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活動・情報・資源の拠点「若者センター」の設置を

放送大学教養学部教授
宮本みち子

 若者の孤立は「意識の問題」ではなく「社会構造の変化」によってもたらされた──と警鐘を鳴らす宮本みち子氏に、新たな若者支援のあり方を聞いた。

若者を支えていた社会構造の崩壊

 近年、貧困や晩婚、非正規雇用など若者が抱える問題が浮き彫りとなっています。その原因について考えるとき、世の中では、フリーター(転職を繰り返す若者)やニート(急いで働きたがらない若者)などの言葉に代表されるように、若者の「意識の変化」だと受け止められているようです。しかし現在の若者をとりまく問題のほとんどは、「社会構造の変化」を原因としています。これまで有効に機能してきた、家庭と学校と会社が一体となって、子どもを成人へと育ててきた仕組みが、制度疲労を起こして崩れてしまった。若者の問題を考えていくためには、まずこのことを強く意識する必要があります。
 昭和30年代から60年代まで、日本は高度経済成長のもとに完全雇用を実現していました。働く意欲のある生徒や学生には、学校が1人1社の就職先を用意する──いわば、卒業式と入社式が1本の「太いレール」でつながっていたのです。ですから社会人としてのキャリア形成も手厚い企業福祉の名のもとに、会社が担っていました。ところが90年代にバブル経済が崩壊し、企業が人間を育てることにお金をかけられなくなると、派遣社員や契約社員といった働き方が生まれ、若者の社会的訓練の場は脆弱な状態になりました。
 もちろん欧米でも日本と同じように不況に陥り、「太いレール」が壊れることもありましたが、欧米の場合は流動化する雇用状況に対応する形で、バイパス(迂回路)や小道となる就労支援の仕組みをつくり、若者が路頭に迷うことのないよう対策を立てていたのです。
 ところが日本は、壊れたレールはそのままに、雇用調整の名のもとに採用枠のみ絞って、これまでの新卒一括採用や長期雇用といった制度をなかなか見直しませんでした。そのため多くの若者が非正規雇用での就職を余儀なくされてしまったのです。
 それだけではなく、不安定な職場環境のなかで新たな友人づくりや、安定したキャリア形成を図ることができず、転職の機会も簡単には得られないという状況に陥ってしまいました。
 EU(欧州連合)の労働政策では、若者を6ヵ月以上失業状態にしてはいけないと定めています。北欧ではわずか3ヵ月です。若者の社会的な引きこもりを防ぎ健全な発達を促すためにも、問題の早期発見と早期サポートに努め、カウンセリングや職業訓練、就労支援など、多角的な施策を展開しているのです。

中間集団が果たすべき役割

 欧米に比べて、日本の若者支援が進まない社会的な背景には、彼らの抱える問題が世の中に伝わりにくいという点があります。高齢者や障害者であれば、体が動かなかったり病気がちであったり、誰が見ても公的な支援が必要だとすぐにわかります。ところが若者は、健康で扶養すべき家族もいない。若いのだから何とでもなるだろうというイメージをもたれがちです。また日本では困ったら親が助ける、養うという家族主義が前提になっていましたが、その親の経済状況も急速に悪化しています。にもかかわらず、社会全体としてそういった風潮をいまだ払拭できないことも、若者の社会保障制度構築の妨げになっているといえます。
 こうしたなかで、今後は国や企業と個人の間を埋めていく中間集団の活躍に期待が集まってくると思います。
 たとえば雇用に関しては、NPО法人「青少年就労支援ネットワーク静岡」が、静岡方式と呼ばれる若者サポートで大きな実績をあげています。これは、かつて日本社会のどこにでも存在していた「仕事の世話を焼くお節介なおじさん(おばさん)」の役割を、地域のボランティアがつとめ、ボランティアがもつ専門性や個人のツテを生かし、若者と二人三脚で就職活動を行っていくものです。
 この静岡の取り組みが多くの実績を残しているのは、中間集団本来の役割を果たしている点が大きいです。若者は仕事だけでつまずいているわけではありません。心身の健康や衣食住の問題、家族関係の断絶など、複数の問題を抱えて苦しんでいます。その問題を就職活動しながら、ボランティアとともに考え乗り越えていく。つまり若者への「寄り添い」が大きな成果につながっているのです。
 一方で今後の課題はやはり予算づけです。就労に困難を抱える若者の支援事業として、全国に160ヵ所ある「地域若者サポートステーション」は、委託事業として行われていますが、法的な根拠がないため、厚労省の単年度事業になっています。1年ごとの契約更新のため、1年以内に目に見える形で実績を残さなければならないのです。しかし、若者のなかにはもっと息の長い継続的な支援が必要な例が少なくありません。長期的な展望に立って事業を展開していくためには、若者支援に法的な根拠を与える特別立法が必要だと考えています。

地域に「若者センター」を

 社会構造が大きく変わってしまった以上、若者を育てる教育も柔軟な仕組みにつくり替える必要があります。これまでのように小学校から大学まで、1本のレールのみを用意するのではなく、本人の意欲や素質、経済状態などに応じて自由に学校を選ぶことが可能な教育システムをつくり上げていくべきです。
 たとえばいじめの問題も、学ぶ環境を自由に変えることができれば、本人のやり直しにつながります。また子どもの6人に1人が貧困状態に置かれている現代にあって、すべての子どもに教育を保証する必要があります。加えて、今後は「仕事」と「学習」をくさび形に入れ込み、本人の意思や環境に応じて、いつでも学びの機会が提供されるという生涯学習の時代を目指していくべきだと思います。
 同時に、ぜひ日本に導入したい仕組みとして「若者センター」があります。欧米などに普及している「ユースセンター」の若者版です。このセンターは地域の若者に遊びや活動の場を提供するとともに、ボランティア活動を通じて地域社会への参加も図ります。さらに、家庭や学校での悩みを抱えている子にはユースワーカーの見守りやサポートもある施設です。また、欧州などで見られる「若者情報センター」も参考になります。
 私はこれまでさまざまな形で若者の問題を研究してきましたが、常に感じていたのは、帰属できる場や仲間がなく、相談したり助けを求めることができない若者が少なくないことでした。若者に必要な学びや情報の場の不足も感じます。また、厳しい時代だからこそ、励まし合える仲間や頼れる人が必要です。ですから、若者のための情報や資源の提供と活動の拠点となる場が必要なのです。
 若者の問題は雇用だけにとどまらない人生全般の問題です。若者の無縁化を防ぎ、支え合う社会を実現するためにも、日本全体でこの問題を考えていただきたいと願っています。

<月刊誌『第三文明』2013年9月号より転載>


みやもと・みちこ●1947年、長野県生まれ。東京教育大学文学部経済学専攻卒業。同大学社会学専攻卒業後、お茶の水女子大学家政学研究科修士課程修了(家庭経営学専攻)。社会学博士。ケンブリッジ大学社会政治学部客員研究員、千葉大学教授などを経て現職。専門は青年社会学、家族社会学。著書に『若者が《社会的弱者》に転落する』(洋泉社新書)、『若者が無縁化する──仕事・福祉・コミュニティでつなぐ』(ちくま新書)など多数。