世界一の少子高齢社会は、こう迎え撃て! ――子ども・子育て新制度、若者、起業

認定NPO法人フローレンス代表理事
駒崎弘樹

こんにちは、ハイパー高齢社会

 米国のデイヴィッドソン教授によると、これから20年後、65%の人は現在では存在しない仕事に就いているそうです。つまり、我々の生きる時代は、極めて激しい変化に見舞われることだけは確実で、予測なんておこがましくてできません。
 とはいえ、ある程度言えることもある。先進各国はグローバリゼーションへの対応が課題になっていますが、日本の場合には人口減少という大問題が付加されてきます。2050年には、総人口の4割が高齢者という「ハイパー高齢社会」が我が国に到来します。これは人類史上これまで存在したことがないものです。そんな人類未到の高齢社会に入っていくわけで、答えのない手探りで最適解を見つけていかざるを得ない社会になるわけです。
 そうした社会的な試行錯誤とともに、ソリューション(問題解決策)を生み出していくことを日本全体でしていくことが要請されます。

地味だけど「子ども・子育て支援新制度」は超重要

 そうしたなか、2015年には、子育て、子どもに関するジャンルで大きな変化があるでしょう。地味ですが「子ども・子育て支援新制度」が発動し、ほぼ70年ぶりに子どもをめぐる政策が大きく転換されます。
 ここで失敗すると「ハイパー高齢社会」に向かう人口減少に歯止めがかけられないことになってしまいます。非常に重要です。とくに金(国家予算)が。
 現在、消費増税10%によって7000億円が子育て支援に投下される約束になっています。5%から10%に増やし、12.5兆税収が増えるのに、そのうち5%しか子育てに回らないのかよ、というツッコミはありますが、それでもこれまで金がなくて保育園すら満足に造れなかったので、まあよし、と。
 しかし、仮に消費増税10%を見送ることや、軽減税率を導入して7000億円の予算が削られるようなことになれば、保育所待機児童問題などの解決は完全にご破算になってしまいます。そうすると女性が働くなんて不可能な話となってしまい、アベノミクスの女性活用という柱は完全に無意味なものとなるでしょう。
 しかし、アベノミクスのなかで最も重要なのが、この女性活用という視点。もし日本で女性が先進各国なみに働くようになるだけで、1人当たりGDPが4%程度も上昇すると試算されています。これまで10年の1人当たり実質GDP成長率は0.8%ですから経済的にも極めて有効であり、ここにこそ予算を投下すべきだと考えています。
 ちなみに、この7000億円というのは待機児童40万人対象のものです。潜在待機児童40万人というのが正確な数値であるかどうかは、実は明確な検証はされておらず、もしかすると100万人の待機児童が存在するのではないかという研究者もいます。いずれにせよ、より多くの予算措置が喫緊の課題で、とにかく金を入れるべきなのです。

ますます多様になるライフスタイルを前提にマネジメントを

 少子高齢社会への適応という大問題を考えるとき、高齢者が増えて働く人が減っていくことが大きな問題となります。このままでは、2050年までに労働者3人に1人がいなくなるので、それは大変なことになります。
 そのなかで、日本の唯一の希望は、(働く環境が脆弱だったせいで)女性がまだ働いていない点です。女性が先進国なみに労働力として機能するようになれば、労働人口の減少を緩和させることが可能です。
 同時に、「介護退職」ということも問題になっています。団塊の世代より少し後の50代の人たちが80代の親たちの介護をしなければならなくなり退職を迫られる問題です。50代というのは、企業でも管理職であったり中枢のポストにいる人たちです。こうした人たちが介護によってダメージを受ける「大介護社会」が到来するでしょう。
 これまでの日本企業は、基本的には、すべてを仕事に傾注することを働く人に要請してきました。100%のパワーを会社につぎ込むことを当然のように要求してきたのが日本の社会でした。こうした働き方は無理な時代が到来しました。
 20~40代が仕事と子育ての両立で、50~60代が仕事と介護の両立をしないといけないのだとしたら、もう「仕事」と「X(何か)」の両立が「働く」の大前提でなければいけない時代です。残念ながら、そのマネジメントの仕方を企業は知りません。これからは、そこを転換できない企業は生き残れないでしょう。女性を有力な労働力として活用し、多様性を競争優位の源泉としたダイバーシティ・マネジメントという観点が重要、というか当然になってきます。
 今叩かれているブラック企業なんて、論外です。従業員を不当に扱わなければ生き残れないというのなら、生き残らなくていいと思います。企業がなくなっても、従業員はより有望な企業に移動すればよいだけ。法律はそれを邪魔しないようにしなくてはダメです。「足による投票」で、ダメな企業は消えて、よき働き方のできる成長企業がどんどん生まれるように。

「内向きな若者」こそが地域を救う

 しなやかな社会をつくるため、地方の再生も課題となります。よく若者は「内向きだ」と批判されます。6割の若者が地元にずっといたいと回答するなど、若者たちの多くは、「地元が好き」というアンケート結果が出ています。
 これは新聞論調では非グローバルで「内向き」でダメだというのですが、それは誤り。若者が地元を愛して残ってくれなければ、過疎化が進み、地方が破綻してしまいます。若者が地元に残りたいということはむしろ非常によいことで、これを機会と捉えなければ。
 地方が活性化するためには、産業が生まれることが不可欠です。僕は被災地支援に携わってきましたが、それを痛感しました。国の施策頼みではなく、地方の人が、自らその地方のニーズや資源に応じた事業を立ち上げるべきです。
 というわけで地元を愛する若者は、どんどん地元で起業するべきです。地方は市場がないという人もいますが、そんなことは関係ない。インターネットが普及し、商圏の制約なく物を販売することも容易な時代です。たとえ、地元に消費人口がなかったとしても、都会や海外を市場とすることがネット社会の到来によって可能となっています。
 地方で起業する若者を後押しすべき。そして、たとえ失敗しても、再度チャレンジすることを鼓舞できる環境を整えていくべきです。安倍さんだけ再チャレンジできるんじゃなくて、国民みんなが何度でも再チャレンジできる社会に。

若者の起業を実質的に支援する仕組み

 従来、日本には寄付文化が存在しないといわれてきました。それが誤りであることが、東日本大震災で数千億円もの寄付・義捐金が集まったことで立証されました。
 地元で起業や社会起業しようとする若者を組織的に支援する仕組みも少しずつ始まりつつあります。クラウドファンディング(ネットによる小額資金調達)という仕組みがあります。100万円程度であれば、ネットなどを介せば、信じられないほど容易に資金が集まる時代となりました。
 小口の資金を拠出し起業や社会起業を支援しようという動きは、どんどん進行しています。2015年以降はこれがより発展するでしょう。
 挑戦があれば、社会イノベーションが生まれます。ソーシャルメディア上の定評や信頼があることが、出資を誘発し、なにか行動しようとする人を支援する社会になりつつあります。「評判の経済化」といってもいいでしょう。「共感が金になる」という面白い時代。そういう意味では、これからの時代は、個人が屹立する時代です。
 そうなると、個人単位で社会を変えていくことが可能な時代になるということ。NPOでも企業でも、国を待たずにとっとと実例をつくっちゃう。それをソーシャルメディアで拡散し、評判を得る。そこからさらに国や行政にアイデアをパクらせてあげて、国全体にイノベーションを広げていく。実際に僕たちがやっていることですが、こういうことが誰にでもできるようになっていく。
 ますます面白そうな時代の扉が開きつつある。そんな感じしませんか?

<月刊誌『第三文明』2014年2月号より転載>


こまざき・ひろき●1979年、東京都江東区生まれ。社会起業家。認定NPO法人フローレンス代表理事。慶應大学総合政策学部卒業。「子どもが熱を出したときに預かってくれる場所がほとんどないという『病児保育問題』を解決し、子育てと仕事の両立が当然の社会をつくろう」と、2005年4月に全国初の非施設型・共済型病児保育サービスを開始。07年ニューズウィーク「世界を変える社会起業家100人」に選出。10年からは待機児童問題解決のための小規模保育サービス「おうち保育園」を開始。12年に「小規模認可保育所」として国策に採用。同年内閣府「子ども子育て会議」委員に就任。著書に『「社会を変える」を仕事にする』(ちくま文庫)、『働き方革命』(ちくま新書)などがある。