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30代こそピンチをチャンスに変える世代

NPO法人フローレンス代表理事
駒崎弘樹

IT企業の経営者から社会起業家に転身し、病児保育に取り組んできた駒崎弘樹氏が30代の生き方について語る。

共働きがマジョリティーの時代

 これまでの日本の社会では、働く夫と家で待つ妻が標準世帯といわれてきましたが、1990年代の中盤でその〝標準〟が崩れ、今では共働きの世帯がマジョリティーになってきています。かつてのように右肩上がりの給料を想定して、30年のローンを組んでマイホームを手に入れるといった、幸せのテンプレートのようなものはもはや過去のものとなりました。
 しかし、いまだにかつての標準世帯を前提にした価値観が根強く残っています。男は大黒柱として一家を支えなければいけないといったある種の幻想。こうした幻想にとらわれてしまい、結婚や出産の機会を逃してしまっている方がかなり多くいます。
 非正規雇用の割合が飛躍的に増えたことや、不景気によって若い人の昇給に天井ができてしまったことで、今の30代の最多年収カテゴリは300万円台となり10年前に比べると200万円も下がっています。たしかにこのような状況で、夫の収入だけで妻と子どもを養っていくのは非常に困難な時代といえます。
 しかし仮に、男性が年収300万円だとしても女性の年収が300万円弱あるとすれば、2人合わせることで日本の平均世帯年収を超せるのです。2人で分かち合って、共に働いて共に育児をして生きていく。そうすることで将来への心配を解消することができます。

共働きを機能させる「働き方革命」

 共働きを上手に機能させるためには従来のやり方を変える必要があります。
 これまでの男性は、家事や育児は妻がやって当たり前という発想でしたが、妻も共に働いているなかでは、この発想では機能しません。共働きのモデルが機能するためには、育児も家事も両方でやることが当たり前という感覚を持つことが大切です。しかし、仕事から帰るのが夜の9時、10時という従来の男性の働き方では、家事、育児どころではなくなり、だから共働きは成り立たないということになりがちです。
 そのような状況だからこそ私は、長時間労働をやめて短時間で成果を出そうという「働き方革命」の必要性を訴えています。そこで浮いた可処分時間を妻や子どものため、そして地域社会のために使っていく。1人1人が働き方を変えるところから社会をよりよい方向に変えていくというのが、私の考え方です。
 この働き方革命は30代後半から問題になってくる親の介護についても役立ちます。ひと昔前であれば、長男の嫁が夫の親をみるケースが多かったかと思いますが、共働きの場合、介護をいかに分担していくか、介護と仕事の両立が課題になります。介護と子育ては、いずれも働き方を変えないと対処できない点で親和性が高い事柄です。
 そのため子育てを分業してやっておくことが親の介護の練習にもなります。育児のときに両立した経験を積んでおくことで、「あの時と同じようにやればいいんだ」ということになるのです。

3・11で具現化された「新しい公共」

 今後の大きな流れとしては、政府は小さくならざるを得ないと思います。しかし、政府が小さくなると今まで政府に頼っていた人たちがこぼれ落ちてしまう恐れがあるため、そこを民間で支えることが必要になってきます。それが、公共を分かち合う「新しい公共」の考え方だと思っています。
 これまで新しい公共といっても抽象的でイメージが湧きませんでしたが、東日本大震災直後、あれほど新しい公共が具現化された瞬間はありませんでした。グーグルはパーソンファインダーというサービスを作って行方不明者を検索できるようにしました。市民においてもソーシャルメディアを活用した節電運動などが起こり、まさにみんなが総動員であの危機を乗り越えようと手を組んだ瞬間でした。
 この日本の底力を3・11という緊急時だけではなく、ありとあらゆるところで同様に展開できるような、多様で優しい社会の構築がこれからの日本のテーマだと思います。
 それを主体的に担うものとして、NPOやソーシャルビジネス(社会起業)があったり、そこまでいかなくても働き方を変えて地域社会にコミットするパパであったりすることが大切です。そうした形で我々自身が変わっていくことが新しい公共をつくっていくと考えています。

1歩行動を起こし社会の変革を

 私はマハトマ・ガンジーの「あなたが見たいと思う変革に、あなた自身がなりなさい」という言葉が好きです。まさにこの言葉のとおり、自分たちが〝変化〟となっていくことが社会の変革につながります。
 例えば私どものような小さなNPOでも、保育の業界に変化を及ぼすことができました。
 これまでの保育所は20人以上子どもがいないと認可されないという規制がありました。都心では20人以上規模の保育所はなかなかつくれないのが現状です。私からいわせれば、待機児童問題は、それを看過してきた者たちによる〝人災〟といえるでしょう。
 ヨーロッパでは数人の保育所が存在します。そこで、2010年5月から、待機児童問題の解消のための「おうち保育園」(9人の保育所)という空き家を使ったミニ保育所をオープンしました。これを政府関係者に見てもらったら〝これはいい〟との評価を受け、待機児童対策の切り札として国策化され、国の制度化につながったのです(2013年度より施行)。
 また例えば、ある海外のカーペット会社での実話で、1冊の本が会社を変えたという話があります。そこの社員の娘さんが読んだ1冊の本。〝ママこれを読んで会社の社長にも見せて〟と娘から言われたその社員は、実際に本を社長に送りました。それを何とはなしに読んだ社長は環境に無関心だった考え方を改めて、経営方針に変化が起こり、結果、世界で最も環境に優しいカーペット会社になりました。たった1冊の本を送る行動が会社をも変えたのです。
 更に「働き方革命」を行なって、「働き方」の成功モデルになることだけでも周囲の人に変化を及ぼすことができます。誰しもがロールモデルになり得るのです。
 単に政治に期待するだけでは、時間の無駄です。むしろ政治家は私たちの鏡で、私たちの無関心が政治家に表れ、この惨憺たる状態を生み出しているのだと思います。
 だからこそ、まずは私たちが無関心を排して、友人や家族の間でビジョンを語り合いながら、自ら1歩行動に踏み出すことが大切です。

1人の変革から課題解決策の輸出国へ

 言葉としてわかることと、見て〝感染〟することは違います。「こういういい働き方がある」という話を聞くよりも、目の前の人の生き生きと働いている姿を見たほうが、受ける衝撃は全然違うと思います。〝感染〟は強力です。その意味で自分自身が高い志を持って、いろいろな人などに、どんどん感染させていけばよいと思います。そのためにはまず、繰り返しになりますが、可処分時間がつくれる「働き方革命」をやってみることが大切だと思っています。30代は次世代の社会を構築する要の世代なのですから、私たちから変わっていくことが本当に重要です。
 日本は世界一の少子高齢化で、2050年には人口の4割が高齢者という人類史上かつてない社会が、どの国よりも早く訪れます。まさに社会課題山積みの「課題先進国」です。しかし、課題先進国であると同時に、どこの国よりも早くその課題を解決し、課題解決策の輸出国にもなり得ます。この前人未踏の問題を解決するチャンスが私たちの世代にあるのです。それができれば次に少子高齢化を迎えていく韓国や中国、シンガポール、アジア諸国、ヨーロッパに範を示していくことができます。
 我々30代が人類に貢献できる千載一遇のチャンスが目の前にあります。なんて胸が躍ることでしょう。未来を嘆く暇など、ないのです。

<月刊誌『第三文明』2012年4月号より転載>


こまざき・ひろき●1979年、東京都江東区生まれ。日本の社会起業家、NPO法人フローレンス代表。慶應義塾大学総合政策学部卒業。「子どもが熱を出したときに預かってくれる場所がほとんどないという『病児保育問題』を解決し、子育てと仕事の両立が当然の社会をつくろう」と、2005年4月に全国初の非施設型・共済型病児保育サービスを開始。07年ニューズウィーク「世界を変える社会起業家100人」に選出。10年からは待機児童問題解決のための小規模保育サービス「おうち保育園」を開始。11年内閣官房「社会保障改革に関する集中検討会議」委員に就任。著書に『「社会を変える」仕事をする』『働き方革命』など。