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若者支援を日本活性化の原動力に!

NPOスチューデント・サポート・フェイス代表理事
谷口仁史

 いま求められている子ども・若者支援とは何か。アウトリーチ(訪問支援)活動のパイオニアである谷口仁史氏に聞いた。

ニートの立ち直り全国2位!

 私たち特定非営利活動法人「NPOスチューデント・サポート・フェイス」((以下SSF)は、不登校・ひきこもり・若年無業者(ニート)・非行・貧困など、さまざまな生きづらさを抱えた子どもや若者たちに寄り添い、立ち直りを支援する団体です。
 都道府県単位では、全国で初めての設置となる「子ども・若者支援地域協議会」(※)の指定支援機関として、複雑かつ深刻な青少年の問題に対して、ワンストップ型の相談サービスを提供しています。
 SSFのメンバーは、教育や福祉を専門に研究する大学教授のほか、医師・臨床心理士・社会福祉士・産業カウンセラー・小中高等学校教員など多数の専門職によって構成され、それぞれの専門家が力を合わせて一人一人の課題に向き合っています。
 また、日々変化し続ける青少年の問題に柔軟に対処するため、他団体との「協働」にも取り組み、全国で1000を超える若者支援団体との連携強化にも努めています。
 これまでのSSFの主な実績としては、行政から委託された「地域若者サポートステーション事業」の運営を中心に、13万5000件(2014年3月末)を超える相談活動を行ってきたことが挙げられます。またその過程で約1万1000件のアウトリーチ(訪問支援)活動にも取り組んできました。
 きめ細かい相談活動・訪問支援の結果、SSFが関わった9割以上の家庭でひきこもり状態脱却などの改善の報告が寄せられ、「さが若者サポートステーション事業」では2185人の若年無業者の進路決定が得られています。こうした地道な活動が、佐賀県の若年人口に占める無業者の低減につながり、改善率は全国2位を示しています。

※「子ども・若者育成支援推進法」を法的根拠に設立された雇用・保健・福祉・医療・教育・矯正・更生保護分野の行政機関およびNPO団体が連携を図る横断型の官民連携ネットワーク組織

なぜアウトリーチにこだわるか

 SSFでは、たくさんの事業を展開していますが、最も力を尽くしているのが本人とご家族の同意をもとに家庭訪問を行う「アウトリーチ活動」です。
 一般論として、青少年の問題を語るときには、問題の原因が彼ら自身にあると考えがちです。たとえば、ひきこもりやニートの原因が、彼らの怠け心にあると受け止めてしまいがちなのです。
 その一方、なぜ彼らがひきこもりやニートになってしまったのか原因を探り、彼らを苦しめている環境そのものを改善しようとの発想にはなかなか至りません。
 また学校や医療機関、福祉施設なども専門性を生かして子どもたちに向き合っていますが、横のつながりがないために、自分たちの管轄の範囲内でしか状況を把握できず、かえって全体像を見失ってしまう場合があります。
 かつてSSFが支援に取り組んだケースに、祖母と暮らす少年の暴力行為が問題となったものがありました。
 学校・警察・病院・児童相談所など、いくつかの機関が介入しましたが問題は一向に解決しません。当初、関係者は本人の発達障害や性格的問題を疑っていました。ところが私たちが家庭訪問を行うと、母親による虐待など複雑かつ深刻な問題が浮かび上がってきたのです。

他人の視線が気になる若者が入りやすいよう、ベル音が鳴らされてから受付が出迎える

他人の視線が気になる若者が入りやすいよう、ベル音が鳴らされてから受付が出迎える


 母親は中学時代にひどいいじめに苦しみ、高校は中退。両親から逃げ出すように家出し、若くして少年を産み、やがて夫のDVにさらされ、育児放棄へと至っていたのです。少年を引き取った祖母も、繰り返される孫の非行に次第に精神を病み、老後のたくわえを新興宗教につぎ込んでしまいました。こうした状況がますます少年を追い詰めていたのです。
 その中で私たちは、まず母親の支援に取り組みました。社会的に孤立している彼女に、趣味のサークルに入って友人をつくるよう勧め、高校中退の劣等感を克服できるよう通信制大学への進学を応援したのです。
 その結果、母親は正社員への採用を勝ち取り、現在では管理職として活躍しています。またその過程で少年も立ち直り、親子関係も修復することができました。この経験を通じて、子どもたちを支援するためには、まず彼らが暮らす家庭こそ支援しなければならないと実感しています。

人材育成を通じた地域貢献

 SSFでは、アウトリーチ活動に携わるボランティアスタッフの戦略的な人材育成に積極的に取り組んでいます。多くの人材を育てることを通して、私たちの活動を地域社会に広げていくとともに、青少年の心に寄り添い課題解決に導く人材を、各界へ送り出したいと考えているのです。
 たとえば、医療分野を志望する大学生が、将来カウンセラーになったとき、投薬で状況が改善しない精神疾患の子にも出会うはずです。目の前の子どもが何に悩み、苦しんでいるのか。本人の周辺環境まで含めて分析し、関係機関と連携していくコミュニケーション能力がなければ問題を根本的に解決することはできないはずです。
 そのため各分野の専門職を志望する若い学生たちが、在学中からアウトリーチ活動に取り組み、実地を通して経験を積んでいくことには、子どもの立ち直りを促すとともに、自らの能力をも高める意義が含まれているのです。実際、SSFでの活動を経て教壇や医療現場に立ったスタッフに話を聞くと、訪問支援での経験が自らの仕事に生かされていると語ってくれます。
 これらのメリットを踏まえて、今後はボランティアスタッフ育成の仕組みを公的な資格制度実現につなげたいと考えています。訪問支援の取り組みが資格化されれば、活動参加の意欲が高まりますし、参加者の努力が公的に報われれば、本人のキャリア形成にも有意義なはずです。

若者支援は社会全体の問題

 私たちは、若年無業者をはじめとするさまざまな子ども・若者問題の解決こそ、少子高齢社会における重要かつ最も投資効果の高い施策だと考えています。
 私たちが厚生労働省から認定を受け、運営している佐賀県の地域若者サポートステーションでは、昨年(2013年)1年間だけでも376人の若年無業者が就職を果たしました。一人の若者が就労によって自立することで、たくさんの社会的効果が生まれます。税金の問題一つとっても大きな意義があるのです。
 たとえば年収200万円の若者が負担する所得税・住民税・社会保険料はおおよそ年額36万円になります。もし376人が同程度の金額を納めた場合には、1億3536万円の税収増が見込めることになります。
 一方、もし彼らの半数が働けないまま生活保護状態へと陥ってしまった場合、年額120万円の生活保護費を188人に支給することになり、合計2億2560万円もの予算を税金から支出し続けることになるのです。若年無業者に対する支援が、いかに社会的効果を生むか、おわかりいただけると思います。
 このような成果が見込めるにもかかわらず、2013年の「行政改革推進会議・秋のレビュー」では、専門家と称される行革委員が、サポートステーション事業の予算削減を決定し、アウトリーチ活動に対する国費支出の禁止などを打ち出してしまいました。若者支援は、国ではなく地方や民間が担えばよいとの安易な発想からです。
 あらためて若者問題に対する根強い偏見や認識不足を痛感するとともに、世論を喚起していくことの重要性を再認識しました。私たちの事業には、行政の縦割り意識や予算の「単年度主義」など、事業継続を困難にする課題が多く横たわっていますが、粘り強い努力で一つ一つを乗り越えていきたいと考えています。
 これまで公明党の皆さんには、見落とされがちな若者の問題に光を当て、熱心に耳をかたむけていただきました。自分たちの地道な取り組みをしっかりと見つめてくれる人がいること自体、前進の大きな力になります。
 私たちはこれからも多くの団体や個人の皆さんと力を合わせながら、子ども・若者支援の問題に取り組んでいく決意です。

<月刊誌『第三文明』2014年12月号より転載>


たにぐち・ひとし●1976年、佐賀県生まれ。佐賀大学文化教育学部卒業。在学中に家庭教師のアルバイトを経験。思春期・青年期の子どもたちを取りまく複雑な環境に直面し、不登校やニート状態にある子どものアウトリーチ(訪問支援)活動に取り組み始める。卒業後は大学教授ら有志を募り「NPOスチューデント・サポート・フェイス」を立ち上げ現在に至る。1万1000件のアウトリーチ活動や13万5000件の相談活動など若者支援に関する圧倒的実績から、行政や民間団体の信頼も厚く、政府系委員など多数の公職を務める。「子ども若者育成・子育て支援功労者表彰」で内閣総理大臣表彰を受賞。 「NPOスチューデント・サポート・フェイス」HP