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沖縄伝統空手のいま~世界に飛翔したカラテの源流
第2回 沖縄空手界をたばねる団体

ジャーナリスト
柳原滋雄

「本場」の空手を映像付きで紹介した書籍

 関係者の間で秘かに注目されてきた本がある。タイトルは、『公開! 沖縄空手の真実』――。サブタイトルに「君は本物の空手を見たことがあるか?」の文字が見える。
 発刊されたのは2009年。沖縄国際大学名誉教授の高宮城繁(たかみやぎ・しげる1935-2014)の呼びかけで沖縄空手の長老と目される著名な空手家が協力して制作された。110分の特別映像の入ったDVDが付録につけられている。沖縄空手の3大流派の主要な型を演武した映像が収められており、ノーマルスピード、スロースピード、さらには角度を変えて見せるという気の使いようだ。

書籍『沖縄空手の真実』

書籍『沖縄空手の真実』

 本書を手にとって、沖縄空手の迫力ある型の映像に初めて接したという読者・視聴者も多いようだ。本書はいまもマニアの間で評判を呼んでいるようで、インターネット上の古書販売でも1万円前後の高値で売り買いされている。
 本書に登場する主な空手家は、剛柔流の東恩納盛男(1938-)、上地流の高宮城繁、少林流の喜友名朝孝(1939-)、島袋善保(1943-)、松林流の新里勝彦(1939-)といった面々。多少なりとも沖縄空手に関心のある人ならいずれも耳にしたことのある名前のはずだ。
 本書では空手歴50年を超えるこれら「超」ベテランの空手家たちが、自ら型演武を行い、ときに解説を加える。
 書籍の内容も、沖縄空手の現状をわかりやすく解説するもので、沖縄空手に未知の読者が読んでも理解しやすい構成となっている。そのため空手や格闘技に関心をもつ関係者の間で密かに注目されるようになったようだ。
 本の冒頭で「達人座談会」という企画が掲載されている。そこでは日本本土と沖縄の空手道場の違いが印象深く語られている。
 例えば、本土では大学で空手をやって卒業するとすぐに指導する立場に回ってしまう傾向があるのに対し、沖縄では卒業してから道場に入って修行する。「こっちでは40年、50年空手をやる人が当たり前のようにいます」との高宮城の言葉は、空手に対する修行期間のスパンが明らかに異なることを思わせる内容だ。
 同様に「沖縄の道場主はほとんどが30年以上の修練者です」との新里の言葉も、沖縄空手の奥深さを実感させる。
 稽古時間についても、沖縄の道場は通例週3回、1回につき2時間で週に6時間であるのに対し、本土では週に1~2回、時間は1回1時間半で、練習時間に大きな差があることを指摘した箇所もある。
 高宮城が語った次の言葉は、沖縄空手の本質を端的に示している。
「まず、生涯武道を志すというのが沖縄の武人の基本的な論理なんです。そして生涯武道というのは、型を通してしか行い得ないんです。試合での選手生命なんて、精々30代で終わってしまうでしょう? そうしたら後50年は何をやるんだ、と。型を中心にやるわけですよ。だから、生涯武道の基本というのは型にしかないんです」
 これまで述べてきたとおり、沖縄空手は古流型の反復や巻き藁突きなどの部位鍛錬を稽古の要とする。本書は沖縄伝統空手の核心部分を付録映像を踏まえて惜しみなく読者に開示したという点で、高く評価されたようだ。

沖縄伝統空手道振興会の設立

 この本がまとめられるには、実は伏線となる出来事があった。出版される前年の2008年2月、沖縄の空手・古武道4団体がまとまり、「沖縄伝統空手道振興会」という連合組織が設立されたことだ。その初代理事長に就任したのが高宮城だった。
 会長に就いたのは当時の沖縄県知事であった仲井眞弘多(1935-)。その父・仲井眞元楷は、知る人ぞ知る剛柔流の著名な空手家だった。その後、翁長雄志知事(1950-)が2代目会長を務める。
 後述することになるが、戦後の沖縄空手界は統一組織ができたかと思うと分裂を繰り返すなど、これまでまとまりを欠いてきた。そうした中、沖縄の伝統文化である空手がいつまでもバラバラであっては沖縄振興の観点からも得策でないと考えた人たちが中心となって、知事肝いりでできたのが上記の振興会である。
 母体となった4団体は、沖縄伝統空手の団体が2つ(全沖縄空手道連盟、沖縄県空手道連合会)、競技空手の団体が1つ(沖縄県空手道連盟)、古武道の団体が1つ(沖縄空手・古武道連盟)の構成で、会長である沖縄県知事のもと、4人の各団体の長が副会長として支える。

空手歴70年を超える喜友名理事長

空手歴70年を超える喜友名理事長

 現在、振興会の事務所は2017年3月に開設された「沖縄空手会館」(豊見城市)内に設置され、沖縄伝統空手の重要な発信拠点として機能している。振興会では定期的に各種の国際セミナーを開催するほか、本年(2018年)8月には沖縄伝統空手の独自方式による第1回の国際型競技大会を開催予定だ。
 この連合組織が発足してちょうど10年。現在、3代目の理事長をつとめる喜友名朝孝は振り返る。
「知事をトップにすれば4団体がまとまるということでできたのが振興会です。もしあのとき仲井眞知事がOKを出していなければ、この組織も存在しなかった。その意味では、今後ともこのまとまりを大事にしていきたい」(文中敬称略)

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やなぎはら・しげお●1965年生まれ、佐賀県出身。早稲田大学卒業後、編集プロダクション勤務、政党機関紙記者などを経て、1997年からフリーのジャーナリスト。東京都在住。