投稿者「web-daisanbunmei」のアーカイブ

ナショナリズムを超克する価値観を――書評『北東アジア市民圏構想』

ライター
本房 歩

激動した北東アジアの1年

 2018年は、北東アジア情勢がひときわ大きく動いた年として歴史に記憶されるだろう。
 北朝鮮のミサイル実験が執拗に繰り返され、日本の各地でもJアラート(全国瞬時警戒システム)による避難訓練が続くなかで、年が明けた。
 米国本土に到達するICBMが完成するまでに、トランプ政権が北朝鮮を奇襲攻撃・制圧するのではないかという観測もあった。
 ところが、2月9日から韓国ではじまった平昌(ピョンチャン)オリンピック冬季競技大会に、北朝鮮は選手団を派遣。金正恩(キム・ジョンウン)委員長の妹である金与正(キム・ヨジョン)氏が訪韓して〝ほほえみ外交〟を展開する。
 統一旗のもとに南北合同チームが熱戦を繰り広げたことは、韓国世論、とりわけ若者たちの意識を変えた。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第63回 がんばれ! 町の本屋さん!

作家
村上政彦

かつてこのコラムで町の本屋について取り上げた。僕は実家の近所にある小さな本屋で文学と出会って小説家を志した。もし、この本屋がなければ、僕の人生は違ったものになっていたかも知れない、と書いた。
その後、僕はふとあることに気づいた。読書をするとき、手に取る本は、本を扱う人々についてのものが結構あるということだ。どうかすると、本業の小説についての本よりも、そっちのほうに関心を惹かれている。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第62回 金時鐘の戦い方

作家
村上政彦

子供のころ、実家から少し離れたところに青谷(あおだに)という土地があった。町の人々は、あまり近づこうとしなかった。その土地をめぐる怖い噂もあって、なかへ入ると、容易に出ることのできない、異世界のような印象もあった。
中学に入って、青谷の子供と友達になった。恐る恐る行ってみると、ちょっとした山のなかに、木造の古びた平屋がぽつぽつと並んでいる、静かな土地だった。僕らの住んでいるところと、ほとんど変わらなかった。拍子抜けするほどだった。
そこには朝鮮人と呼ばれる人たちが暮らしていた。僕は、なぜ、彼らが集落をつくっているのか、もっというと、朝鮮人という人々が日本にいるのか、それが分からなかった。 続きを読む

未来のつくり手たちのために――書評『デジタルネイチャー』(落合陽一著)

美術史研究者
高橋伸城

疾走する「明るさ」

 批評家の小林秀雄は、あるフランス人の言葉に拠りながら、

モオツァルトのかなしさは疾走する

と書き記したことがある。
『デジタルネイチャー』で疾走しているのは、「明るさ」である。
 テクノロジーへの絶対的な信頼に基づく、驚くべき楽観性。
 追いつこうと思っても追いつけないその速度は、実際に著者のつづる文章を読んでみないとわからないのではないかと思う。 続きを読む

『新・人間革命』30巻完結の偉業(下)

ライター
青山樹人

自分自身の人間革命に挑む

 世の多くの宗教では、人間を超えたものとして神仏が説かれる。聖なるものと人間は「上下」の関係になる。
 聖職者はその聖と俗のあいだに介在することで、やはり信徒に対し、宗教的に特別な地位に立つ。
 ところが、創価学会における「師弟」とは、そのような上下の関係ではない。
 師は権威ではなく、人間としての生き方を示すモデルであり、弟子は理想と責任感を分かちもって、その生き方を継承する。 続きを読む