卒業した通信教育部生の最高齢は88歳の女性であった。

【創価大学通信教育部 入学者年齢分布(60~80代)】
2014年度は07年度と比較して60代の入学者が1O%近くも増え、60~80代の入学者が入学者全体の20%を占めていることがわかる。なお、14年度の全体の入学者は前年比18%増の1764人。13年度に卒業した通信教育部生の最高齢は88歳の女性であった。


 もう1つのレポート作成のための支援制度も、本学の大きな特色となっています。
 大学を卒業するには、定められた「単位」を取得する必要があります。その単位を取得するために大学通信課程では、自分で専門書を読み、レポートを書いて合格しなければなりません。4単位の科目なら4通のレポートを書き、はじめて科目試験を受けることができます。学部によって異なりますが、卒業までに書き上げるレポートは約90~100通にもなります。
 しかし、それまで大学教育で求められる「学習成果の報告書」としてのレポートを書いたことのない人が、一定レベル以上のレポートを書き上げるには、相当の困難が伴います。いわば通教生最大の悩みといってもよいでしょう。
 そこで本学では、昨年度から全国各地で「フォローアップ・ガイダンス」や「学習相談会」という名称で、1コマ90分のレポート作成講義を年間4回実施しています。
 また夏期スクーリングの期間中には、ベテランの通教専任教員が担当して、「レポート作成特別講義」を3回実施します。昨年度は、こうした講義に、全体でおよそ1200人の通教生が参加し、その約9割が「参加してよかった」と感想を述べていました。ある学生は「そもそもレポートの意味自体がわからなかったので非常にありがたかった」と喜んでいました。

「学生第一」の心で

 さらに本学独自の取り組みとして、スクーリング科目についてのメディア授業、DVD学習の導入があげられます。通信教育で大学を卒業するためには、文部科学省が定めた一定数以上のスクーリング科目を受講し、単位を取得する必要があります。
 しかし、はじめて専門の講義を聴くわけですから戸惑うことが多いのではないかと思います。また自分で行う予習・復習にも限界があります。
 そこで本学では、各科目の最初の5コマ分の講義をDVDに収録し、スクーリング受講の前に学生に送付します。どの学問でも、基礎、基本の部分の理解が大変に重要ですから、学生たちは、事前にこのDVD学習にしっかり取り組むことによって、スクーリングで高い学習効果を上げることができるのです。
 DVD学習の効果を最も実感できるのが語学の分野です。たとえば中国語は、「四声」(発音の仕方で言葉の意味が変わる)の習得が非常に大切です。しかし、短いスクーリングの中で発音を完璧にマスターすることは難しいでしょう。
 また聞き逃してしまった部分をもう一度講師に聞き直すことにはためらいもあるはずです。DVD学習であれば、発音の練習を何度でも繰り返すことができ、安心して語学を身につけることが可能になります。
 さらに今後は「パック履修」という形で、自由選択コースの科目選びが簡単にできるようにします。
 これは、自由選択コースで学ぶことにしたものの、どの科目を選べばよいのかわからないという学生のために、「健康・生きがい」や「心理学」に関連する科目などを数科目ひとまとめにパッケージ化し、効率的に学習できるようサポートするものです。
 インターネットに接続できる環境があれば、自宅でスクーリングを受け、ほかの学生との交流や、教員への質問なども行える「eスクーリング」科目も増やしていく予定です。
 創大通教では、さまざまな学習支援の制度を通じて「学生第一」の学習環境づくりに今後も力を尽くしていきたいと考えています。

創大通教が誇る実績

 創価大学は「民衆に開かれた大学」として発展してきました。通信教育部もその理念に基づき、これまで各界に人材を輩出しています。
 たとえば本学の伝統である教員採用試験の合格者は、2001年から13年連続で200人を突破していますが、毎年その半分を通信教育部の学生や通教出身者が占めており、その合格者も22年連続で100人を超えています。年度によっては通信教育部の合格者のほうが多い年もあるほどです。sokauni
 また昨年には、最難関の試験といわれる「司法試験」に2人の合格者を出すことができました。創大通教はじまって以来の快挙です。
 合格者の1人は、一度創価大学の法学部に入学しましたが、家族の介護と勉学の両立から体調を崩し、休学を余儀なくされました。しかし、通信教育部に移って法律を学び続け、さらに法科大学院に進学されます。
 合格後、彼は、「法科大学院で司法試験の合格を目指して勉強を始めたものの、何度もやめよう、あきらめようという気持ちになりました。しかし通教在学中に、スクーリングで自分よりもはるかに年配の方が、分厚い『六法全書』を引きながら真剣に学ばれている姿を思い出し、何度も励まされ、弱い心を乗り越えることができました。創大通教なしに私の合格は考えられません。これからは創立者の思いに応えて、社会福祉の分野で活躍する弁護士になりたいです」と決意を語ってくれました。

信を通わす教育

 創大通教が発展を続ける背景には、通教生一人ひとりに対する創立者・池田大作先生の深い信頼と期待があると思います。また創立者の真心の励ましに何としても応えたいという学生たちの熱意もあります。
 創立者は、小説『新・人間革命』の「学光」の章で、本学の通信教育の「通信」とは、レポートを大学に送り教員が添削して送り返す「郵便制度」のみを意味するのではなく、師匠と弟子がともに学びながら、互いの間に「信」を通わせることに本当の意味があるのだ、と教えていただいています。
 また創立者は、同じく「学光」の章で、「教育の本義は人間自身をつくることにある」とつづられています。そして牧口常三郎先生と戸田城聖先生の創価教育の歩みについて紹介されながら、「働きながら学ぶ通信教育部の学生こそ、創価教育の体現者である」との励ましを送ってくださっているのです。
 私たちは、この創立者の深き思いに応えることができるよう「全ての人に開かれた民衆のための大学」を目指し、さらなる努力を重ねていく決意です。

<月刊誌『第三文明』2014年10月号より転載>


はなみ・つねゆき●1952年、東京都生まれ。創価大学法学部卒業。同大学院法学研究科博士後期課程単位取得後、同大学平和問題研究所助手、法学部助教授。92~93年に米国ハーバード大学でvisiting fellowとして在外研究。97年に創価大学法学部教授に就任。同大学法学部長を経て、2010年から通信教育部長。専攻は憲法学。