「しっぺ返し」は有権者に来る――世代を超えた「地方創生」のための統一地方選に

ライター
青山樹人

「一人の首長の在任期間で済む話ではない」

 大阪に向かう新幹線の車中で、隣に座っていたのは出張先から大阪に帰るという中小企業経営者だった。
 大阪人の気質の話題になり、筆者が「なぜ大阪で橋下人気が続くのか」と問うと、彼はしばらく考えてから「嫌いな人は嫌いなんです。ただ大阪人は奇抜なものを〝おもしろがる〟クセがありますからなあ」と答えた。
 その車中で筆者は、『潮』(2015年4月号)に掲載されていた、北川正恭さんと増田達也さんの対談を読んでいた。
 タイトルは「『地方創生』の本筋を語る」。早稲田大学大学院教授の北川さんは元三重県知事。選挙におけるマニフェスト導入を提唱した第一人者である。増田さんは元岩手県知事。現在は地方創生会議座長として、文字どおり「地方創生」の陣頭に立つ。
 この「地方創生」というのは、明治維新の廃藩置県以来の〝国替え〟だと北川さんは言う。300近くあった江戸時代の藩を廃止し、権力権限をすべて東京の新政府に集中させた。そこから150年続いていた中央集権国家を再び解体して、地方に分権していく。
 増田さんは、だからこそ「一人の首長の在任期間で済む話ではない」と言う。仮に1期4年を6期やったとしても、たかだか24年。「2050~60年の人口動態がどうなっているかというような話ですから、首長のリーダーシップにも限界があります」と。
 首長や議員に任せていて、それで解決する時間軸の話ではないのだ。だからこそ、これからの地方地域の政治は、なによりも「住民自治」の力が問われてくると2人は語る。
 自分の代だけではなく、親、子、孫と長いスパンで自分の地域を考えて、今できること、中期的にやること、長期的にやることを、それぞれ大きな時間軸を設定していく。
 その「住民自治」を発揮できる体制を作れるかどうか。議員や党派にしても、世代交代してもなお継続した政策を遂行できる安定した一貫性がなければならない。

号泣議員はなぜ当選したのか

 増田さんは、その意味でも首長や議員の選び方に一層の厳しい眼が必要だと語る。

資質の欠けた者を選んでしまうと、住民の側が強烈なしっぺ返しを食らいます。これまでもそうだったでしょうが、それがより赤裸々に出てくるのではないでしょうか。

 北川さんも、そこを強調する。

地方議会でも、政務活動費の不透明な使途や、資質に欠けた議員の存在が浮き彫りになりました。今回の選挙では、首長と議会、執行権者と決定権者、どちらも資質が問われるいい機会です。

 政務調査費の不透明な支出が暴かれたあげく、あの〝号泣会見〟で世界中に動画が出回った元兵庫県議も、当人の問題以上に、そもそもまったく議員の資質を欠いた人間が、なぜ当選したのかというところに問題の本質がある。
 彼は折からの〝維新ブーム〟に便乗して「西宮維新の会」という実態がないに等しい政治団体を名乗って当選した。橋下氏の維新とは無関係らしいが、〝維新〟と名がつけば候補者の資質も見極めずに気分で票を投じてしまった有権者が、結局は高価な代償を支払わされたのである。
 資質を欠いた人間といえば、〝維新〟の本家の大阪でも、問題は根深い。
 大阪市が公募した「公募区長」で、虚偽経歴やセクハラ、業者との癒着、ツイッターでの暴言など、信じられないような不祥事が次々と発覚。辞職が相次いでいる。
 大阪府でもこの3月、府教育長がパワハラ問題で辞職した(NAVERまとめ)。橋下府知事時代に公募で府立高校校長に就いていた人物である。
 おもしろがったブームに浮かれたあげく、まさに「強烈なしっぺ返し」を食らうのは、常に住民自身なのだ。

問われるのは「有権者の資質」

 この3月21日、東日本大震災の被災地でもっとも激甚な被害を受けた場所の1つ女川町で、世界的建築家・坂茂(ばん・しげる)氏の設計になる駅舎が完成し、JR石巻線が全線開通したことが話題となった。
 石巻市女川町では、駅舎をはじめ8割の建物が津波で破壊され、人口の1割近くが犠牲となっていた。
 その女川町が、同じ沿岸部の被災自治体の中で群を抜いた速さで復興を加速している。なぜ、それができているのか。
 女川町では、いち早く「女川町復興まちづくりデザイン会議」を立ち上げ、住民参加で街の再建を協議し始めた。しかも、再建にははるかな年月がかかることを想定し、住民が世代交代していくなかで復興させていく長い時間軸のプランを議論した。
 とくに注目を集めたのは、その協議に小中学生も参加させる一方、「60代は口を出すな」「50代は口は出しても手を出すな」と、ほかならぬ中高年の住民たちが決めてきたことだ。
 なぜなら、街の復興には数十年かかるからであり、そこに責任を持てない世代ではなく、その中心となる世代に任せようと決めたのだ。
 ポピュリズム政治が横行する時代になり、一部の個性の強い人間が〝派手な物言いでメディアに露出すること〟をエネルギーにする政治が見受けられる。
 けれども、今や地方の未来は数十年というスパンで考え、そこに向かって住民参加で行動していかなければならない時代になっている。
 1人の首長がたとえ10年や20年の任期を得たとしても、対応できるものではないのだ。
 まして、特定の人間の個性や人気だけで引っ張っているような政治が、あっという間に泡のように消えていくことは、あの「みんなの党」の栄枯盛衰が雄弁に物語っている。
 いよいよ統一地方選も実質的に最終盤。資質が問われるのは、なによりも「有権者」なのである。

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あおやま・しげと●東京都在住。雑誌や新聞紙への寄稿を中心に、ライターとして活動中。著書に『宗教は誰のものか』(鳳書院)など。