【著者インタビュー】『ゼロ――なにもない自分に小さなイチを足していく』

硬直した思考をほぐしたい

堀江貴文

 出所後初の単行本のタイトルは『ゼロ』。サブタイトルから、ただただ1歩を踏み出し、前へ進もうとする思いが伝わってくる。堀江氏が率直に語るその内容は多くの読者の心に届く。今まさにゼロから新たに行動を開始した堀江貴文氏が伝えたいこととは何か。

――著書『ゼロ』では「働く」がテーマになっています。堀江さんにとっての「働く」とは?

 僕自身、働くことがどういうことかと考えていたわけではなくて、担当編集者から「堀江さんって働くことで社会とつながってきたんですね」と言われて、「ああそうなのかもしれないな」と思ったんです。
 僕にとっては自然にやっていたことを編集者が読み解いてくれて、「働く」をテーマにすることで読者との接点をつくり出していったんだと思います。
 僕は結構、周囲の人から「冗談1つ言えない」って言われます。冗談は必要ないと思っている派で、意味のないようなことをやるのが好きじゃないんです。たとえば、「血液型は何型?」みたいな会話もあんまり好きじゃない。普通は冗談を言い合って人とつながるんでしょうけど、僕の場合は「働く」ことを通して人とつながっていきました。
 とはいえ、別に旧来型の労働観を賛美したいわけじゃなくて、人とのつながりがこれだけ多面化している世の中で、「固定化した1つのスタイルじゃなくてもいいんじゃないの?」「いろんな働き方があっていいんじゃないの?」という話がしたかったんです。
 だからどちらかというと本当のテーマは「働く」よりも「生き方」なんです。その意味で、この本のエッセンスは、結構厳しいことを言っていると思います。選択肢がないからと言い訳をさせたくないっていうか、これがあるじゃないか、これもあるじゃないかと逃げ場をなくしていって、「もう言い訳は言えないよね」ということになる。
 それがこの本の1つの狙いでもあるんです。

――若い読者からは反響が大きかったようですが、世の中は変わってきているように感じますか?

 みんな生きていく中で、働き方とか就活の面接とかいろいろなことに対して、思考が硬直的になっているなと思います。しかももの凄い凝ってて、ゴリゴリですよ。それがちょっとでもほぐれれば、本当はすごく生きやすくなるのになあ、という忸怩(じくじ)たる思いが僕にはあって、そこをほぐしてあげたいなって思っています。
 本の発売後、いろいろモニタリングをしていて、読んでくれた人はすごく評価をしてくれてます。なかには周りから「なんでホリエモンの本なんか読んでるの?」みたいに言われたけど、いい本だから伝えていきますという声もありました。その点では、本屋さんで手にとるのが恥ずかしいといった状況は、だんだんなくなってきているのかなという感じはしています。
〝ほぐしたい〟との思いを多くの人に広めていくためには、僕が提供したエッセンスを熱意をもって広げてくれるインフルエンサー(他に影響力のある人やもののこと)がどれだけ頑張ってくれるかがこれから大事なところだと思います。
 ただ、そうはいってもなかなか簡単には変わらないんですよね。まだまだ思考停止になったままで拒否反応を示す人たちもたくさんいますから。
「これはもうやめようよ」っていうことっていっぱいあって、僕は摩擦を覚悟で常に声を上げてきました。そのたびに批判されてきましたけど、でもやっぱり変えていくには言い続けていかないといけないし、声を上げ続けていかないといけないと思います。

――堀江さんにとって〝新しい価値をつくる〟とは何ですか?

 こうなったらいいなって思うことは山ほどあって、それができるようになっていったらいいと思います。
 それは技術的、物理的にできないことじゃなくて、本当はできるのにやらないってことが結構あると思っていて、そこはやっていきたいですね。
 ただ、いくら新しい価値を提供しようとしても、邪魔しようとする人や言い訳をして何も進まないという現実もあって、そのへんの思考回路は理解に苦しんでます(笑)。
 わかりやすい例が〝朝ご飯〟の話で、なんでご飯と味噌汁、トーストと卵みたいにパターンが決まっているんですかね。そこに疑問を感じないことにすべての答えが詰まっているような気がします。
 ご飯もパンも別に不味いわけじゃなくて美味しいんですけど、炭水化物って先進国で飽食の現代人にとってはそんなにいいものだとは思いません。人間が飢餓と戦ってきた歴史の中で炭水化物を食べるようになったと思うんですけど、十分に文明を発達させてきた今の時代では、米とか小麦に縛られる必要なんて本当はないと思うんです。とにかく、そういうことも含めて、チャレンジをしていきたいとは思っています。
 何事も変わっていくのが本質で、守ることのほうが実はエネルギーが必要だと思います。濁流の中を必死にもがいて動けなくなるよりも、流れに身を任せてもいいんじゃないかって思うし、別に下流にいったっていいじゃないですか。
 もがいていない分、自由にいろんなことができるんですから。

<月刊誌『第三文明』2014年3月号より転載>

zoro book

『ゼロ――なにもない自分に小さなイチを足していく』
堀江貴文著


ダイヤモンド社
定価1,512円




ほりえ・たかふみ●1972年福岡県八女市生まれ。東京大学中退。実業家、ライブドア元代表取締役CEO。民間でのロケット開発を行うSNS株式会社ファウンダー。東京大学在学中にインターネット関連会社の有限会社オン・ザ・エッジを起業。2000年、東証マザーズ上場。04~05年にかけて近鉄バファローズやニッポン放送の買収、衆議院総選挙への立候補などを通して世間の注目を集め、時代の寵児として脚光を浴びる。06年1月、証券取引法違反で東京地検特捜部に逮捕され、懲役2年6月の実刑判決が下る。11年6月に収監。長野刑務所で服役。服役中もスタッフを介してツイッターやメールマガジンで情報発信を続けた。13年3月27日仮釈放。出所後初の書き下ろしとなる単行本『ゼロ』を発刊し、ゼロからの新たなスタートを切る。