【書評】たくさんの刺激と人生のヒントがここにある 解説:東晋平(ジャーナリスト)

artist
『アーティストになれる人、なれない人』
マガジンハウス
宮島達男編
定価1028円  Amazonで購入
 
 
 
 

 1冊の新書版にしてはゴージャス過ぎるラインナップなのである。
 世界的にその名を知られる現代美術家・宮島達男。その「世界のミヤジマ」がホスト役になり、フランス芸術文化勲章オフィシェを受章した杉本博司、建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受けた西沢立衛をはじめ、現代日本を代表するクリエイトな人々が計7名登場して自分自身のことを語る対話編。学生時代に落研に在籍していたという宮島だけに、流れが軽やかで巧みである。そして宮島だからこそ相手が語り得たのだろう秘話や本音が随所に飛び出す。
 彼らを〝超一流〟に育てたカギは何なのか。そのようなトップランナーを輩出する教育というものは可能なのか。自身がアーティストであり教育者でもある宮島は、懸命にその解を探り出そうとする。しかしこの本は、アーティストになろうなどと考えたこともない人たちに、むしろ広く読まれてほしいと思う。
 そもそも宮島はアートを「人生や社会を切り拓いていく力」を人間から引き出していくものとして捉えている。美大や芸大を出ても99%の人はアーティスト以外の職業に就いていくのだが、それゆえに「その99%のためにこそ美術教育は存在する」と言い切る。したがって、この対話編が掘り起こしていく「アーティストになれる人、なれない人」を分ける〝何か〟とは、じつはどんな職業、生き方を選ぶ人にとっても価値あるものなのだ。芸術に限らず「才能があるかないか」という話をしてしまえば身も蓋もない。彼らがここで誠実に語ってくれているのは、そんなことではない。宮島を含めた〝超一流〟の8名が、どんなふうに格闘して人生と社会を切り拓いてきたか。ここを読み解いていきたい。
(ジャーナリスト・東 晋平)

<月刊誌『第三文明』2013年12月号掲載>

書評ページ「TOP」に戻る