【書評】異領域の資料をもとに歴史の真実に迫る

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『家光大奥・中の丸の生涯 狩野探幽と尽くした徳川太平の世』
遠藤和子著
展望社
定価1995円 Amazonで購入
 
 
 
 

 大奥といえば、誰もがすぐ思い浮かべる人物がいる。3代将軍家光の乳母、春日局だ。
 この春日局から「心の正しくない気違い」とののしられた家光の正室で、不仲のため結婚してほどなく別居した場所から「中の丸殿」と呼ばれた孝子については、その名を知るものは多くはないだろう。孝子は越中の国主・佐々成政の娘、岳星院と鷹司信房の子で、鷹司家は公家五摂家の1つである。
「将軍の正室として、いかに行動していたのだろうか」
 歴史ノンフィクション『家光大奥・中の丸の生涯』は、そんな好奇心から生まれた作品であるという。ただし、大奥と中の丸の生涯だけを描いたものではない。
 著者には『佐々成政』『物語・佐々成政』の2著がある。当然のことながら、熟知している成政の生きざまを通して、権力者やそれと関わる者たちの興亡や悲哀が描き出される。そのため全編、成政を軸に据え、中の丸、幕府の御用絵師・狩野探幽(中の丸のいとこ)、家光の3人の関わりを中心にして、信長、秀吉、家康ら覇者たち、秀忠夫妻、家綱、春日局、鷹司家、狩野家などが複雑にからみあう大作にならざるをえなかったのだろう。
 岳星院の「冥の力」によって、異なる領域の資料を組み合わせて、歴史の真実を明らかにすることができた――。同著を書き終えた著者の感慨である。
 米寿を迎えた著者・遠藤和子さんの、絆の広がりと人柄の温かさ、苦境を乗り越えていく精神のたくましさに感じさせられた好著である。「歴史は未来の道しるべ。いまを生きる人に知ってもらいたい」。
(文筆家・木村礼)

<月刊誌『第三文明』2013年7月号掲載>

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