手段が目的化した立憲民主党――信頼を失っていく野党①

ライター
松田 明

過半数が反執行部勢力に加わる

 日本共産党との「選挙協力」をめぐって、立憲民主党が大揺れである。
 昨年の参院選敗北に続き今年4月の衆参補選で完敗した立憲民主党では、泉代表ら執行部の責任を問う声が党内から噴出していた。
 5月15日、泉健太代表は民放のBS番組に出演。次期衆議院選で150議席を取れなければ代表を辞めると啖呵を切った。そのうえで、

次の衆議院選挙について「あくまで立憲民主党として、まず独自でやるものだ」と述べ、日本維新の会と共産党とは選挙協力や候補者調整を行わない考えを示しました。(「NHK NEWSWEB」5月15日

と、日本維新の会や日本共産党の選挙協力や候補者調整を否定した。
 すると〝壊し屋〟の異名をとる小沢一郎氏らは1カ月後の6月16日、党内に「野党候補の一本化で政権交代を実現する有志の会」を立ち上げた。あからさまな反執行部の動きである。ここに過半数の党所属議員が名を連ねた。
 前回の衆議院選で大敗し、昨年の参議院選でも負けた立憲民主党は、全国いたるところに〝浪人〟を抱えている。 続きを読む

書評『傷つきやすいアメリカの大学生たち』――アメリカ社会の教育問題とその原因を探る

ライター
小林芳雄

脆弱な存在を自認する学生たち

 大学における学問の自由・言論の自由にこれまで尽力してきた法律家と社会心理学を専門とする2人の著者が、アメリカ各地で起きている大学紛争の原因を分析し、解決の方途を探った一書である。
 ――授業で出された課題図書を読むことすら拒否する、政治的立場の異なる講演者に暴力をともなう激しい抗議を行う、教員の言葉尻をとらえて糾弾して激しいデモなどによって辞任にまで追い込む、学長や学部長を軟禁し罵詈雑言を浴びせ、自己批判と謝罪を迫る――。
 出来事を列挙すると、1960年代から70年代に起きた日本の学生運動や中国・文化大革命時代の紅衛兵を思い起こさせる。しかし、これらは全て近年のアメリカの大学で起きた事件である。しかも、紹介されている事例の大半は、世界最高の教育水準を誇るといわれた名門大学で起きたものだ。
 本書はこれらの現象の背後に、現在、アメリカの教育界を席巻している3つのエセ真理があることを指摘している。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第165回 大人が絵本を読んで悪いか

作家
村上政彦

 僕の妻は、子供たちみなに絵本の読み聞かせをして育てた。いま事情があって7歳の男の子を育てているけれど、彼女はその子にも読み聞かせをする。幼いころからやってきたので習慣になって、寝るときに子供が本を選んで妻のもとへ持って来る。
 たまたま僕が疲れて横になっているときは、僕も妻の読み聞かせの声を聴きながら眠りにつく。これが、ものすごく心地がいい。僕の母は、酒場でママさんと呼ばれる仕事をしていたので、読み聞かせをしてもらった記憶はない。
 父が早くに亡くなったので、母が外で働いて、祖母が家事や子育てを担って、僕の家庭は営まれていた。だから、祖母が読み聞かせをしてくれたかというと、彼女は尋常小学校中退で、ほとんど文字の読み書きができなかった。読み聞かせをするどころではない。せいぜい、子守唄を歌ってくれるぐらいだった。
 読み聞かせの効果があってか、3人の子供たちは本を読むことが苦にならないようで、長男は建設現場で稼ぎながらバンドをやっているのだが、哲学書などを読む。長女は保育士をしていた母の背を見て育ったからだろう、就活を1カ月で諦めて保育の専門学校へ入って保育士になった。職場では子供たちに率先して絵本や童話などの読み聞かせをしていた。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第18回 体相①

 次に十広の第三章「体相」の章では、本体としての真理の奥深いことを認識するために、第一に教相、第二に眼智、第三に境界、第四に得失の四段によって「体」を明らかにする。この四段が示される理由については、次のように説明されている。

夫れ理は教に藉(か)りて彰わる。教法は既に多ければ、故に相を用て顕わす。入理の門は同じからざるが故に、眼・智を用て顕わす。諦に権実有るが故に、境界を用て顕わす。人に差会(しゃえ)有るが故に、得失を用て顕わす。(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅰ)254頁)

 理=体は教によってあらわれるが、教法は多いので、教相によって理をあらわすこと、理に入る門は相違するので、眼・智によってあらわすこと、諦(理)に権・実があるので、境界によってあらわすこと、人に差違性・同一性があるので、得失によってあらわすことが示されている。以下、順に紹介する。 続きを読む

「維新」の強さ。その光と影(下)――〝強さ〟がはらむリスクと脆さ

ライター
松田 明

「日本維新の会」公式ホームページより

「電車の本数を減らせ」と同じ

 急速に勢力拡大を図る日本維新の会。全国紙の大阪本社に在籍するベテラン記者は、「今の維新はほんまに強いで。クロースアップ・マジックの名人なんや」と語った。クロースアップ・マジックとは、観客のすぐ目の前で見せる手品のことだ。
 たとえば維新の代名詞ともなっている「身を切る改革」。
 維新は、「まず議員が身を切る改革を実践し覚悟を示す」として、議員定数の削減、議員報酬の削減を掲げる。馬場代表は最近、国会でも衆参を合併して一院制にして議員を半分にするとまで語っている。
 ここで描かれている〝物語〟は、旧来の政治が政治家自身の既得権益を守っていて、庶民がムダな負担を強いられているというものだ。「古い政治」に対して維新が「新しい民意」で挑むという図である。
 少子高齢化で現役世代の社会保障費の負担が大きな課題になり、あるいはコスパやタイパがトレンドになるなか、まずは政治家や政党自身が〝わが身を切れ〟というメッセージは有権者の心情に響きやすい。
 しかし、日本の国会議員の数は欧州諸国と比べてもかなり少ない。しかも議員定数削減や報酬カットで得られる財源は、大阪市でも年間2億円程度。全国でも数十億円にとどまるだろう。浮く財源は国民1人あたり年間で何十円か。定数や報酬を減らしたからといって減税ができるような話ではない。 続きを読む