統一会派は「民主党」の再来――またしてもの呉越同舟

ライター
松田 明

「お答えになっていない」

 8月20日、立憲民主党の枝野幸男代表と国民民主党の玉木雄一郎代表が国会内で会談し、衆参両院で統一会派を組むことで合意した。
 8月5日の両者の会談では、国民民主党の玉木代表から〝衆参両院での統一会派〟という要望が出されていた。
 ところが、会談直後に立憲民主党の枝野代表は、

 立憲民主党の政策、すなわち、立憲主義の回復など憲法に関する考え方、いわゆる原発ゼロ法案等のエネルギー関連政策、および、選択的夫婦別氏制度や同性当事者間による婚姻を可能とする一連の民法一部改正法案等の多様性関連政策などにご理解ご協力いただき、院内会派「立憲民主党・無所属フォーラム」に加わって、衆議院でともに戦っていただきたく、ここにお呼びかけさていただきます。(「立憲民主党公式サイト」ニュース8月5日)

という声明を発表。「立憲民主党の政策」に「ご理解ご協力」する「衆議院」の議員だけを「立憲民主党・無所属フォーラム」に加えてやるという、にべもない条件を突きつけた。
 8月15日に、両代表はふたたび会談したが、立憲民主党の政策に国民民主党が同調するのかどうか玉木代表が回答を留保したことで決裂していた。

 枝野氏は会談後、国民民主の回答について「われわれの提案にお答えになっていないので、お持ち帰りいただいた」と記者団に説明。玉木氏は記者団に「(枝野氏の提案を)もう一度よく精査する」と語った。(「時事ドットコム」8月15日)

〝地盤沈下〟への焦り

 20日になって、両党代表は一転して衆参両院での統一会派という方針で合意することを確認した。
 ただし、実際に統一会派が結成されるかどうかは、両党内での議論と議決が必要で、まだ流動的ではある。

 一転して枝野氏が国民に歩み寄ったのは、野党内で主導権を維持するための計算が働いたとの見方もある。共同通信が17、18両日に実施した世論調査で、結党直後にもかかわらずれいわ新選組の支持率が4.3%に達し、“オールド野党”の相対的な地盤沈下が明らかとなったからだ。
 しかし、統一会派をめぐる両党の協議は今後、運営方針などをめぐり難航が予想される。特に参院では両党が激しく戦った7月の参院選の遺恨が残っており、「争った後すぐに統一会派だなんて、玉木氏はどうかしている」(国民参院議員)との声も漏れる。(「産経ニュース」8月20日)

 立憲民主党は野党第一党でありながら有権者の支持が伸びない。先の参院選では2年前の衆院選より300万票以上も得票を減らした。
 一方の国民民主党はジリ貧から脱することができず、このままでは次の総選挙で壊滅状態すら予想されている。

 政権の選択肢としての期待と信頼を高めるには、「数の力」を背景とした与党に対抗しうる野党の「強力な構え」が必要であることを認識するに至った。(玉木代表が枝野代表に宛てた8月20日付文書「玉木代表のツイート」8月20日

 こんなことを今頃になってやっと〝認識するに至った〟のかと、多くの有権者は呆れ果てていることだろう。
 しかしながら「強力な構え」うんぬんというのは言い訳で、ともかく沈む泥船を一刻も早く投げ捨てて少しでも勝算のあるところに飛び移りたいというのが、なかんずく国民民主党の本音だ。
 2017年9月、解散総選挙がささやかれるなかで小池都知事が国政政党としての「希望の党」を立ち上げるや、それまでの主義主張をかなぐり捨てて、民進党から飛び移った敏捷さだけは今も健在である。

政策の合意は棚上げ

 この時の衆議院選挙で「希望の党」の公認を得る条件として、小池百合子代表(当時)は平和安全法制の容認、憲法改正など10項目の政策協定書への署名を要求した。
 それまでの民進党の主張と正反対のこうした政策協定書に平然と署名した人々が、あれからまだ2年も経たない今、今度はふたたび180度違う「立憲民主党の政策」に「ご理解ご協力」するのだろうか。
 じつは今回の〝合意〟では、立憲民主党と国民民主党の政策の食い違いについては棚上げして、まずは「統一会派」ありきとなっている。

 憲法など基本政策の溝も埋まってはいない。合意文書は「それぞれが異なる政党であることを踏まえ、それぞれの立場に配慮しあう」と玉虫色の表現に終始しているが、会派を共にすれば当然、重要事項について統一的対応が求められることは言うまでもない。
 安倍政権下の改憲論議を否定しない玉木氏は20日、記者団に「憲法については考え方を持っている。しっかりと示していける」と強調したが、“護憲政党化”しつつある立民と足並みをそろえられるかは不透明だ。立民などが国会に提出済みの「原発ゼロ」法案も電力系労組の支援を受ける国民側としては受け入れがたい。(前出/「産経ニュース」8月20日))

 現下の議席勢力から見れば、結局は立憲民主党が国民民主党を飲み込むかたちになることは必至。
 統一会派の人事や運営では、立憲民主党が主導権を握るだろうし、それができないと立憲民主党内部から批判や不満が出るだろう。
 一方で、〝対等な関係〟であることを懸命に演出している国民民主党側は、政策はもとより、人事や運営で立憲民主党に主導権を握られれば、かならず反発が生じる。なにより、今や国民民主党には、あの〝壊し屋〟の小沢一郎氏もいる。
 統一会派ができれば衆議院で100人を超す野党が誕生するわけだが、20日の党首会談のあとも、全国紙の社説はいずれもこの話題に触れなかった。もはや国民の多くはたいした関心を寄せていない。
 自分の選挙が第一で、勝手に分裂した旧民進党が、今また自分たちの選挙の事情が第一で〝復縁〟する。
 そこに誕生するのは、憲法観も安全保障政策もバラバラなまま呉越同舟して、内紛の果てに破綻した、あの民主党の陣容の再来なのである。

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