【書評】社会の酷さを訴え、我々の「命」を問う 解説:辛淑玉(人材育成コンサルタント)

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『バカだけど社会のことを考えてみた』
雨宮処凛著
青土社
定価1470円  Amazonで購入
 
 
 
 

 この本を読んで泣いた、泣いた、泣いた。
 私は雨宮処凛が好きだ。彼女の生き方にはウソがない。等身大で世の中に向き合う姿はいつもキラキラ輝いていた。彼女は自分の言葉で、この社会が最も女に許そうとしない「意志」を持って語っている。
 この本は、生活保護は恥ずべきことという社会通念に対して、まず216万人の受給者のうち高齢者が4割以上、「障害・傷病者世帯」が3割、その他の「働ける世代」(18歳から64歳)は16%だが、うち半数以上が50代以上で、次は1人親世帯、という事実を突きつけ、差別者の思い込みを粉砕する。
 いずれも、働けるチャンスも環境も奪われたか、整っていない人たちなのだ。しかも、受給者は貧困ライン以下の人たちの1割ほどでしかない。つまり、ほとんどの困窮者が福祉と繋がっていないのだ。その理由は、そもそも権利教育を受けていないなど、構造的に見捨てられているからだと気付かされる。
「私の知人は」で始まるエピソードは、著者自身が見て感じたことから、この社会の矛盾を鋭く突いている。
 しかし、その眼差しはあくまで温かい。読んでいるだけで、活字の向こうにいる雨宮処凛と話をしているような気持ちになる。そして、読み終えた後、私は生きていいのだ、生きることは私の権利なのだと、確信を持てるのだ。
 当事者の思いをこれほど軽やかに深く伝えられるのは彼女だからこそである。読み終えて、ふと、あの石牟礼道子さんの『苦海浄土』を思い出した。
 この本は、この社会の酷さとともに、命のためにこんなに一生懸命吠えてくれる友がいることを、確かに感じさせてくれる1冊だ。
(人材育成コンサルタント 辛淑玉)

<月刊誌『第三文明』2014年1月号掲載>

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