軽減税率で見せた公明党の現場感覚――『いま、公明党が考えていること』を読む(下)

ライター
松田 明

公明党が押し切った軽減税率

 2017年4月から、消費税が10%に引き上げられる。消費税の増税は、民主党政権時代の2012年6月に、「社会保障と税の一体改革」として自公民の三党合意で決まっていたことだ。
 公明党が導入を主張してきた軽減税率は、自公が政権に復帰した後、消費税10%時の導入が税制改正大綱に盛り込まれた。
 自民党や財務省は税収が減るとして、対象品目を「生鮮食品」のみに限定するという考えを打ち出した。公明党は、子育て世代や共働き世帯、高齢者は加工食品を利用する頻度が高いとして、加工食品も対象とすべきだと抵抗した。
 自民党の谷垣幹事長は元財務相でもあり、与党間の協議は非常に難航したわけだが、最終的には首相官邸が、

「朝食に並ぶ(加工食品の)納豆や海苔、梅干しが軽減税率に入らないのはおかしい。コンビニの対象商品もバナナと卵ぐらいになる。公明党の主張の方が正しい」(『東京新聞』2015年12月10日付)

と判断。
 この結果、自民党側が完全に公明党の主張をのむ形で、「酒と外食を除くすべての飲食料品」が軽減税率の対象と決まったのである。

 生活者の視点に立つ公明党は、消費税を2%上げることになったとき、人々がどういう思いをするのかをよくわかっているのです。(山口那津男)

 これに対し、民進党は今も公式サイトに民主・維新の共通見解として「最も効果的な逆進性対策は、給付付き税額控除である」「軽減税率には反対し続ける」と表明している。

 今後野党は、国会でも選挙でも軽減税率を争点化していくでしょう。そのときに「針の先で天使が何人踊れるか」というような些末な議論をすればするほど、有権者から顰蹙(ひんしゅく)を買います。
 大衆の普通の感覚としては、「今晩の夕飯のおかずは何にしようかな」と考えてトンカツやさつま揚げを買うときに、消費税率が軽減されることはありがたいわけですからね。(佐藤優)

 民進党のいう給付付き税額控除のためには、国民1人1人の所得と資産の正確な把握が必要となる。さらに、その制度では、直接、窓口で払い戻しを受けなければならない人の数は、ざっと3100万人にのぼる。現在の国税職員5万6000人だけで対応するのは現実的ではない。
 消費税10%が2017年4月に開始されることは、すでに法律で決まっており、これらの問題をどうクリアするのか、1年を切った今もなお民進党は示せていない。

 実行の見通しが立たない机上の空論にすぎません。(山口那津男)

際立つ〝野党の不甲斐なさ〟

 この対談『いま、公明党が考えていること』を通読して、あらためて実感させられたことが2つある。
 1つは、仮に今日の政治状況に大きな懸念があるとすれば、なによりもそれは「野党の不甲斐なさ」に尽きるということだ。
 2009年、国民は「一度やらせてみよう」と民主党への政権交代を試した。けれども、政権を握った瞬間から党内の権力闘争がはじまり、代表だった小沢一郎氏や、首相経験者であり党のオーナーであった鳩山由紀夫氏も党から追い出した。
 復興庁の設置にさえ9ヵ月かかるような東日本大震災の対応、普天間移設をめぐる日米関係の悪化、尖閣国有化による日中関係の破綻など、失政の連続だった。
 結果として、国民はふたたび自公政権を選んだ。共産党が全面協力した2016年4月の衆議院補選では〝民主党王国〟といわれた北海道5区ですら、20代、30代、40代を中心に、60代以外のすべての世代の過半数が自民党候補に投票している。
 敗北した野党は「一歩前進」などとごまかしているが、じつは北海道5区では、2012年以降の過去3回の選挙で、自民党の得票は増え続け、野党の得票は減り続けているのだ。
 野党は今夏の参院選に向けて「野党共闘」を叫ぶものの、政策の一致点は「平和安全法制の廃止」のみ。そのほかの政策や理念がことごとく相容れない旧民主、旧維新と共産党が、どうやって自公政権に変わる連立政権を樹立できるというのか。
 小さなコップの中で恥も外聞もない権力闘争を繰り返し、あっちを追い出し、こっちでくっつき、互いを罵り合い続けている野党の惨状。これこそが、本来は自民党にそれほどシンパシーを覚えていなかったはずの層まで、結果的に安倍政権支持に向かわせているのではないのか。

「論理の公明党」と「情緒の自民党」

 一方で、本書から感じることは、公明党の持つ「情緒に流されない理詰め」と、「人間への根本的な信頼感に根ざした楽観主義」の両側面だ。

 霞が関(中央省庁)の官僚は、かつては「論理の自民党」「情緒の宗教政党・公明党」という見方をしていました。ところが最近の官僚は「論理の公明党」「情緒の自民党」という事実に気づいたのです。この点は、平和安全法制の整備を通じてはっきりと可視化されました。(佐藤優)

 財源の裏づけのある公明党の社会保障政策に、私は大きく期待しています。「もう経済成長は終わったのだから、これからは限られた財源による分配の方法だけを考えればいいのだ」と後ろ向きに考えるのか。それとも「たとえ今後高度な経済成長がなかったとしても、リーズナブルな成長を模索しながら財源の問題を解決していくのだ」と前向きに考えるのか。
 財源に対する公明党の考え方の根底には、人間に対する楽観主義があります。(佐藤優)

 かつての政治の仕事は、右肩上がりの経済成長によって増え続ける税収を「分配」することだった。そして、民主党政権下で得た教訓は、成長なき分配では必ず行き詰まるということだった。
 国の借金をできるだけ増やさないようにしながら、歳出を抑え、歳出の行く先を漸進的に変えていく必要がある。
 弱者への福祉を充実させ、子育てや教育支援に投資をすることは、めぐりめぐって納税者を増やす。離島などの教育環境を整えて若い世帯が暮らし続けられるようにし、TPPでサトウキビなど沖縄の産業を守ることは、島しょ部の無人化を防ぎ、安全保障に大きく寄与する。
 3000人もの地方議員と政権与党の国会議員がフラットに連携するのが、他の政党にはマネできない公明党の強みだ。
 野党があまりにも無力なまま、一方で共産党頼みになり、一方で極右化している今、公明党が引き続き政権内で存在感を発揮し続けることの意味は大きいと思う。

「『いま、公明党が考えていること』を読む」シリーズ:
『いま、公明党が考えていること』を読む(上)―メインプレイヤーになった公明党
『いま、公明党が考えていること』を読む(中)―平和安全法制に公明党が打った「くさび」
 

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