2014総選挙――国民は賢明な判断を下したか

ライター
青山樹人

右傾化を拒絶した有権者の判断

 第47回衆議院議員総選挙が終わった。
 翌朝、読売新聞は「自公圧勝325議席」、産経新聞は「自公3分の2超 圧勝」と大見出しを打ち、朝日新聞は「自公大勝 3分の2維持」、毎日新聞だけは「自民微減291議席」と出した。テレビも各局ほぼ同じように「与党圧勝」というトーンで報じたように思われる。

 主要各党の獲得議席は、以下の通り。

 自民 291(公示前293)
 公明  35(公示前 31)
与党計 326(公示前324)
 
 民主  73(公示前 62)
 維新  41(公示前 42)
 共産  21(公示前  8)
 次世   2(公示前 19)
 社民   2(公示前  2)
 生活   2(公示前  5)
無所属   8(公示前 17)
野党計 149(公示前155)

 今回の総選挙では小選挙区の定数が前回の300から5議席削減した295議席となった。その中で与党が前回の議席数を維持したことは、「圧勝」かどうかはさておき、やはり大きな勝利であることにまちがいない。
 しかも、同じように自民が大勝した2005年総選挙(郵政解散)の場合など、これまで自民が勝つ選挙では公明が苦戦する傾向にあったが、今回は自民が2議席減らして公明が4議席を増やした。
 史上最低の投票率であったにもかかわらず公明は比例区の得票総数でも前回から約20万票増やしており、九州ブロックでは得票率でも獲得議席数でも民主や維新を抑え、自民に次ぐ数を叩き出している。
 NHKの出口調査でも、無党派層の投票先として公明を選んだ人の割合が、前回は5%であったのに今回は8%になっていた。
 こうして見ると、〝与党圧勝〟といわれる中身は、毎日新聞が報じたように「自民微減」と「公明の大勝」であったことがわかる。
 有権者の判断として、自公連立政権とその政策は引き続き支持するが、自民に勝たせ過ぎることを警戒し、公明により一層のバランサーとしての役割を期待したことが、これらの数字は物語っている。
 結党50年を迎えた公明党にとっては、いまだかつてないほど国民の痛切な期待を背負う船出となった。兜の緒をしめて臨んでもらいたい。
 有権者が自民に勝たせ過ぎないことを望んだのは、「自民党のさらに右側」を標榜し改憲や再軍備を主張した次世代の党が、主要幹部が次々に落選する大凋落ぶりを示したことにも表れている。
 ヘイトスピーチが横行するなど一部に復古主義的な空気が広がる中で、〝大衆〟は思いのほか賢明な判断を下した。ある意味では、非常に理想的な選挙結果になったように思う。
 安倍自民党は、この国民のメッセージを謙虚に受け止めるべきであろう。

与党勝利は野党への失望感の裏返し

 一方の野党では、抜き打ち的な解散劇であったことを考慮すれば、各党それぞれに健闘したといえるのではないか。
 ただ、前回524万余票を獲得したみんなの党があっけなく姿を消し、同じく維新が金城湯池の近畿でも苦戦したことは、党首のパフォーマンスによるメディア露出頼みで党勢拡大を図る政治姿勢がいかに危ういかを物語っている。地力もないまま一時の流行に乗ったものは、所詮は時間が来れば飽きられてしまう。
 結果的に与党への批判票を集めることに成功した共産は、14年ぶりに20議席超を果たした。衆議院では党として議員立法を提出できる要件が20議席であり、これまで共産党は久しくそこを満たしていなかった。
 民主の党首である海江田氏が選挙区で落選し比例区でも復活を果たせず落選したことは、今の野党全体の弱体ぶりを象徴した出来事だっただろう。
 胸を反らせて威勢よく持論を語る安倍首相に対し、背中を丸めてモゴモゴと与党批判を語る海江田代表の姿は、けっして国民に希望を与え得るものではなかったように思う。
 安倍政権に対して必ずしも同意できない有権者にしてみても、さりとて野党の側にそれ以上の明確なビジョンもなく、現実に政権を樹立して維持できる見込みもないとなれば、現状維持を望むしかなくなる。
 有権者は、極端なナショナリズムを賢明に遠ざけ、しかし同時に平和と安定を望み、今の野党には政権を託すだけの能力がないことをシビアに見抜いていたといえるだろう。

「対決の政治」から「説得と合意の政治」へ

 さて、戦後70年の節目となる2015年は、なによりも国際社会の中で日本がどのような思想を掲げて前に進もうとするのかが厳しく問われる年となる。
 国会で始まる集団的自衛権をめぐる安全保障法制の審議は、そのまま70年間維持してきた日本国憲法をどう評価するのかという議論に重なってくる。
 憲法学者の木村草太氏は著書『テレビが伝えない憲法の話』の中で、憲法は「国内の最高法規」であると同時に「外交宣言」であり「歴史物語の象徴」であると述べている。
 戦争放棄を謳った日本国憲法を日本国民がここから先も大切に守っていくのか否か、それは世界に対する日本の外交宣言そのものになるのだ。
 自民党は2014年7月の「閣議決定」で安倍首相が国民に示した集団的自衛権についての〝新3要件〟を守らねばならない。ゆめゆめ、連立のパートナーである公明党に国民が託した意思を軽んじるような愚挙に出るべきではない。
 野党にとっても、この2015年からの立ち居振る舞いは大きな責任がある。東西冷戦が終わって四半世紀。世界の趨勢は「対決の政治」「分断と憎悪の政治」から、「言論による説得と合意の政治」へと変わっている。
 目先のウケを意識したような白か黒かという硬直した二者択一の〝対決〟姿勢や、なんの実現性もないままに〝きっぱり反対〟だけを繰り返すのでは、国民に対してあまりにも無責任であり不誠実だと思う。
 もとより多様な価値観、とりわけ少数者の意見を現実の政治に反映させるためには、非常に困難な交渉を強いられる。だからこそ、今日の政党や政治家には、その柔軟でタフな力量が求められていると思う。
 有権者は極右政党を退け、政治の安定を求める審判を下した。野党はその国民の思いを真剣に受け止め、政局や党利党略に走っていたずらに国会を混乱させるのではなく、現実的な「平和」と「安定」に向かって与党とも忍耐強く対話をしていってもらいたい。
 おそらくその忍耐強い良心から、遠くない将来の新しい政界再編への地殻変動が起こってくるだろう。
 大衆は愚にして賢である。与党も野党も、国民を侮ることなかれと思う。