「SGI提言」を読む――世界には青年の数だけの希望がある

ライター
青山樹人

世界に比類のない提言

 1月26日の「SGIの日」に寄せて、池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長の「記念提言」が今年(2017年)も発表された。
 1983年以来、毎年発表されてきた「SGI提言」は、各国の有識者に読まれ、とりわけ国連のリーダーたちから高い評価と共感をもって迎えられている。
 SGI会長は、人類が直面する困難な諸課題を正面から見据えつつ、常に国連中心主義を世界の国々と民衆に呼びかけ、取り組むべき行動をきわめて具体的に示し続けてきた。

 このような活動を一貫して、しかもこれほどの長きにわたり、実質的な形で持続してこられた方を、私は世界で他に知りません。(アンワルル・チョウドリ元国連事務次長/対談集『新しき地球社会の創造へ』から)

 「希望の暁鐘 青年の大連帯」と題された今回の提言もまた、①国連が推進する「持続可能な開発目標(SDGs)」の推進に不可欠なもの、②核軍縮への方途、③難民問題、④ジェンダー平等の促進、といった課題について、見落としてはならない視点を挙げつつ、具体的な提案がなされている。
 大変に長編の提言であるので、いくつかのポイントに絞って、随所に語り示されたSGI会長ならではともいうべき視座と智慧を振り返っておきたい。

身の回りの「一輪の花」から

 2015年、国連は全会一致で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択した。これは「誰も置き去りにしない」ことを掲げ、2030年までにあらゆる場所から貧困や不正を撲滅し、持続可能な世界を実現するための目標を設定したものだ。
 その具体的な17の目標と169のターゲットが「持続可能な開発目標(SDGs)」である。
 だが、ここにきて現実の世界はますます排除と分断の色を濃くし、それを合理性や経済効率で正当化しようとさえしている。
 SGI会長は、なによりも大切なことは「共に生きる」という人間的な思いであり、青年=若い世代が持っているみずみずしい共感力こそ、世界を変えていくカギだと呼びかけている。

 SDGsの目標達成は、いずれも容易ならざる挑戦です。
 しかし、苦しんでいる人々に寄り添い、エンパワーメントの波を起こす中で、自分たちの身の回りから「一輪の花」を咲かせることはできるはずです。
 そして、その何よりの担い手となりうるのが青年ではないでしょうか。(同提言から)

 世界を変えていくといっても、それは一人一人が自分自身の「他者への共感力」を取り戻し、自分の目の前にいる苦悩する一人に寄り添って〝共に生きよう〟とするところからしか始まらない。
 SGI会長の指摘は、平易なようで、人々が見落としがちな急所を突いたものだ。そして実際に、創価学会員たちは会長を模範とし、日本と世界の津々浦々で、日々こうした「一輪の花」を咲かせ続けてきた。

世界市民教育と友情

 苦悩する人に手を差し伸べようとする精神的な基盤は、文化や宗教の違いにかかわらずさまざまな形で世界に息づいているものであり、脅威が自分に及んでいようといまいと、同苦して何らかの行動を起こそうとする力は、本来、誰しもに備わっている。
 とりわけ青年のそうした内発的な力を引き出していく方途として、SGI会長は「世界市民教育」の重要性を説いている。

 それは、グローバルな課題を人間一人一人の生き方に引き寄せながら、その人自身が持つ可能性を開花させていく源泉に他なりません。
 世界には、10歳から24歳までの若い世代が、18億人いるといわれています。
 こうした若い世代が、暴力や争いではなく、人権を守る方向へと心を向けていくことができれば、人権教育に関する宣言が掲げている「多元的で誰も排除されない社会」への道は、大きく開けていくはずです。

 青年が他者へ、社会へ、世界へと関心を広げ、そこにある問題を〝苦悩している一人一人〟の問題として認識し、同時に自分のこれからの生き方に引きあてて考えること自体が、自分の可能性を開花させゆく源泉となる。このSGI会長の視座は、大乗仏教の真骨頂ともいうべきものだ。
 社会を覆う排除と分断の風潮に対しても、SGI会長は、それを問答無用で正当化している経済的合理性を指摘し、歴史を振り返りながら「1対1の友情」が対立から共存への羅針盤となり足場になっていくことを懇々(こんこん)と語っている。

脈打つ〝人間への信頼〟

 こうした仏教者ならではの人間観は、提言の全体を貫いている。
 今回の提言でも「難民問題」に言及しているが、会長は難民となった人々が迫られてきた過酷な選択の一つ一つを挙げながら、こう呼びかける。

 先の見えない苦境に立たされているのは、生まれ育った環境や歩んできた人生は違っても、私たちと変わらない人間であることを忘れてはならないのです。

 その人間の尊厳を取り戻すためにも、単に難民となった人々を保護するのではなく、彼らと、彼らを受け入れた地域の双方がレジリエンス(困難を乗り越える力)を高めるために、SDGsに関わる仕事と教育の機会が重要だと指摘している。
 同時に、会長は苦境にある人、虐げられてきた人を、単に不運で弱い人だとは見ない。苦しんだ人間には、それを力と価値に変えていける使命がある。

 何より、難民の人々は多くの苦しみや悲しみを味わってきたからこそ、さまざまな問題に苦しむ人々の力になれる存在です。
 また、紛争が終結して帰国を果たせた時には、受け入れ国でのSDGsに関わる仕事の経験が、生まれ育った国の復興と再建の大きな原動力になっていくに違いありません。

 SGI会長の提言の底を貫くのは、そこにいる「一人」の苦悩への同苦であり、しかし、その苦悩している人自身も含めた、私たちの世界への〝人間的なものに対する信頼〟である。
 いかに問題が山積していようとも、人間にはそれを打開していく力がある。その打開へ向かって人々と連帯していく時に、私たちは今まで以上に、より強い、より賢明な、より豊かでより善い人間になっていける。
 このSGI会長の信念を受け継ぐ思いで、今年の「SGI提言」を精読したい。

リンク:
創価学会公式サイトSOKAnet「記念提言のページ」

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あおやま・しげと●東京都在住。雑誌や新聞紙への寄稿を中心に、ライターとして活動中。著書に『最新版 宗教はだれのものか 世界広布新時代への飛翔』、『宗教は誰のものか』(ともに鳳書院)など。