映画」タグアーカイブ

人間の罪深さと、それ以上の美しさと。――映画『光をくれた人』

ライター
倉木健人

流れ着いた1艘のボート

 オーストラリアの西の果てに浮かぶ絶海の孤島。そこはインド洋と南極海がぶつかる海の難所で、島には航路を照らす灯台だけがある――。
 原作となったM.L.ステッドマンの小説『海を照らす光』(ハヤカワepi文庫/原題『The Light Between Oceans』)は、2012年に米国で出版されるや40以上の言語に翻訳され、世界中でベストセラーとなった。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第25回 ウディ・アレンの映画術

作家
村上 政彦

 TVを視ていたら、あるCMで太宰治を文豪といっていた。太宰は好きな作家なのだが、これには違和感があった。確かに、すぐれたいい作家である。しかし彼には、文豪という冠は似合わない。
 日本文学の中で文豪といえば、夏目漱石、森鴎外、谷崎潤一郎あたりだろう。彼らには文豪にふさわしい威信がある。重みがある。太宰には、それがない。いや、ないことが魅力なのだ。 続きを読む

アピチャッポンの最新作、日本初公開――映画『光りの墓』

ライター
倉木健人

眠り病にかかった兵士たち

 世界が注目するタイの現代美術家にして映画作家でもあるアピチャッポン・ウィーラセタクン。2016年の日本がさながら〝アピチャッポン・イヤー〟になることは、以前に『世紀の光』についての本欄で述べた。
 その『世紀の光』に続いて3月26日から順次公開されるのが、この『光りの墓』だ。フランスの「ル・モンド」紙が「彼は新しい映画史を書いている」と評したアピチャッポンの、まさに最新作である。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第5回 J・J氏のダンディズム

作家
村上政彦

 大人になりたくなかった。二十歳になるのが憂鬱だった。若いというのは、せつないことでもあるのだ。そういうとき、こんな大人にならなってもいいかな、とおもう人がいた。そのうちの1人が、J・J――植草甚一だった。 続きを読む

【コラム】女性必見! 上質な〝大人の娯楽作品〟――インド映画『マダム・イン・ニューヨーク』

フリー編集者
東 晋平

お決まりのボリウッドとはひと味違う

 インドは世界一の「映画大国」だ。長編と短編を合わせて、年間に2000本近い作品が公開されている。なかでもヒンディー語映画の一大制作拠点になっているのが、アラビア海に面した西海岸の都市ムンバイ。1995年まではボンベイと呼ばれていた街で、いつの頃からかムンバイの映画産業界もしくはインド映画そのものを指して、ハリウッドをもじった「ボリウッド(Bollywood)」というネーミングが定着した。
 日本でも、1998年に公開された『踊るマハラジャ』が大ヒットとなったし、2013年も『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』が話題になっている。 続きを読む