「解散風」に右往左往した野党――深刻化するバラバラ感

ライター
松田 明

大はしゃぎした共産党

 全国唯一の日本共産党公認の野党統一予定候補が実現した参院福井選挙区(改選数1)。福井県中を駆ける山田かずお予定候補に、「共産党で一本化してびっくり」「共産党で統一できたのがすごいこと」「ぶれなかったからだね」と期待が寄せられています。

 野党統一によって希望ある政治をつくる道に踏み出した野党と市民に感謝したい。“共産党候補だからこそ共闘が進むんだ”と示す結果を出したい。

 こう大はしゃぎしているのは、6月23日の「しんぶん赤旗電子版」である。
 全国に32ある「1人区」に野党5会派が擁立した〝野党統一候補〟。
 そのうち、島根・鳥取の合区、徳島・高知の合区、福井の3選挙区で共産党候補が立候補する予定だった。
 しかし有権者にも野党間にも共産党への拒絶反応が強く、島根・鳥取、徳島・高知では、共産党が公認をやめて「無所属」へと譲歩することで、かろうじて〝野党統一候補〟の体裁を取り繕うことになった。
 冒頭の記事は、こうしたなかで福井だけが「全国唯一の日本共産党公認の野党統一候補」になったと、共産党が大喜びしているものだ。

「共産候補は支持せず」

 ところが4日後、国会が閉会し、参院選が事実上スタートとなったタイミングで、状況はガラリと変わった。地元紙はこう伝えている。

 立憲民主党、国民民主党、社民党の福井県内3野党が、参院選福井選挙区で立候補を予定している共産党公認の野党統一候補、山田和雄氏(51)に推薦や支持を出さない見通しとなった。(「福井新聞オンライン」6月27日)

 立憲民主党県連代表は、

「共産公認候補に対し、党を挙げての応援は難しい」(同)

 国民民主党県連代表も、

「選挙協力は対立候補を出さない形にとどまる」(同)

と冷ややかな反応。
 共産党が大はしゃぎした「全国唯一の日本共産党公認の野党統一候補」は、いきなり他の3野党から支持も推薦も拒絶される、もはや何が〝統一〟なのかわからない候補となったのである。

浮足立っていた野党

 今年に入って「衆議院解散」「衆参同日選挙の可能性」がささやかれはじめたことで、野党は一気に浮足立っていた。
 本音は確執まみれの野党が、それでも32すべての「1人区」に〝野党統一候補〟の擁立を急いだ背景は、「解散風」への不安があったからだ。
 しかし、その不安に煽られて無理やり〝野党の結集〟の演出をしたことで、県連レベルではかえって野党間の亀裂が深まった。
 そして国会が閉じて衆参同日選挙がとりあえず回避されたとわかった途端、福井では「共産党公認候補など推薦も支持もできない」という本音が噴出したのである。
 この福井で露呈した決定的な野党間の亀裂は、今後、各地の〝野党共闘〟にも影を落とすだろう。

腰の引けた姿に終始

 国会閉会のわずか9日前の6月17日には、

 立憲民主党は17日、内閣不信任決議案の今国会提出を見送る方向で検討に入った。(「時事ドットコム」6月17日)

と報じられていた。
 立憲民主党などは、安倍首相が衆議院解散に踏み切ることを恐れていたのである。
 19日に行われた党首討論でも、枝野代表(立憲)、玉木代表(国民)、志位委員長(共産)の3人とも、衆議院解散を迫るどころか言葉に出すことさえしなかった。
 すっかり腰が引けたこれら野党代表の姿に、メディアからも失望の声が相次いだ。
 21日に安倍首相が公明党の山口代表に「解散は検討せず」と伝えたと報じられても、なお疑心暗鬼は消えず。
 様子をさぐりさぐりし、どうやら本当に同日選挙は見送られたとわかって、25日になって野党5党派が党首会談。不信任決議案を提出したのである。

 各党の思惑がバラバラ、ブレブレの末、会期末だからやっぱり出しておこうという程度のもので、政権交代の決意も、日本をリードしていく覚悟も微塵も感じられない慣例行事、年中行事としか言えません。

 反対討論に立った自民党の萩生田幹事長代行の言葉は、多くの国民の実感だったのではないか。
 時の政権に対し退陣を迫るというのは、自分たちが政権を引き受けるという宣言でなければならない。
 ところが、今の立憲民主党など野党5会派は、その政権構想すら明確に示せていない。
 それどころか、皮肉にも〝野党統一候補〟の擁立劇で露見したように、互いの確執と不信感、主導権争いに明け暮れているのである。

暴走する立憲の候補者

 6月1日、枝野代表が応援演説に入った宮城選挙区では、立憲民主党公認の〝野党統一候補〟が、「消費税率はゼロでよいと思う」と主張。
 これは、「税率引き上げの凍結」という立憲民主党の方針にも反するし、「消費税率引き上げの中止」という5党・会派の共通政策とも食い違う。
 なにより、前日の5月31日、こうした党の方針と異なる政策を主張している候補者がいることを報道陣から問われた枝野代表は、

当面の間は消費税率を上げないことが党の決定であることは、しっかり認識、共有していただいていると思う。

と答えたばかりだ。
 その翌日に、自分の応援に来た枝野代表を隣に、この候補者は勝手な主張を繰り返し、枝野代表はそれに対して口をつぐんだ。
 同様の「税率ゼロ」発言は、立憲民主党の候補として比例区から出馬予定の芸人も繰り返している。
 ちなみに、消費税率引き上げは民主党政権下の2012年に3党合意で決まったことであり、枝野代表をはじめ立憲民主党の主要メンバーは旧民主党の面々。
 有権者のウケだけを狙って、党の方針とも5党・会派の共通政策とも異なる政策を公然と発信する無責任な候補者。
 それすら誰も抑えられないのが、いまの立憲民主党のガバナンスである。
 党内の意思統一もできない。政党間でも合意形成ができない。政権構想もいまだに示せない。
 有権者が望んでいるのは、調子のいい言葉ではない。安定した政治であり、1人1人の声を政策に実現していける実行力である。

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