投稿者「web-daisanbunmei」のアーカイブ

書評『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』――単純で複雑なその疑問の本質に迫る

ライター
小林芳雄

読書離れはいつからはじまったのか

 新進気鋭の文芸評論家が日本人の読書離れの原因を探求した、今話題の一書である。
 読書が大好きで大学院では万葉集を学んでいた著者は、本を読み続けるためにはお金が必要だと思い企業に就職した。社会人1年目のせわしないを送っていたある日、全く本が読めていないことに気づく。時間がないというわけではない。スマホを眺めたり、ゲームをする時間はある。それなのに本は読めない。なぜ働くと本が読めなくなるのか。
 著者自身が抱いたこの疑問を徹底的に掘り下げたのが本書である。近代日本の読書と労働の歴史をたどり、各時代のベストセラーをひも解きながら、その答えを見いだしていく。

 なぜ読書離れが起こるなかで、自己啓発書は読まれたのだろうか。というか、読書離れと自己啓発書の伸びはまるで反比例のグラフを描くわけだが、なぜそのような状態になるのだろうか。(本書177ページ)

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自壊しゆく「日本維新の会」――〝相手陣営に偽装潜入〟の衝撃

ライター
松田 明

事務局長が相手陣営に偽装潜入

 わずか10日前に千葉市議会で、市議による請願書の偽造が発覚した「日本維新の会」で、ふたたび信じられない不祥事が発覚した。
「日本維新の会」の京都4区支部長であり、衆議院京都4区公認予定者だった松井春樹氏が、9月24日付で同支部長を辞任し「日本維新の会」を離党した。
 松井氏は京都府出身。26歳という若さと東京大学法学部卒業の弁護士であることをセールスポイントに掲げ、2023年6月に公認候補予定者である支部長に就任したばかり。10月30日に亀岡市で開かれた演説会には、日本維新の会共同代表である吉村洋文・大阪府知事も駆けつけている。
 突然の立候補取りやめと離党に至った理由は、衝撃的なものだった。
 松井氏の個人事務所で最初期から「事務局長」をつとめる男性が、昨年12月から同じ京都4区選出の北神圭朗衆議院議員の事務所に、偽名を使い大学生を装ってボランティアとして潜入。街宣活動、ポスターの貼り換えや電話かけなどの活動に従事していたことが明らかになったというのだ。
 週替わり、日替わりで「不祥事」が続く「日本維新の会」ではあるが、陣営の事務局長が対立候補の事務所に偽名で潜り込んで活動していたというのは、さすがに前代未聞の出来事である。ネット上には「あり得ない」「信じられない」という声が溢れた。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第61回 正修止観章㉑

[3]「2. 広く解す」⑲

(9)十乗観法を明かす⑧

 ③不可思議境とは何か(6)

(4)十如是——類に随いて釈す②

 十如是を、三悪(地獄・餓鬼・畜生)、三善(阿修羅・人・天)、二乗(声聞・縁覚)、菩薩・仏の四つのグループに分けるうち、第四の菩薩・仏の十如是については、『摩訶止観』巻第五上に、

 縁因を相と為し、了因を性と為し、正因を体と為し、四弘を力と為し、六度万行を作と作し、智慧荘厳を因と為し、福徳荘厳を縁と為し、三菩提を果と為し、大涅槃を報と為す、云云。(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅱ)、572頁)

と述べている。縁因仏性を相とし、了因仏性を性とし、正因仏性を体とし、四弘誓願を力とし、六度(六波羅蜜)を根本とするすべての行を作とし、智慧による荘厳を因とし、福徳による荘厳を縁とし、正しい覚りを果とし、大涅槃を報とするといわれる。ここには、いわゆる三因仏性が出ている。正因は理、了因は理を照らす智、縁因は智の補助となる善行をそれぞれ指す。
 以上、四つのグループにおける十如是を説明した。『摩訶止観』には、追加の説明として、因・縁に逆と順があるとして、界内の生死に順じる場合、有漏の業を因とし、愛・取などを縁とすること、界内の生死に逆らう場合は、無漏の正慧を因とし、行行(助行)を縁とすることが示され、いずれの場合も分段の生死を滅すると述べられている。 続きを読む

離党ドミノが止まらない維新――党の行く末に絶望する議員たち

ライター
松田 明

離党理由さえ公表しない無責任さ

 千葉市議会の会派「日本維新の会・無所属の会」が、市民の請願を〝自作自演〟して9月定例会に出していたことを認め謝罪した。

 守屋聡幹事長が13日の議会運営委員会で、問題の請願に会派所属の桜井崇議員と大平真弘議員の2人が関与していたと説明。「請願そのものがでたらめな書類だった」「すべてが自作自演の請願書」と述べた。(『読売新聞』9月15日

 千葉市議会は17日、請願提出に関わった同会派の桜井崇市議と大平真弘市議に対する議員辞職勧告決議案を可決した。2人が所属する「日本維新の会・無所属の会」は棄権した。
 市民の請願を装って〝自作自演〟とは、まさに日本維新の会という政党の体質をよくあらわしている。
 そして、党内を覆う「ハラスメント体質」への絶望なのか、「不祥事」の連続で支持率が低迷する「沈む泥船」からのイチ抜けなのか、ここにきて日本維新の会から〝離党者〟が続出しているのだ。
 まず、統一地方選で大躍進したはずの2023年に、自らの意思で「離党」したのは以下の面々。 続きを読む

本の楽園 第193回 生きのびるための事務

作家
村上政彦

 坂口恭平という人物を意識したのは、2011年の福島原発事故があって、何人かの文学者が集まった席だった。当時、彼が出版した『独立国家のつくり方』という新書を話題にした編集者がいて、あ、それは僕も知ってる、とおもった。ただ、読んではいなかった。
 後日、読んでみたら、著者の問題の設定は、新しい社会をどのように構築するか、というより、僕らがどのように生き方を変えてゆくか、に重心がある、と感じた。社会を変える思想や試みは珍しくないけれど、そのためには、まず、個人の生き方を変えねばならないという。
 当然のことを、社会を変えるための実践として説いているところに関心を持った。同じことを考えていたからだ。人間が変わらなければ、社会は変わらない。そのためには、どうすればいいのか?
 坂口は、あなた自身が変わることですよ、と呼びかけているようにおもえた。僕も同じだった。まず、僕が変わらなければ、社会は変わらない、と考えていた。かなり齢はちがうけれど、坂口は仲間だとおもった。 続きを読む