投稿者「web-daisanbunmei」のアーカイブ

芥川賞を読む 第32回『しょっぱいドライブ』大道珠貴

文筆家
水上修一

危うく微妙で不思議な男女の人間関係を描く

大道珠貴(だいどう・たまき)著/第128回芥川賞受賞作(2002年下半期)

しょぼい初老の男と冴えない30代女性の不思議な関係

「小説」というくらいだから必ずしも大そうな話である必要はない。ただ少なくとも心揺さぶられる感覚や多少のカタルシスはほしいと思うのだが、ところが芥川賞にはそうしたものは必ずしも必要なく、むしろ書き手の上手さのほうが重要なのだろう。
 第128回芥川賞の受賞作は、大道珠貴の『しょっぱいドライブ』だった。『文學界』に掲載された91枚の作品。
 肉体的にも人格的にも頼りなく魅力もない、ただお金だけは持っているしょぼい六十代の九十九(つくも)さんと、地方劇団のスターに憧れながらもまともに相手をされない、これまた冴えない三十代の「わたし」の微妙な関係を実に丹念に描いている。 続きを読む

書評『盧溝橋事件から日中戦争へ』――日中全面戦争までの歩み

ライター
本房 歩

戦火拡大の背景に迫る

 「言論NPO」という民間のシンクタンクが2005年から毎年、日本と中国で実施している世論調査がある。そこでは両国民の相手国への意識調査が行われており、今年の結果では、中国に対して「良くない」印象を持つと回答した日本人は「92.2%」で、日本に対して「良くない」印象を持つと回答した中国人は「62.9%」だった。
 一方で、この世論調査には、日中関係の重要性についての質問も設けられており、日中関係を「重要」と答えた両国の回答者はともに6割を超えている。アンケート結果から、両国の多くの国民は互いに決して良い印象は持っていないものの、両国の関係性が重要であることもまた冷静に認識していることが分かる。
 日中関係を安定させ、発展させるには、相手に対する正しい理解、とりわけ行動様式の根底に横たわる文化や歴史に対する理解が重要となってくる。相手の振る舞いの意図が見えず、意思疎通を図ることが困難になってしまえば、互いに不信が募ってしまう。
 特に両国の関係が悪化している時であれば、そうした負の連鎖がより起きやすくなる。本書『盧溝橋事件から日中戦争へ』を紐解くと、そのことを強く実感させられる。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第33回 方便④

[3]具五縁について②

(2)持戒の相を明かす②

②理の持戒の相を明かす

 前回までが事の持戒の説明で、次に理の持戒について説いている。次のように、『中論』のいわゆる三諦偈に基づいて、因縁所生法、空、仮、中の四段階に分けている。
 最初の不欠・不破・不穿(ふせん)・不雑(ふぞう)の四戒は、心は「因縁所生の法」であると観ずるもので、後の空観・仮観・中観の三観の対境となる。第二の随道・無著の二戒は空観の持戒であり、第三の智所讃・自在の二戒は仮観の持戒であり、最後の随定・具足の二戒は中観の持戒とされている。
 さらに、これらの四つについて個別に説明している。要点を示す。 続きを読む

わたしたちはここにいる:LGBTのコモン・センス 第6回(最終回) 【特別対談】すべての人が自分らしく生きられる社会に

【対談者】
 参議院議員 谷合正明
 山形大学教授 池田弘乃

 本年6月、参議院で賛成多数で可決・成立した「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(以下、理解増進法)。いまだに多くの誤解が残る同法をめぐって、本連載の著者である池田弘乃氏と、公明党性的指向と性自認に関するプロジェクトチーム座長、超党派LGBT議連事務局長を務め、同法の制定に寄与した参議院議員・谷合正明氏が対談した。

理解増進法はなぜ〝理解〟されないか

――2023年6月16日、参議院本会議において「理解増進法」が成立しました。この法律の制定に携わった谷合議員に成立までの過程を振り返っていただけますか。 続きを読む

「池田大作」を知るための書籍・20タイトル(下) 対談集・評伝・そのほか

ライター
本房 歩

(上)では池田会長自身の著作から紹介したが、(下)では対談集、香峯子夫人のインタビュー集をはじめ、証言者たちのオーラルヒストリーによる評伝、識者による研究解説書、創価学会や会長の歴史が一冊で読めるテキストなど多様な書籍を10冊ピックアップした。
 なお書評子の個人的な選書であり、原則として現時点で新刊が発売中のものとした。この他にも挙げるべき書籍は多々あると思うがご了承いただきたい。

『ワイド文庫対談 二十一世紀への対話』(上下)


 20世紀最大の歴史家といわれるアーノルド・J・トインビーとの対談集。既に高齢で心臓疾患を抱えていたトインビーの要請を受けた池田会長は、1972年と73年、ロンドンのトインビー邸を訪れ、延べ10日間・40時間に及ぶ対談をおこなった。
 内容は77のテーマにわたり、世界の多くの識者から「人類の教科書」「現代の百科事典」「すでに古典」等の称賛が寄せられている。
 31言語(2023年11月時点)に翻訳されており、池田会長が会見してきた各国の元首や要人、大学首脳や識者のなかには、この書物を通して池田会長を知り、出会いを求めてきたという人も少なくない。
 半世紀以上前の対話でありながら、時代を経てもまったく精彩を失わず、むしろ21世紀の今日を先取りする議論が交わされていることに驚く。 続きを読む