葉っぱの上に、あたたかく優しい世界をつくり上げる、葉っぱ切り絵アーティスト・リトさん。自身の「過集中」という特性を生かし、唯一無二の作品を次々に制作。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)をはじめ、さまざまなメディアで紹介され、国内外で話題を呼んでいます。今年2月には、子どものための優れた作品制作や活動を行う人に贈られる、第3回やなせたかし文化賞「大賞」を受賞! ますます活躍の幅を広げるリトさんに話を聞きました。(『灯台』4月号から転載 取材・文/瀬尾ゆかり 写真/ボクダ茂)
――葉っぱ切り絵アートを始めたきっかけを教えてください。
リト 以前は、サラリーマンをしていたんです。大学卒業後に一般企業に就職して、転職も経験したんですが、あまりうまくいかなくて。自分だけ仕事が遅かったり、要領が悪かったりして怒られてばかりの毎日でした。
ある時、インターネットを見ていたら、「発達障害」という言葉に出合いました。そこから、自分に「ADHD」(注意欠如・多動性障害)という発達障害があることを知り、自分なりの生き方を探し始めたんです。
僕はまず、SNSで自身の障害について発信することから始めました。「調べてみたら、発達障害だってことがわかったよ」「今日は会社で、こんな失敗をした」など、毎日投稿したんです。
その後、会社を辞めると、発信することがなくなってしまいました。そんな時、自分が何気なく紙に描いた、細かい落書きを見て、〝これをもっとたくさん描いてつなげてみたら、面白そうだ〟と思って。1週間かけて細密画を描き、投稿したんです。すると、それを見てくださった方たちの反応がよかったので、2枚目、3枚目と描くようになりました。ほかにもスクラッチアートや紙の切り絵など、いろいろなことをやりましたね。

作品① オカエリ、コーヒー淹レタヨ
作品を投稿し始めた当初は、〝発達障害、特に僕の特性の一つである「過集中」を、プラスに変えていく過程を発信したい〟と思っていたんです。〝この活動が仕事につながれば。1日も早く仕事にしないと〟という焦りもありました。当時は実家で暮らしていましたが、貯金も底をついてきたし、〝友だちはみんな働いているのに、自分は何をやっているんだろう〟と、追い込まれていたんですね。
そんななか、ネット上で、スペインのアーティストによる葉っぱの切り絵を発見しました。〝すごい! 葉っぱならすぐ拾ってこられるし、やってみよう〟と思ったのが、葉っぱ切り絵アートを始めたきっかけです。
最初は全然上手にできなかったけど、やり続けるうちに、だんだん細密な作品もつくれるようになりました。日々、試行錯誤しながら作品をつくっては投稿し続け、8ヵ月くらい経った頃、投稿が〝バズった〟んです。そしてようやく、仕事につながっていきました。

作品② Over The Moon
――子どもの頃から、絵を描くのが得意だったのでしょうか?
リト いや、そんなことはなくて。自分の認識では、絵もそうですが、勉強やスポーツができるわけでもない、ごく普通の子でした。ゲームはすごく好きで、いつも友だちとゲームの話をしていましたね。
ただ、何かに没頭する傾向は、当時からありました。ノートに細かい迷路を描いて遊ぶとか。今思うと、〝あれも発達障害の特性だったんじゃないかな〟と、思い当たることはいっぱいあるんですが、特にそれで困ることもなかったですね。
親も、そんな僕を見て𠮟るわけでもなく、「またやってるよ」みたいな感じだったんですよ(笑)。親からは「うちは貧乏だよ」と言われていたけど、欲しいゲームは買ってもらえたし、のびのびと育ててもらえたので、〝幸せな環境にいたな〟って思います。大人になると、親のありがたさを実感するんですよね。
――作品づくりにおいて、大切にしていることは何ですか?
リト 自己満足にならないように気をつけていますね。もちろん、自分がつくりたいものをつくるのですが、作品を見てくださる方を頭に思い浮かべてつくるんです。皆さんが、自分自身の気持ちや体験と重ねて自由に物語を想像できるように、キャラクターの性別はなるべく限定せず、作品タイトルも説明的にならないように考えています。ぜひ皆さんには、作品を好きなように捉え、楽しんでいただけたらと思います。

作品③ …カット終わりましたよ、お客さま?
――〝自分の得意なことを見つけ、それを生かしたい〟と思う方に、アドバイスをお願いします。
リト もともと僕も、自分のことが何もわからなかったんです。〝自分の得意なことって何なんだろう……何もないじゃん〟と思っていましたから。
それが、発達障害という言葉と出合って、自分がなんとなく〝おかしいな〟と思っていたことの理由が、わかってきた。すると、過去の悩みや苦しさの理由も〝そういうことだったんだ〟と理解できたし、自分の得意なこと・不得意なこと、合う環境・合わない環境もわかってきたんです。〝この場所にいると自分は萎縮しちゃうから、違うところに行こう〟と行動できるようになり、会社員をやめ、アートの道へ進むことができました。
だから僕は、自分の得意なことだけでなく、不得意なことのなかにも、自分自身を知るヒントが隠れていると思っています。
それと最近気づいたんですが、例えば親に連れて行ってもらった遊園地や、ゲームセンターに通い続けた経験といった、子どもの頃に好きだったこと、楽しかったことが、今、作品づくりにすごく役立っているんです。子どもの頃のワクワク感、味わった嬉しさや感動が、すべてインスピレーションになり、作品のアイデアにつながっていて。なので僕は、〝人生に無駄なことなんて、一つもないんだ〟と確信しています。
子どもたち、もちろん大人の方にも、自分の好きなこと、〝楽しい!〟と思うことを、全力でやっていただきたいなと思います。それはいつか、自分の人生を豊かにしてくれるはずですから。

作品④ 外は冷えるから、首元しっかりポカポカに
――作品だけでなく、お話からも、たくさんのパワーをいただきました!
リト ありがとうございます! 僕は絵を描き始めた時から、〝いつか自分のやってきたことが、誰かにとっての道しるべになればいいな〟と思っていました。
今でも「絵が得意」という感覚はなくて、むしろ〝全然描けない〟と思っています。そんな男、しかも30歳を過ぎた男が、ゼロからスタートしても、なんとか形になるぞってことを証明できたら、一つの大きな道しるべになれるかもしれない。そんな思いがあったから、ここまで頑張れたんです。これからも心を込めて、作品をつくり続けていきます。
【リトさんの公式サイト・SNS】
リト@葉っぱ切り絵 X(旧Twitter) Instagram
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