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養殖サーモンで描く「食」の成長戦略

弘前大学食料科学研究所所長
嵯峨直恆

青森発の養殖サーモンで100億円市場目指す


 2014年12月、弘前大学・食料科学研究所と青森のオカムラ食品工業、深浦町(青森県西津軽郡)は、サーモンを養殖して売り出すための連携協定を結びました。オカムラ食品工業はすでにドナルドソントラウト(大型のニジマス、いわゆる「海峡サーモン」)の稚魚を育て始めています。
「海峡サーモン」に続いてアトランティックサーモン、さらには「鮭の王様」キングサーモンの養殖に進出し、25年には年間1万トン、年商100億円市場へ伸ばすのが目標です。栄養バランスが良く、高品質で高機能性を有した養殖サーモンにブランド力をつけ、日本の都市部、世界へと売り出していきます。
 弘前大学の遠藤正彦・前学長は地域貢献に力を入れており、10年10月に被ばく医療総合研究所、白神自然環境研究所、北日本新エネルギー研究所を新たに設立しました。被ばく医療総合研究所は、福島第一原発の事故対応で大きな役割を果たしています。
 1993年12月、白神山地がユネスコの世界遺産に認定されました。白神自然環境研究所は、白神山地をはじめ青森の生物多様性と生態系を守るための拠点です。北日本新エネルギー研究所では、自然エネルギーの研究を進めて社会貢献に努めます。
 弘前大学が地域貢献するための第4の拠点として、2013年3月に食料科学研究所が設立されました。ここでは①基礎研究の推進、②産学官金(融)の連携による地域振興、③国際化――の3点を目指しています。私は14年4月、同研究所の所長に就任しました。
 青森県の基幹産業は農林水産業ですが、どの事業者も不景気に苦しんでいます。養殖業があまり盛んではない青森で、どうすれば新たな産業を興せるのでしょう。これからの大学は、学内で教育研究ばかりをやっていればいいわけではありません。産官学金のコンソーシアム(連合体)を形成し、大学を拠点として地域振興のために協力するべきです。
 NHK朝の連続テレビ小説『あさが来た』では「ファースト・ペンギン」というとても良い言葉が出てきます。初めて海に飛びこむ勇気あるペンギンは、群れのほかの大勢に勇気を与えるわけです。新しい事業を興すことはリスクを伴いますが、私たちは「ファースト・ペンギン」として青森に地域貢献する挑戦を始めました。

東京やシンガポールでアンテナレストラン

「函館国際水産・海洋都市構想」を推進するため、私は海藻の専門家として協力し始めました。02年6月には、産官学連携の「函館海洋科学創成研究会」が設立されています(現在は一般財団法人「函館国際水産・海洋都市推進機構」)。この取り組みにより、まったくの無名だった「がごめ昆布」は年間20億円規模の産業へと発展しました。
 ただし、かつてはイカを買っていた人ががごめ昆布を買うということでは、道南・函館が本当に豊かになっているとは言えません。地元の人がパイを奪い合うのではなく、都市部の人たちに商品を買ってもらって〝外貨〟を稼ぐのが課題です。
 昔は北海道や青森の人たちが外貨を稼ぐためには、農林水産業ができない冬に都会へ出稼ぎに行くしかありませんでした。せっかく出稼ぎによって外貨を稼いでも、都会が作った商品を買い続ける限り、地方は本当の意味で豊かになれないわけです。
 地方が作った原料が安く買われ、都会が高付加価値をつけて商品化する。このサイクルから抜け出すためには、人々は地域にとどまり、自分たちの力で高付加価値をつけた商品を都会で売ればいいわけです。
 がこめ昆布の高付加価値化が成功したおかげで、事業者の平均年収は200万円も上がりました。地方でもたくさん稼げる仕事があれば、進学などで一度都会に出た子どもが故郷にUターンしてきてくれます。普通の昆布とは違う高付加価値の商品があれば、都会の人は高いお金を出しても損したとは思いません。都会も地方もWIN-WIN(共に喜べる状態)になるための成長戦略は描けるのです。
 16年3月に北海道新幹線が開通すれば、函館から八戸までを結ぶ人口120万人の「津軽海峡圏」が生まれます。青森から函館までが数十分で結ばれ、まるで隣町のような近さです。道南と青森に「津軽海峡グルメコリドール」(食通回廊)を作り、経済を循環させていってはどうでしょうか。
 銀の皿に氷と地元の海産物を盛りつけた「海の幸 下北プラッター」は、パーティーやイベントで大変な人気です。アンテナショップならぬアンテナレストランを銀座や赤坂、日本橋に造り、サーモンをはじめとした食材を使ったフルコース料理を出す。シャンパンやワインと一緒に、日本のおいしい食材を楽しんでもらう。
 東京だけでなくシンガポールにもアンテナレストランを開店し、10~20年後には中東のドバイやアフリカ、モロッコにまで進出できるかもしれません。「種の多様性と海の生態系を守ろう」という世界の潮流にも、養殖サーモンはピッタリです。

大学が「食のMBA」の拠点になる未来

 養殖サーモンの事業化という新しい取り組みにはリスクがありますから、民間の力、単独の大学の力だけで事業を回していくことはなかなかできません。リスクを伴った新しい挑戦には、公的資金による援助と政治の後押しが必要です。
 その点、公明党は一貫して私たちの地域貢献事業に協力してきてくれました。がごめ昆布を売り出した文部科学省の地域科学技術振興事業(「地域イノベーションクラスタープログラム」)は、民主党政権時代に事業仕分けの対象になりかけたことがあります。
 あのときは公明党の漆原良夫国会対策委員長(当時)や稲津久衆議院議員、横山信一北海道議会議員(現・参議院議員)が民主党の平野博文官房長官(当時)と直談判し、一度決まりかけた事業仕分けをひっくり返してくれました。水産学の博士号をもつ横山議員は、農林水産の民活の重要性をよく理解してくれたわけです。
 公明党が与党に復帰してから、横山議員は農林水産大臣政務官に就任しました(13年9月~14年9月)。後任の佐藤英道農林水産大臣政務官(14年9月~)も含め、公明党は地域振興の産官学連携を強く後押ししてくれています。
「近大マグロ」のブランド化に成功した近畿大学に続き、弘前大学は政治の後押しを受けながら、新しい「知の営み」を形にしていきます。
 食の成長戦略を研究する弘前大学の拠点を、シンガポールに開設する。その分校に「食のMBA(経営学修士)コース」を設置し、東南アジアや中近東、アフリカから食に特化したMBAを取得しに来てもらう――食を基盤として、国際的に活躍できる人材を育てるのが私のこれからの夢です。

<月刊誌『第三文明』2016年3月号より転載>


さが・なおつね●1950年、宮城県仙台市生まれ。理学博士。北海道大学大学院理学研究科修了。水産庁、北海道区水産研究所主任研究官・研究室長、東海大学海洋学部教授、同海洋研究所先端技術センター長、北海道大学大学院水産科学研究院長・学院長・学部長などを経て、2014年から現職。水産植物学、海洋植物学、特に海産大型藻類の発生学・遺伝育種学に関する教育・研究に従事。近年は地域振興学、特に農林水産物の高機能ブランド化に関する研究開発にも携わる。主な共著に『海の百科事典』(丸善)、『宇宙から深海底へ――図説海洋概論』(講談社)などがある。