コラム」カテゴリーアーカイブ

芥川賞を読む 第39回 『沖で待つ』絲山秋子

文筆家
水上修一

同期入社の男女の友情を爽やかに切なく描いた名作

絲山秋子(いとやま・あきこ)著/第134回芥川賞受賞作(2005年下半期)

純文学に対する見方が変わる

「芥川賞作品にもこんな作風のものがあるのだ」と妙に感心した。純文学と呼ばれるもの、なかんずく芥川賞作品に見られがちなかなり特殊な世界の話ではないし、難しいテーマでもない。多くの人が経験しているであろうことを平易な文章でさらりと描いて見せて、読後に爽やかな感覚を残していく。「ああ、おもしろかった」と思いながら本を閉じると、心の奥がほんの少し温かい。
 選考委員の河野多恵子は、

純文学まがいの小説くらい、くだらない読物はない。そういうものを読んで純文学はつまらないと思い込んできた人たちに、この作品で本物の純文学のおいしさを知ってもらいたくもなった

と絶賛している。
 第134回芥川賞受賞作、絲山秋子の「沖で待つ」が描いているものは、仕事を通して生まれた異性の友情である。なかんずく同期という特殊な人間関係の持つ絆の強さが鮮やかに描かれている。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第47回 正修止観章⑦

[3]「2. 広く解す」⑤

(6)「2.6. 互発を明かす」③

②雑・不雑

 不雑とは、一つの対象界を生じてから、あらためて他の一つの対象界を生じるというように、明確な区別があるような対象界の生じ方を意味する。これに対して、雑とは、陰入(五陰・十二入)の対象界を生ずるとすぐに、別の煩悩を生じたり、煩悩がまだなくならないうちに、別の業・魔・禅・見・慢などがかわるがわる生じたり、二つ重なって生じたりする場合をいう。

③具・不具

 具・不具とは、対象界の十の数がすべて備わるのを具と名づけ、九以下を不具と名づけるとされる。上に述べた次第・不次第や雑・不雑についても、具(十の対象界がすべて備わること)・不具(九以下の対象界が備わること)を論じる。 続きを読む

本の楽園 第185回 ミッキーは谷中で六時三十分

作家
村上政彦

 気になる作家がいて、一度作品を読んでみようとおもうのだけれど、なかなか手に取る機会がない。いや、機会はつくるものだから、手に取るまでの関心が動かないというべきだろうか。
 では、その作家が嫌いなのかと訊かれると、読んでないのだから応えようがない。やはり、手に取る機会がない、としかいいようがないのだ。そういう作家のひとりが、僕にとっては片岡義男だった。
『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞をもらってデビューした作家ということぐらいしか知らなかった。この小説を原作にした映画もTVのロードショーで観た。映画は率直にいって、あまりおもしろいとはおもわなかった。
 いつもの僕なら原作を取り寄せて比べてみるぐらいのことはしただろう。けれど、このときは、そうしなかった。なぜだかは分からない。それからもう30年近い歳月が流れている。
 そして、最近になって、発作的に片岡義男の小説本を買った。『ミッキーは谷中で六時三十分』だ。これは明らかにタイトル買いだった。見た瞬間に、買わなければ、とおもった。 続きを読む

維新の〝不祥事〟は今年も続く――根本的な資質に疑問符

松田 明

藤田幹事長のお膝元で3連敗

 4月21日、任期満了に伴う大阪・大東市の市長選挙で、元大東市職員の逢坂伸子氏(無所属)が大阪維新の会の新人・石垣直紀氏を破って当選した。
 大東市は衆議院大阪12区で、日本維新の会の藤田文武幹事長の地盤。12区は、この大東市と寝屋川市と四条畷市からなる。しかし、2020年の四条畷市長選挙でも維新候補が敗北。昨2023年の寝屋川市長選挙ではダブルスコアで維新候補が敗北。今回の大東市も敗北して、3連敗となった。

出陣式には枚方や守口、東大阪など近隣の維新市長が集結し気勢を上げるなど必勝態勢を取っただけに、党内はショックを隠せない。(『産経新聞』4月23日

 維新の金城湯池ともいうべき近畿圏だが、昨年10月の奈良県橿原市長選では維新の公認候補が前回に続いて2連敗。11月の京都府八幡市長選でも維新の公認候補が敗北。
 2024年2月の京都市長選では、日本維新の会が推薦して立候補表明した候補者に架空の政治資金パーティーを開いていた疑惑が浮上。直前になって日本維新の会は推薦を取り消して不戦敗となった。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第46回 正修止観章⑥

[3]「2. 広く解す」④

(6)「2.6. 互発を明かす」②

 前回は「2.6. 互発を明かす」の段の途中までを解説した。「互発」には九双七隻(くそうしちせき)があり、九双は、次第・不次第、雑・不雑、具・不具、作意・不作意、成・不成、益・不益、久・不久、難・不難、更・不更であり、七隻は三障・四魔を指す。前回は、このなかで最初の「次第・不次第」のなかの「法の不次第」の途中までを解説した。そこでは、十境それぞれがそのまま法界であることを洞察することを明らかにしており、病患がそのまま法界であることまでを紹介した。今回は第四の業相の境から説明する。 続きを読む