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日本は憲法9条の考えを世界に輸出していくべき

国際交流NGOピースボート共同代表
川崎 哲

 憲法9条は世界からどのように評価されているのか。私たちはどう向き合っていくべきか――。

日本のナショナリズムを世界が警戒

 最近の安倍政権の安全保障政策を見ていると、私はその進め方に強い危機感を感じています。
 海外でも日本の現状を心配する声をよく耳にします。昨年(2013年)7月、ピースボートでシンガポールを訪れる機会があり、そこである国際組織の先生に開口一番「安倍政権が心配です」と言われ、今年3月また同じ先生から「すごいスピードで軍事的政策が進められているが、日本は大丈夫なのか」と問われました。
 アメリカも同様です。日本では、アメリカは集団的自衛権の解釈変更を支持していると言われていますが、実際はもっと複雑です。アメリカの主要紙の論調を見ると、いずれも安倍政権の方向性に対して危機感を表しています。ニューヨークタイムズの社説(2013年12月30日)は、「日本は武器輸出の解禁や軍事力増強ではなく、平和憲法の理念こそ輸出すべきだ」と主張しています。
 アメリカ政府は一貫して、日本は中国や韓国との間の緊張をこれ以上高めないでくれ、とのメッセージを発しています。
 先日、デリーでの国際会議で、インドの防衛関係者や中国、ヨーロッパの識者と懇談したとき、私はこんな質問を投げました。「インドでは現在、中国との緊張関係が続いているが、中印関係と日中関係ではどちらのほうが悪い状況だと思うか」と。すると「当然、日中関係だ」と口々に言うのです。
 その理由は、中国とインドはたしかに軍事的緊張関係が続いているが、日中関係では、軍事的緊張関係に加え、政府がナショナリズムを持ちこんで緊張をより煽っている、というのです。外交・軍事関係の実務部分とナショナリズムという感情部分が相互に刺激し合って非常に危険な展開です。アメリカが安倍首相の靖国参拝に対して強く反発したのは、まさに日本のナショナリズムに対する警告だと思います。

憲法解釈の変更は戦後日本の旗を降ろすこと

 今、政府内では、集団的自衛権について「限定容認論」が勢いを増しています。しかし仮に「限定的」であれ、集団的自衛権を認めることは憲法9条を死文化させるに等しいことです。憲法9条は国が内外に示してきた大原則です。実態と合っていないという批判がありますが、憲法は原則を示すものであって、取扱説明書のように事細かなケースを示すものではありません。
 憲法9条の原則は「戦争放棄」と「戦力不保持」と「交戦権の否認」です。政府の憲法解釈は長い間、自国を個別に守る個別的自衛権はあるものの、他国と共同で武力攻撃に対処する集団的自衛権は認められないとしてきました。「限定的」という条件を付けたところで、この原則を崩すことは、戦後日本が守り続けてきた「戦争をしない」という大きな旗を降ろすことになるわけです。
 いったん旗を降ろしてしまえば、あとの変更はなし崩し的に進められる可能性が大きいです。ですから、限定論など細かい議論に入るべきではないと私は思います。
 憲法解釈は私の専門ではありません。ただ、戦争はしない、戦争を前提とした組織も持たないというこの原則が、日本と近隣諸国の信頼、そして日本の安全の土台だったと思います。この土台を壊し始めたら、日本の安全はぐらつくでしょう。

世界は9条に注目し始めている

 今世界は、戦争放棄を謳った憲法9条に注目し始めています。
 世界最大の軍事国家アメリカですら、アメリカと比較すれば小さな国家であるイラクさえ制圧できずに、結局泥沼化させてしまいました。また、2001年の9・11では、少数のテロリストによってパールハーバー以来の国家的惨事が引き起こされたのです。1万発近くの核兵器を持ち、核による抑止力を謳ってきたアメリカは、このようなテロを抑止できませんでした。
 もはやこれからの世界は軍事力によっては問題解決できないのではないかということを、アメリカ自身が学び始めています。世界最大の軍事力を持つアメリカですら、軍事力による安全保障の限界を認め、ソフトパワーによる安全保障を導入し始めているのです。

これからの時代は「紛争予防」がカギ

 では今、世界では平和構築のためにどのような動きがあるのでしょうか。
 2008年5月に幕張メッセで42ヵ国から約3万人が集まって「9条世界会議」というものが開催されました。そこで基調講演をした北アイルランドのノーベル平和賞受賞者のマイレッド・コリガン・マグワイアさんをはじめとして、多くの識者が訴えていたことは「紛争予防」です。
「from reaction to prevention」。つまり、「反応から予防」。多くの軍事問題では、相手国が軍事的な行動を起こしたときに、それに対してどのような反応や対処をとるかが重要でしたが、これからは武力紛争やテロが起きる前に、そうした問題を事前に防止するための紛争予防が平和のカギを握っていると考えます。
 たとえば、日本と中国と韓国など、領土に関する係争を抱えている地域では、その周辺での軍事演習を禁止したり、非武装地帯化するという方法があります。あるいは、民間レベルでは近隣の漁業組合が話し合いの場をもって周辺海域の管理や線引きのルールをつくることができます。
 このように平和共存のための知恵や技術を政府レベルだけでなく民間レベルでも考えていくことが大切です。
 憲法9条の理念を生かすということは、紛争を予防する力を身につけるということです。それが本当の外交能力だと思います。

安倍政権の暴走を止めるのは公明党

 そういう意味で、9条は世界の最先端を行く憲法です。そして、私たちはその憲法を1945年の敗戦を経て手にすることができました。
 国会議員の中には、9条は国益を害するなどと言っている方もいますが、これからの時代の本当の国益は、今述べたような軍事力に頼らない平和解決の技術を高めることにあるはずです。
 こうしたことは観念論にすぎないと批判する人がいますが、決して観念論ではありません。
 たとえば、コスタリカ。この国は、日本と同じく憲法で軍隊を持たないことを決めました。日本よりもさらに徹底していて、実際に軍隊を全く持っていません。
 コスタリカは、2008年に国連(安保理)の非常任理事国として、軍備の規制に関する安保理特別会合というものを開催しました。
 コスタリカがそこで提案したのは、軍事費とODA(政府開発援助)を絡めて、軍事費を減らし、代わりに環境や教育に多く支出している発展途上国に対して積極的にODAを出そうというガイドラインです。あまり知られていませんが、国連憲章の第26条には「世界で軍事に使うお金は最小限に抑えなければならない」、そして「国連安保理のもとで世界の軍事費を最小限にするための計画を策定しなければならない」ということが書かれています。こういう取り組みこそ日本が主導すべきです。
 今、安倍政権の軍事一辺倒の流れに実際にストップをかけられる政党は公明党だけです。平和・福祉・人権を掲げる党として、がんばってほしい。そうすれば、与党の中にも平和と人権を旗頭としてやっている人たちがいるんだ、ということを多くの国民が、そして世界が理解するはずです。
 私は海外の識者から「安倍政権の暴走に歯止めをかける政治主体はないのか」とよく聞かれますが、そのときに私は「与党の中には公明党という党があります。平和を重視している政党なので、これがどう動くかで安倍政権の動きも変わっていきます」と答えています。
 9条を捨てるということは、世界的な損失です。戦争の苦しみを経て、世界は国連をつくり、日本では9条がつくられました。9条は日本の憲法ですが、世界が手にした9条です。今こそ大切にしなければなりません。9条の考え方を広め、世界に輸出することが、日本がなすべきことだと思います。

<月刊誌『第三文明』2014年6月号より転載>


かわさき・あきら●1968年、東京生まれ。東京大学法学部卒業。長年、平和活動や人権活動に従事し、2003年ピースボートのスタッフとなり現在に至る。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)共同代表。「アボリション2000」調整委員。08年から広島・長崎の被爆者と世界を回る「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」プロジェクトを実施。著書『核拡散』(岩波新書)で日本平和学会第1回平和研究奨励賞を受賞。恵泉女学園大学非常勤講師。立教大学兼任講師。日本平和学会会員、日本軍縮学会会員・編集委員。 川崎哲のブログ