参院選で明らかになったこと――誰が何を煽り立てているのか?

ライター
松田 明

7割が「野党に魅力なかった」

 7月10日に投開票が行われた第24回参議院選挙。事実上、共産党が主導した初の「野党共闘」が注目されたが、結果は与党の圧勝に終わった。

 民進党など野党は参院選で、安倍政権の経済政策「アベノミクス」を失敗だったと批判した。しかし、自民党の得票率は、アベノミクスの「恩恵」が届いていない市町村でも2013年の前回参院選と大きくは変わらなかった。地方でもアベノミクスへの期待は根強いといえる。(毎日新聞7月12日朝刊)

 選挙前の各社調査でも有権者の関心は「経済」「医療・社会福祉」だったが、野党4党は争点を「憲法改正」「戦争法」などとして、国民の不安を煽る戦術に出た。
 政策論争を避け、不安や憎悪で国民を分断する野党の手法や、「3分の2を取らせない」といったネガティブな姿勢は、かえって多くの有権者を失望させた。
 朝日新聞が選挙後に実施した調査で、なぜ与党が改選議席の過半数を大きく上回ったのかという問いに対し、

「野党に魅力がなかったから」が71%に及んだ。(朝日新聞電子版7月13日)

と、7割を超す人々が野党の失態を指摘している。

ネット選挙戦術と「扇動家」

 今回は選挙権年齢が18歳以上に引き下げられ、10代有権者の動向も注目された。共同通信の出口調査では、10代の40.0%が自民党に、10.6%が公明党に投票しており、民進党、共産党など野党4党への投票割合は他の世代より低調だった。
 メディアやネット上で大きく取り上げられ続けたSEALDsなど若者を中心とした煽情的な安倍政権批判が、実際の若い世代にはさほど響いていなかったことを裏付けたかたちだ。
 また生活の党の山本太郎氏が支援した三宅洋平候補(東京選挙区)は、フェスと銘打った選挙運動の動画をSNSを通じて拡散する手法をとった。
 そこでは、「三宅候補への支持が若者を中心に急拡大している」「当選圏内に入っているのにメディアは報道しない」といった〝解説〟が添えられた。しかし実際の得票は、6位候補の半数程度、8位の横粂候補にも終始水をあけられ、そもそも当落競争には遠く及ばないものであった。
 デマや陰謀論を拡散して知識の乏しい層を扇動する三宅氏の手法は、むしろ多くの批判を浴びることとなった。こうした人物への支援を熱心に呼びかけた政治家や著名人の責任も大きい。
 創価学会の三色旗をかざして公明党を批判する人々についても、野党や一部メディアは、あたかも公明党の支持基盤に分裂が起きているかのように吹聴した。だが、公明党は逆に前回参院選より比例得票数を伸ばし、過去最多に並ぶ14議席を獲得した。
 今回の参院選では、「ネットde真実」(※)よろしく、デマに取り込まれる人々や、デマを操る扇動家たちの存在が目についた。
 同時に、この種の扇動家たちがネット空間を利用して、さも大きな変化が起きているかのように見せていたものが、いかに実像とかけ離れたものであるかも白日の下にさらしたといえる。

※「ネットde真実」…インターネット上にある未知の情報に触れ、「マスコミが伝えない真実に目覚めた!」と信じる人のことを揶揄するネット用語。情報が真実かどうかは自ら調べもせず、結局、他人の情報をそのまま鵜呑みにして得意げになっている愚かさを指す。

「改憲4党」というミスリード

 10日の投票が締め切られた瞬間から、メディアはいっせいに「改憲勢力が3分の2を上回る」という報道を繰り返した。
 自民党、公明党、おおさか維新の会、日本のこころを大切にする党の4党を指して「改憲に前向きな4党」としているのである。
 これについては選挙戦最終盤に、日本報道検証機構代表の楊井人文氏から「事実に基づかない報道」であるとして、有権者は冷静な判断をするよう事実検証の記事(「参院選 『改憲勢力3分の2』が焦点? メディアが報じない5つのファクト、1つの視点」 引用元:「GoHooのメディアウォッチング」)が出された。
 公明党は加憲という立場ながら憲法の「平和・人権・民主」の3原則を維持すると表明しており、山口代表は7月10日にもNHKで、

(憲法改正は)当面、必要ないと思います。憲法解釈の限界をきっちり決めた平和安全法制の有効性を確かめるべきで、9条の改正は必要ないと思っています。

と明言している。
 一方、民進党は基本政策合意で「憲法改正を目指す」としており、改憲そのものを否定していない。生活の党は政策項目で具体事項をあげて憲法改正を主張している。新党改革も憲法改正を党是に掲げてきた。

 もともと改憲論者だった小沢一郎共同代表の考えが表れていると思われるが、党是としては、憲法改正について多くを語らない公明よりも生活の方がよほど前向きにみえる。(「参院選 『改憲勢力3分の2』が焦点? メディアが報じない5つのファクト、1つの視点」

 つまり、「野党共闘」を組んだ4党のうち、民進党も生活の党もはっきりと〝改憲〟を主張しているのだ。
 今回、一部野党やメディアがセンセーショナルに叫んでいる「改憲勢力」「改憲4党」「3分の2」は、いずれも事実から国民の目をそらさせる、意味のないレッテル貼りにすぎない。
 メディアは選挙戦のさなかも選挙後の今も、政治報道をショーアップさせるために、こうした〝事実に基づかない報道〟を繰り返している。
 自民党、公明党、おおさか維新などの首脳が、いずれも「憲法改正は時期尚早」と言明しているにもかかわらず、むしろメディアが嬉々として「改憲」を言挙げし、あたかも改憲への動きが始まったかのような空気を作り出している。
 民進党や共産党の選挙戦術もふくめて、有権者をミスリードさせる手法は、民主主義を毀損するものとして厳しく批判されるべきであろう。