【コラム】全国にヘルプカードの普及を

ライター
佐山 要

 アメリカのある地方都市。中学生になった少年トレバーは、社会科の授業で、教師のシモネットから課題を示される。「世界を変えるアイデアを考えて、行動を起こそう」と。
 トレバーのアイデアはこうだ。まず自分が3人に親切にする。その3人が、それぞれ3人を助ける。その3人がまた3人ずつを――と善意の輪を広げていく。
 少年が選んだ最初の3人は、薬物中毒のホームレスの男、身体に障害のあるシモネット、いじめを受けている同級生。トレバーの試みは、紆余曲折を経ながら、彼の周りの世界を変え、彼自身を変えていく――『ペイ・フォワード/可能の王国』という映画のストーリーだ。
 トレバーのアイデアの肝は、善意を受けた相手に返すのではなく、別の誰かへ送るという点だ。送られた者は、さらにほかの誰かへ送り、善意は巡り巡って社会全体を潤していく。そして、世界は変わる。しかし、それは簡単なことではない。作中、少年は語る。
「善意を送るには勇気が必要なんだ。難しいよ。でも、諦めたら負ける」

誰もが一目でわかる共通のヘルプカード

 ヘルプカードをご存じだろうか。知的障害、聴覚障害や内部障害のある人が携帯するカードで、大きさは運転免許証ほど。プラス「+」と「ハートマーク」の記号が縦に並ぶヘルプマークに、赤い文字で「あなたの支援が必要です。」とあリ、緊急の連絡先や必要な支援の内容などが記されている。
 これは2012年10月、東京都が標準様式として策定したもので、この様式に基づいてヘルプカードを作成する自治体には、2014年度まで年間250万円を限度とするカード作成のための補助金が交付される。
 一部の自治体ではこれまでも、それぞれに独自のカードを作成していたが、一般的にはあまり知られていなかったため、広く都内全域で使えるようにと、統一した様式を設けた。現在、東京都だけでなく、全国で導入の動きが見られる。
 自閉症の子どもを持つ母親から相談を受けた都議会公明党の議員が、09年以来推進してきた「誰もが一目でわかる共通のヘルプカードの普及」に向けての取り組みが、ようやく始まったのだ。
 日本はまだ障害者と健常者が共存できるバリアフリー社会とはいえない。大災害が起きると、障害者は、健常者では考えも及ばないような困難に遭遇することがある。ヘルプカードは、そういうときのためにあるのだ。
 ただ、ヘルプカードを役に立つものとするには健常者の協力が不可欠。カードを示されたら、ちょっと勇気を出して手を差し伸べることが大切である。近年の心理学では、他人に親切な行ないをすることによって、自身の幸福感が高まると証明されている。
 情けは人のためならず。ヘルプカードは、私たち自身を助けるカードでもあるのだ。

<月刊誌『灯台』2013年6月号より転載>


<参照文献> 『ペイ・フォワード/可能の王国』(ワーナー・ブラザース/2000年)、『幸せを科学する 心理学からわかったこと』(大石繁宏著/新曜社)、『公明新聞』2012年12月5日付、『日本経済新聞』2013年3月18日付夕刊