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劣悪な働き方を受け入れさせる「ブラックバイト」を許すな

法政大学教授
上西充子

若者の無知につけこみ、違法な雇用契約や過酷な労働で若者を働かせる「ブラックバイト」の問題が顕在化しつつある。若者の雇用問題の最前線で活躍する上西充子氏に話を聞いた。

若者を食い潰すブラック企業

 2000年代に入り、「派遣切り」や「ワーキング・プア」など若者の雇用や暮らしを取り巻く問題が大きくクローズアップされるようになりました。サービス残業の強要や、違法な社会保険料逃れなど、働く者の生活が成り立たないほどの低賃金で酷使したあげく、若者を使い捨てる「ブラック企業」の存在が、大きく騒がれるようになったのです。 
 悪化し続ける雇用環境は、今では大学生や専門学校生のアルバイトにまで波及しはじめ、「ブラックバイト」と呼ばれる深刻な労働問題を引き起こしています。
 たとえば、土日のいずれかは必ず勤務しなければ採用しないケースや、休憩時間なしに連続10時間以上勤務し続けるケースなど劣悪な労働条件を強いられているのです。それでいて残業代は全く支給されず、給与明細を発行してもらえない場合も珍しくありません。その結果、違法な労働に馴らされ、また本来優先すべき学業に身を入れることができない状況に追いやられています。
 政府も2003年ごろから総合的な若者の雇用対策に乗り出しましたが、十分な成果をあげているとは言いがたい状況です。
 政府が進める対策は、劣悪な働かせ方を改善することよりも、若者を「鍛えなおす」ことに重点が置かれがちです。「ブラック企業問題」が顕在化している現在においても、「最近の若者はわがままだ」とか「一部企業の問題をブラック企業だと騒ぎ過ぎではないか」などと、若者側に問題を求める傾向はなくなっていません。
 一方で若者は、自己責任論に押しつぶされています。残業代を払わない企業は、「お前の仕事が遅いからだ」と責任転嫁をしてきます。選別してやめさせたい場合も、「お前は無能だ」と心理的に追い詰めてきます。
「自分が悪い」と思わされ続けた若者が、自らの正当性や権利を主張することは容易ではありません。ブラック企業は「泣き寝入り」を狙い、そのために若者を追い詰めているのですが、若者の側は「求めに応じなければ」と思わされてしまっているのです。その先にある最悪の結果が、うつ病であり、過労死や過労自殺です。

若者を守る真のキャリア教育とは

 これまで大学は、学生の就職率を上げるためのキャリア教育や就職支援に力を注いできました。少子化の影響で大学の定員割れが起こるなど、大学間の入学者獲得競争が激しくなる中で、ビジネスマナー講座や資格取得支援、模擬面接など、就職活動のサポートに力を注いできたのです。ひと口にいえば「企業が使いやすい人材」をつくるためのキャリア教育です。
 しかしこれからは、「働く人が幸せになる」ためのキャリア教育の実現に取り組んでいくべきだと思います。普段、学生たちと接していて、「アルバイトが労働基準法の対象になるとは思いませんでした」とか「バイトでも有給休暇がもらえるなんて知りませんでした」などと言われることがあります。
 現在の若者を取り巻く労働問題の多くが、彼らの無知と、彼らの無知につけこもうとする企業の悪質さにあることを考えれば、労働法教育を中心とする総合的な権利教育を実施していくべきなのは明らかだと思います。
 私は真のキャリア教育に必要なものとは、「知識を使いこなす知恵」や「悩みを抱えた時に誰かに相談する力」を養うことだと考えています。学生たちに、自分たちが労働契約の主体であることを自覚させ、労働条件を自分で吟味したり、必要な記録を付けたりする力を身に付けさせるとともに、何か問題が起こった際には弁護士などの専門家に相談する心構えを持たせる。
 また授業などの場を通じて、若者同士を語り合わせ、自分が置かれた労働環境を客観視できる機会を用意する。お互いの情報交換によって、どのような職場が「まともな職場」で、どのような職場はそうでないのかがわかれば、無力感にとらわれることなく主体的に働く場を選ぶこともできるようになります。
 若者が自らの能力を高め、まともな企業で安心して働き続けることができる。企業も意欲的な若者をしっかり育て業績を上げていく。両者がきちんとマッチングしてこそ、社会は永続的に発展していくことができます。若者を守る真のキャリア教育の実現こそ、今最も求められる社会的取り組みの1つだと私は考えています。

脱法的な固定残業代の廃止を

 私は政治や行政に強く望んでいることがあります。今すぐ脱法的な「固定残業代(※図1参照)」の廃止に取り組んでもらいたいのです。企業の側も、長年の経験から、「残業代を支払わない」と言えば問題化することを理解しています。そのため「固定残業代」という制度を用い、「給与の中に残業代は含まれているのだから残業代は請求できない」と思わせ、50時間働こうが100時間働こうが、実質的に残業代を支払わないような不当な労働契約を結んでいるのです。
 脱法的な固定残業代制度には、低い基本給をかさ上げしてごまかすという問題もあります。また残業代を月給の中に組み込んでしまうため、本来自分がもらえるはずの正しい残業代が、一体いくらなのかを見えにくくしてしまいます。
 さらに、残業代を別途支払っている企業との適切な賃金額の比較ができないため、まともな労働条件を提示している企業が、応募者を適切に集めることができないという問題も生じてくるのです。
 1つの対策案として、企業が提示する「募集要項」の厳格な運用が考えられます。現行の法制では、採用時に提示される労働条件と、入社時に取り交わす「労働契約書」に記載された労働条件が同じでなくとも、違法性が問いにくい状況となっています。「労働契約」はあくまで合意に基づくものとされているからです。
 そのため悪質な企業は、この仕組みを逆手に取り、「給与22万円(実績)」などと記載して応募者を集めながら、入社時に「基本給は15万円で7万円は残業手当だ」と告げたりするのです。すでに入社を控えた学生にしてみれば、いまさら就職活動のやり直しもできないと考え、泣く泣く不本意な労働環境で働くことになりがちです。
 だからこそ、企業の「募集要項」に統一規格を導入し、固定残業代の制度の導入を許さず、さらに離職率などの各種データを記載するよう義務付ければ、若者を取り巻く就職問題の多くが解決されていくはずです。
 公明党は、若者の採用と育成に熱心な企業を「若者応援企業」に位置づける事業を進めていますが、脱法的な固定残業代の問題の横行を踏まえ、より幅広い企業の募集方法の適正化に取り組めば、若者の雇用環境整備をさらに前進させることができるはずです。公明党には、政治や行政をリードする活発な議論を期待したいと思います。

若者の問題は私たち自身の問題

 
 ブラック企業の問題は、一部の若者たちの問題ではありません。将来、私たちが暮らす社会を支えてくれる人々の切実な問題なのです。またパートやアルバイトなど非正規雇用が4割にも達している現在では、非正規雇用の不安定な働かせ方に対する不安から、ブラック企業の正社員雇用にしがみつこうとする若者もいます。非正規雇用・正規雇用の両方の働き方の改善が必要です。
 中高生を持つ保護者のみなさんに伝えたいことがあります。わが子の幸福を願い、就職率の高い学校に通わせたいと願う気持ちは当然でしょう。しかし就職は人生のゴールではありません。就職したあと長く勤めることができるか、また仮に離職を余儀なくされたとしても、転職活動を経て、安定した会社に就職し、働き続けることができるか。大学教育の質は、学生が卒業した後の生き方・働き方にも表れてくるのです。
 また学生のみなさんに伝えたいことは、働くことと学ぶことは別なものではないということです。たとえば『就職四季報』(東洋経済新報社)の数字を読み解くにも、普段から新聞を読みこなしていなければ、大切な情報を見落としてしまいます。会社訪問をはじめてからさまざまな対策をとるのでは遅すぎるのです。その意味で、就職することは、世の中をよく理解することであり、それはまた、日々の真剣な学びを意味するのです。
 ブラックバイトやブラック企業への就職などの若者の問題を、社会全体で考えていくことで、日本がよりよく変わっていくことを願ってやみません。

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うえにし・みつこ●1965年、奈良県生まれ。法政大学キャリアデザイン学部教授。東京大学教育学部および経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科第2種博士課程単位取得満期退学。厚生労働省所管の「日本労働研究機構」(現・独立行政法人「労働政策研究・研修機構」)研究員を経て現職。近年ではブラック企業対策プロジェクトのメンバーとして、若者を取り巻くさまざまな課題に現場の視点で取り組み、多くの政策提言を行っている。著書に『大学のキャリア支援』(編著書・経営書院)、『就職活動から一人前の組織人まで』(編著書・同友館)などがある。