「子ども兵士」の問題から平和を考える

NPO法人「テラ・ルネッサンス」理事・創設者
鬼丸昌也

 世界はいまだ激化する紛争や難民問題などを克服するすべを見つけていない。果たして平和時代はつくれるのか。子ども兵士の社会復帰に尽力するNPO法人「テラ・ルネッサンス」理事の鬼丸氏に話を聞いた。

音のない世界に衝撃を受ける

 私たちNPO法人「テラ・ルネッサンス」は、「地雷」「小型武器」「子ども兵」「世界平和実現のための平和教育」の4つを活動領域に、全ての生命が安心して生活できる社会の実現に取り組む民間団体です。法人名であるテラはラテン語の「地球」を意味し、ルネッサンスは英語で「再生」「復興」を意味します。この名前に人間の「蘇生」の願いも込めています。
 団体設立のきっかけは、私が大学4年だった2001年に、知人の紹介で内戦の爪あとが深く刻まれたカンボジアの地雷原を訪れたことでした。1990年代まで、地雷・不発弾による被害者が年間1000人を超えていたカンボジアでは、国中に地雷が埋められており、地雷除去現場には張りつめた緊張感から、まるで音の失われた静寂の世界が広がっていたのです。
 事態の深刻さに衝撃を受けた私は、この問題に対して何かできることはないかと考えました。人脈もお金も語学力すらなかった私でしたが、「誰かに伝えることはできる」と、友人・知人を集めて報告会を開きました。そこから徐々に人の輪が広がり、活動を始めて1年の間に、学校や各種団体などで90回の講演を行う機会を得たのです。そして在学中に、その活動の拠点として、テラ・ルネッサンスを設立しました。
 活動を続ける中で、女性や子どもでも使用可能な小型武器が、世界の紛争を激化させている事実を知りました。また元子ども兵士だった人々との出会いを重ねる中で、彼らが体に傷を負い、戦争が終わった後もPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの形で長く苦しみ続けている事実を知りました。
 さらに世界の紛争が激化する背景には、政府と反政府組織がレアメタル(希少金属)をめぐって戦闘を繰り広げる状況があり、奪い合った資源は先進国へと輸出され、携帯電話など私たちの暮らしの中に潜り込んでいる事実を知りました。つまり全ての事象はつながっていて、誰もが願う平和な社会を実現するためには、私たち一人ひとりの価値観を転換する平和教育にも、力を注いでいくべきだと気付かされたのです。

未来を奪われる子ども兵士

 私たちは、子ども兵士の問題こそ、国際社会が抱える最大級の人権侵害であると考えています。子ども兵士とは、一般には武装勢力の支配下に置かれた18歳未満の子どもたちを指します。世界には数が判明しているだけで、25万人以上の子ども兵士がいるとされています。
 たとえば、アフリカのウガンダ共和国北部の反政府武装勢力「神の抵抗軍(LRA)」では、2万人以上もの子どもを拉致し、冷酷で残忍な兵士に仕立て上げています。男の子は最前線の危険な戦闘地域へと送られ、女の子は長時間におよぶ過酷な家事労働を強いられたり、性的虐待を受け、望まぬ妊娠や性病感染のリスクにさらされています。
 子ども兵が最初に強要されるのは、自分の生まれた村を襲撃し、両親やふるさとの人々を殺害することです。故郷を焼き払うことで帰る場所を奪い、脱走を防ごうとするのです。
 かつて私が出会った元子ども兵士の少年は、12歳でLRAの襲撃を受け、自分の母親を殺害するよう強要されました。少年は母親を助けてくれるよう懇願しましたが、LRA兵士から散々殴打されたあげく、「お前が母を愛しているのはわかった。ならば鉈で腕を切り落とせ! さもなければお前も母も殺すぞ!」と告げられました。
 やむなく少年は、鉈で母親の右手首を何度も切りつけ、切断に至りました。その後少年は、戦地で傷つき、ウガンダ政府に保護されて母親のもとへと帰ることができましたが、当時を振り返った彼は、私にこう語りました。「ボクが村に戻った時、お母さんが『本当に大変だったね。苦しかっただろうね』と優しい言葉をかけてくれて、すごくうれしかった。……でもボクにはよくわかるんだ。お母さんが、もう二度と前と同じようには愛してくれないってことをね」
 子ども兵士の問題は、1人の人生を狂わせるだけではなく、家族やコミュニティー(共同体)の絆をも破壊します。一度破壊された絆を修復することは極めて困難です。地域や世代を超えて、人間の尊厳を破壊し続ける重大な人権侵害が子ども兵士の問題なのです。

人間のレジリエンスを信じる

 テラ・ルネッサンスでは、ウガンダ・ブルンジ・コンゴ民主共和国の3つの国々で、元子ども兵士の社会復帰支援プロジェクトを展開しています。1人当たり2年から3年にわたる識字教育と職業訓練を提供し、心のケアを行いながら、自立した生計を営めるよう小規模ビジネスの起業ノウハウを伝えています。
 自らの努力で手に職を付けた人々は、自信と収入を得て家族を養い、自立した生計を営めるようになります。たとえば平均月収200円のウガンダでは、卒業生の多くが平均7000円の月収を得ています。この金額は同国の国家公務員並みの所得水準です。
 もちろん全てが順調なわけではありません。幼少期に誘拐され、読み書きを覚える代わりに武器を持って人を殺すことを強要され、力さえあれば他人を思いのままに支配できると洗脳され続けた子どもが、ふつうの社会に戻って他人と円満な関係を築くことは容易ではありません。
 それでも私は人間のレジリエンス(復元力)を強く信じています。人はどれほど深い絶望の中にあっても、希望さえ失わなければ、再び力強く立ち上がることができるのです。希望とは、自分が果たすべき「役割」と「出番」を自覚する中に生まれてくるものであり、テラ・ルネッサンスでは、この役割と出番を生み出せるよう努力を重ねています。
 人は誰もが、他者の役に立ちたいという善性を持っています。これまで、ウガンダにおいて160人の元子ども兵士の社会復帰を支え続け、彼らの多くが「他人のために尽くしたい」と立ち上がる様子を見つめてきました。働いて得たお金で、近所の貧しいおじいさんにご飯を食べさせたり、母子家庭のために粉ミルクを買ってあげるなど、他者を慈しむ振る舞いをたくさん見てきたのです。
 私はこの経験から、困難を抱えた人ほど問題に立ち向かう力があり、問題を抱えた地域にこそ、課題を克服する大いなる可能性が秘められているのだと確信しています。

「微力」は「無力」ではない

 私は、人類の生存を脅かすものと戦うのが人間の正義であり、社会のさまざまな問題に関心を持ち、他者に尽くす具体的実践を示すことこそ青年の使命だと深く信じています。
 その点では創価学会青年部のみなさんが、核兵器を「絶対悪」と断じた戸田城聖第2代会長の原水爆禁止宣言にもとづき、平和運動を進めてこられたことに共感を覚えています。
 複雑な現代世界では、1つの国家、政党、団体で世界の平和を実現できるほど簡単ではありません。ましてや、そこに果たす個人の力など微力だと考える人も多いでしょう。しかし、「微力」は決して「無力」ではないはずです。私がはじめた活動も、「誰かに伝える」という小さな1歩でした。
 たとえ小さな力であっても「微力」には世界を変える大きな可能性が秘められています。その可能性を引き出すためにも、人間と人間が尊敬と信頼によって連帯すべきだと思います。
 今の日本には若者の暮らしや雇用の問題をはじめとして、難問が山積しています。ですが、大変な時代だからこそ青年が世界へと目を転じ、社会に関心を抱くことが大事なのです。
 社会に関心を抱き、その問題の根底にあるものについて考えることは、実は自分を振り返るという作業になります。すると、自分と他者、自分と社会の関係が変わり、やがては「誰かのために何かをしたい、応援したい」と思うようになる。ここに価値観の転換があり、人間としての成長があると思うのです。
 誰もが「応援体質」になる。これこそ、究極の平和のつくり方だと私は信じています。


鬼丸昌也 おにまる・まさや●1979年、福岡県生まれ。立命館大学法学部卒。高校在学中にスリランカの社会活動家・アリヤラトネ博士のサルボダヤ(精神覚醒)運動に出会い、「全ての人に未来をつくりだす能力がある」との教えを受ける。2001年にカンボジアを訪れ、地雷被害の現状を知り、その状況を伝えるべく講演活動を開始。同年、テラ・ルネッサンスを創設し、世界の諸問題に取り組み始める。講演活動は、年間100回を超え、学校・企業・行政などの多様な分野の人々の共感を勝ち得ている。02年に社団法人日本青年会議所「人間力大賞」を受賞。近著に『僕が学んだゼロから始める世界の変え方』(扶桑社)がある。テラ・ルネッサンス公式サイト